ハーディダーティ1
解析で搾り取った高純度ポーション原液十本ですが、無事売却できまして、手持ちは合わせて五百万円ほどとなりました。兄切草獣の緑色の魔石はティーナさんが何かに使えるかもとのことでしたので、売らずに彼女に渡してあります。
そしてまとまったお金が手に入った私は今、ダンジョンタウンに来ています。前回ティーナさんとフォーハンズ用のものを買ったわけですし、今回はラキくんの装備を買うつもりです。
インターネットで色々と確認したのですが、異世界人もかつて魔獣を使役していたそうで、専用の武器なども製造していたのですね。そのため、ダンジョン内の遺跡などでは時折魔獣専用の装備が出てくるそうです。当然お安いものではありませんが、ダンジョンタウン内でそうした装備を取り扱っているお店はいくつかあります。そのうちのひとつが従魔兵装専門店ヨロイムカデです。
いかついムカデが這う装飾の看板を掲げたそのお店に入るのには少し緊張しましたが、ワクワクもします。そして事前に調べた通り、その装備は店内に飾られていました。
「ラキくん、どうでしょう?」
「キュル? キュルルッ」
背中に張り付いているラキくんが少しだけ首を傾げた後、興奮した面持ちで頷いています。どうやらラキくんのお眼鏡にかなったようです。
それは大きなクロー付きのガントレットでした。主に熊系の大型従魔が使用可能なもので、実はこれ、不思議素材でできたもので、装備する魔獣に合わせて伸縮するそうなんです。つまりは大きいラキくんにも小さいラキくんにも使えるということですね。
今のままでもラキくんはパワーがありますし、身体も頑丈で爪も鋭いのですが、やはり素のままというのは不安があります。魔獣によっては虫類や甲殻類など外殻の硬いタイプやスライム系や精神生命体などの非物質系などというものも存在します。
そうした相手とも渡り合うためには攻防兼ね備えた武装化が必要です。
それに多少なりとてラキくんには怪我をして欲しくはありません。
ちなみにこれは魔力を伝導するので、非物質系にも通用するのだとか。
お値段は三百万円。遺跡産と考えれば安いのですかね。
そんなことを考えているとこの店の店主らしき方が声をかけてきました。
「なあアンタ、基本的にその武器は大型魔獣に武器を装備させたい場合のためのものなんだが……まさか、そいつに装備させるのか? さすがに勿体無いと思うんだが」
店主のおっしゃることはもっともではあります。小さいサイズのラキくんの腕に合わせた装備を作ることはそう難しいものではありませんし、武器を装備させたい大型従魔に……と店主が思われるにも仕方のないことです。
ですので、私とラキくんがこれを真に必要としていることを実際に見て分かってもらうことにしました。
「ラキくん、大きい方になれますか?」
「キュルッ」
「大きい? は!? 巨大化した! おお、変化できる魔獣とは珍しいな」
店主が大きくなったラキくんを見て目を丸くした後、笑ってガントレットを試させてくれました。大きい方でも小さい方でもスムーズに変化してくれています。巨大化の際にサイズ変更が間に合わなくてラキくんの手がキツキツになってしまうのではないかと不安でしたが、問題はなさそうですね。
「ラキっつーのかい。今まで見たこともねえが、良い従魔みたいだな」
「はい。希少種らしくてデータベースにも乗ってないんですよね。見た目はまんまレッサーパンダなのですけど」
「なるほどなぁ。まあ、確かにそいつならそのガントレットも使いこなせるだろうさ。とはいえキャッシュの方は大丈夫なのかいアンタ?」
「ええ、問題ありませんとも。それなりに稼いでおりますので」
私はスッとシーカーデバイスを取り出してそのままレジで読み取ってもらって購入しました。これでラキくんが怪我をする可能性も減らせたはずで、次の探索ではより一層ラキくんが活躍してくれるでしょうよ。次に探索する時が楽しみです。
【次回予告】
醜悪なる先人の跡。
一歩先行くその者の影は未だ掴めず。
けれども男たちの歩みは止まらない。
そして赤き悪魔が戦いの場に躍り出る。





