ハーディダーティ4
ああ、怖かったですね。初めて銃というものを向けられました。
探索者も人間です。生身で銃弾を跳ね返すような真似は一部の方々しかできません。銃は探索者がいる現代でもいまだに有効なのです。また強力な探索者の防御を貫通可能な銃弾もあると聞きます。そもそも身体能力が一般人レベルの私が撃たれれば普通に死にますしね。
ともあれ一度目の銃撃はロックメイルとフォーハンズが守ってくれました。
それから二度目が来る前に私は時間遅延解除をかけ、その直後に二度目の射撃があったので収納ゲートで飛んできた弾丸を収納し、解除を行って弾丸を返してみせました。結果として反射するような形で戻っていった弾丸は撃ってきた彼らに命中したようです。
とても痛そうでしたが、撃ってきたのは彼らですし、私はそれをお返ししただけです。どういった経緯で私を撃ったのかは分かりませんが、これで亡くなったとしても自業自得の範疇でしょう。
とはいえです。相手は銃を持った外国人の武装集団。身体も鍛えているようで烈さんほどではないにせよ、みなさんとてもマッチョさんでした。気配からしてレベルもお高いのでしょう。もしかすると銃弾を跳ね返せるほど硬い方もいるかもしれません。つまり油断はできないということです。
そこで私はアクセルを踏んでワゴン車に接近し、動きを止めるために車の手前に収納ゲートを発生させました。時間がゆっくりと流れる中、ワゴン車の前面が収納ゲートに当たってメキメキと歪んで潰れていく姿は見応えがありましたね。
それからハリウッド映画のように派手に跳ね上がったワゴン車の中にいた方々の姿が確認できましたので、胸部にそれぞれ空気弾を撃ち込みました。
これで動きは止められたはずです。あ、時間遅延解除の効果が消えましたね。ブレーキを踏みましょう。
「う、ふぉおおお」
「キャーーー」
「ピーーーーー」
愛車が急停止で制御を失ってタイヤを削りながらドリフトし、そのままガッコンとガードレールにぶつかりました。ああ、私のマイカーが……ベッコンて、なりました。なってしまいました。
なんということでしょうか。銃弾も喰らっていますし、今日は散々です。しかし嘆いている暇はありません。襲撃者を無力化できたかがここからでは分かりません。
なので私は車を降りて、襲撃者の乗るワゴン車へと視線を向けました。前面に収納空間を出しておくことも忘れません。これで撃たれても即座に返せます。
対してワゴン車の方はといえば、派手に回転しながら壁に激突したようです。我が愛車の仇は取れたということでしょうか……いえ、それよりも中の方々です。今更ながらやり過ぎたのでは……と少しドキドキしております。まあ、荒事にも慣れていそうな方々でしたし、探索者ならあの程度は問題ないと思います。多分。大丈夫。きっと。
「あ、なんか出てくるわよ」
そして横にいるティーナさんの言葉の通り、ワゴン車の中から大きな狼のような姿をした大男が出てくるのが見えました。アレは魔獣……ではなく、恐らくはライカンスロープというスキルなのではないでしょうか。
実は魔獣のような姿に変身するスキルというのはいくつか確認されております。変身すると身体能力などが向上し、専用のスキルなども扱えるようになるのだとか。中々浪漫があって羨ましいスキルですね。それにしても……
「かなり強そうですね。こっち来ますでしょうか?」
「ゼンジューロー油断しないでよ…… って、アレ? どっか行っちゃった」
構える私たちに対して狼男はこちらを睨みつけるような仕草をしたものの、すぐさま踵を返し、背を向けて去っていきました。戦略的撤退というやつでしょうか。どうやら戻ってくるような気配もありませんし、襲撃はこれで終わりのようです。
うーん、彼らは一体なんだったのですかね。
とはいえ、これ以上は私もすることがありません。ラキくんに乗って追撃……などしてしまえば私が捕まってしまいますし、ワゴン車の中の人たちの救助も彼らが襲撃者であることを考えれば危険なのでできません。
そんなわけで、私はすぐさま110番にかけて警察に連絡し、最寄りの警察署で保護してもらう運びとなりました。まあ誤解が解けるまでは容疑者扱いで、睨みつけられていたのですけれどね。
どうも市内で他にも事件が複数発生していたらしく、そんなところに銃撃戦で車両が大破し、それを行ったのが私という探索者だったためにピリピリしていたようです。不幸な偶然ですね。
そして、そのような状況でも懐疑的ながらも理性的に対応をしてくださるのですから、公僕の皆様には頭の下がる思いです。あとカツ丼は出ませんでした。自腹でも駄目なんだそうです。とても残念です。
【次回予告】
それは悪夢であった。
或いは悪夢であって欲しかった。
しかし非情な現実は容赦なく女を襲った。
そして女の内にある常識が軋んで悲鳴をあげた。