グリーンモンスター8
おやおやおやおや、ティーナさんが植物の怪物に喰べられようとしていますよ。いけません。これは不味いですね。ええと、まずは時間遅延です。
そして一気に駆け出し、ちゃんと狙いを定めてティーナさんの体を縛っている蔦の付け根に石砲弾をシュートです。
「あぁああ……れぇええええ…………」
間伸びした悲鳴と共に蔦から離れたティーナさんがぐるぐる回転して飛んでいきます。このままだと危ないのでゲートで空中に足場を作って駆け登り、無事キャッチ……しました。あ、時間遅延の効果が切れましたね。
「ガッ」
空中で無防備になった私に迫る蔦をフォーハンズが斬り裂いて、ラキくんが植物本体をぶん殴って退かせてくれました。植物の魔獣の根がぶちぶちと切れています。ラキくんのパワーは凄いです。そこに駄目押しの石砲弾ッです。
ビキッ ビキキィ
二発撃って、どちらも命中しました。
植物の怪物が苦しそうに悶えていますが、ここは畳み掛けるところでしょう。
私は怪物の方へ向けて収納ゲートを五つ開きました。中にはすべて拳ほどの石が入っています。つまりは石砲弾五連ということです。
「これでどうですか?」
ズガガガガガ
植物の怪物が削られていきます。けれども倒し切るには至りません。
植物の系統は身体の一部が破壊されてもコアが残っている限りは動き続けるのが厄介ですね。けれどもそのコアである緑色の魔石が露出しているのが見えました。
「フォーハンズ、アレを取り出してください」
私の指示にフォーハンズが走り出します。
強靭な脚部の蹴り上げで一気に距離を詰めたフォーハンズの槍が太い枝を地面に縫い付けると、即座に槍と盾を手放して四本の腕それぞれから内蔵のロックナイフを取り出しました。そして魔石の周囲に刃を滑り込ませるように突き刺して、グルリと魔石と植物の繋がっていた箇所を斬り裂くとズバッと魔石を抜き取りました。
「おお、凄いですよフォーハンズ!」
そして植物の怪物はその後も暴れ回りましたが、悶え苦しんでいるだけでこちらには近付かず、少しずつ動きを弱め、ついには動かなくなりました。
魔獣の種類によっては魔石を取っても動き続けられる種もいるのですね。注意しないといけません。そして今回の状況の原因ですが……
「ごめんなさい。やり過ぎたわ」
ティーナさんが土下座をしております。
その瞳からこぼれ落ちる涙は本物でした。
ティーナさんの植物操作のスキルは自分の魔力を植物に送って文字通りに操作するだけではなく、成長させたり、強化したりもできるのですが、今回は強化をし過ぎたのだそうです。
「そろそろ切り上げそうだったから、最後に思いっきり兄切草を強化したらああなったのよ」
「あれ、兄切草だったんですか?」
ちなみに後ほど確認したところ、倒したアレは兄切草獣という名前で、新種の魔獣ではなかったようです。どうやら魔力雲に近い場所で育つと、コアの魔石を形成して自力で動けるようになり、獲物を狙い始めるのだとか。
ちなみに高純度ポーション原液は採れませんでした。即成培養の弊害ですね。放置すれば、体内で原液を生成するかもとはティーナさんの言葉でしたが……もちろんナシです。安全第一。カメラも回っていますし、私たちが生み出した魔獣が別の探索者を襲ったりでもしたら目も当てられませんからね。
ともあれ高純度ポーション原液十本の作成は完了しましたので、今日の業務はここで終了といたします。帰って売却いたしましょう。
【次回予告】
何かを欲し、それを得ようというのであらば、そこに代償を払うは必然。それが世界の理。
故に人は黄金を対価する律を産んだ。
赤き悪魔。彼の者の新たなる爪。
それを得るための必要な対価とは?
今、男の覚悟が試される。