グリーンモンスター7
「それじゃあティーナさん、お願いします」
「まっかせーなさーい。ちょいなーっと」
ボロボロの兄切草の群生地の上をティーナさんが飛び回り、羽からキラキラとしたものを出して振りかけていきます。それはティーナさんの魔力です。妖精女王と自称するだけはあり、ティーナさんの魔力は量も、質も、高水準なのだそうです。
そしてティーナさんは転移と共に植物操作というスキルを所持していて、己の魔力を与えることで植物にドーピングを施すことができるのだとか。
特に兄切草は魔力の光を浴びて成長するので効果は抜群。見事に兄切草が復活して、ムクムクと起き上がってきました。
「これは素晴らしいですね。ホテルで試した時よりも随分と効果があるじゃないですか」
「あそこのプランターにあったパンジーは別に栄養が足りてなかったわけでも弱っていたわけでもないし、魔力を必要とする種類でもなかったもの。でもこいつは違う。弱っていたし、魔力も必要としていたから目に見えて効果が出ているわけね。さーて、こんなもんでいいかしら?」
「はい。ありがとうございます。十分ですよティーナさん」
新芽が切られた箇所から新しい芽も出てきましたし、ティーナさんのお力で兄切草も元気を取り戻したどころか効果も倍増した筈です。このまま収穫して売却しても良いのでしょうが、今回の目玉はここからです。ここからが私とフォーハンズの出番なのです。
「じゃあ、刈って小分けにしてもらえますかフォーハンズ」
私の言葉に従ってフォーハンズが丁寧に兄切草を刈り取っていきます。
それを私がレベル10で扱えるようになった解析機能付きの収納空間にぎゅうぎゅうと詰め込んでいきます。
ちなみに収納スキル持ちには常識的な話になるのですが、収納空間に収納したものというのはそれぞれ認識の上でタグ付け……要するに水なら水、石なら石、複数の小石なら小石A、小石Bなどのような振り分けが無意識下にされています。だから収納スキル持ちは大量に物を収納しても望んだ物を即座に取り出すことが可能ですし、一度認識したものは再度入れれば分かるので簡易的な鑑定としても扱えます。
そしてレベル10になって新たに発現した私の解析付与付き収納空間は、収納した物体を簡易鑑定よりもさらに深く解析できるようになったのです。
また私はここに来る前に少量ではありますが、事前に購入した高純度ポーション原液を収納空間に入れてタグ付けをすでに行っています。これは中級ポーションのメイン素材に使用されるもので、下級ポーション用に薄めれば大量生産もできますし、また上級ポーションの素材としても使われるそうです。
それを踏まえて収納空間に入れた兄切草の解析をしたところ……うん、兄切草内部に含まれている高純度ポーション原液を個別に認識できるようになりましたね。成功です。これは凄いですね。
それから私は瓶を取り出して、瓶の入り口に収納ゲートを開けて高純度ポーション原液だけを外に放出しました。
「ほほぉ、成功です。完璧ですよ」
これが私の解析の便利なところです。
収納したものを解析することで構成要素も個別にタグ付けを行い、それぞれ別に取り出すことが可能となったのです。これはもう解析というよりも分離ですね。
分離した兄切草の残りも取り出しましたが、水分が抜けてシオシオの状態です。
当然のことながら普通に兄切草を売るよりも加工の手間を省いた高純度ポーション原液の方が売却額は高くなります。問題は私の収納空間に入れられる量が少ないことですがそこは地道にやっていくしかありません。フォーハンズが兄切草を刈り取って分けて、それを私が収納空間に入れて抽出するの繰り返しです。
そうして流れ作業で二時間ほど経過したところで高純度ポーション原液の瓶は十本できました。
ちなみにこれ一本の売却額は約三十万円。山盛りの兄切草の束を売却するよりもはるかに高額です。正直、この能力……かなりヤバめなのではと内心戦慄しております。
さて、そろそろ切り上げましょうかね。そういえばティーナさんたちを待たせていましたが、彼女たちは今何を……
「あんぎゃーー」
「ピーーーー」
おや、ティーナさんとラキくんの悲鳴です。ふむ。アレは植物の魔獣でしょうか。おやおや、ティーナさんが食べられようとしていますね。
え? もしかしてピンチですか?
【次回予告】
過ぎたる力は緑の魔獣を生み出した。
生誕したソレは己が母をも喰らうというのか。
そして嘆きの妖精が宙を舞い、一筋の雫が零れ落ちた。