グリーンモンスター6
深化の森を進んでいくと崖の真下に到着しました。
実のところ、私がこのダンジョンを選んだ理由がこれでした。地殻変動か何かの影響なのでしょう。この深化の森はギアナ高地のテーブルマウンテンの小型版のような地形が無数に存在しています。薬草は今いる辺りでも収穫できますが、魔力雲の近くであるテーブルマウンテンの上の方がより茂っているとの話なのです。
ただ崖の上に登る道などは存在せず、上に行くには登山家の方か、身体強化や飛行系のスキルが必要となります。
そんなわけで私は吉川ゲートの時と同じように収納ゲートを足場に登ることにしますが、今回は自力ではなくフォーハンズに背負われての移動となります。私は足場として収納ゲートを出すだけなので楽ちんですね。ちなみにラキくんは小さくなって私の背中にしがみつき、ティーナさんは自力でも飛んでいけるのでしょうがサーチドローンに乗っての移動となります。
ちなみに帰りは荷物を持っているので、余裕があればティーナさんの転移スキルで降ろしてもらう予定です。
なんでも転移には見えている距離ぐらいを感覚で飛べる短距離転移、ある程度の位置を把握しての中距離転移、指定した任意の座標先に跳ぶ長距離転移があるそうです。
戦闘などで使うのは短距離転移、このぐらいの崖下を降りたり、以前に遺跡から出た時のような転移が中距離転移で、またティーナさんは座標として自分の眷属の植物を植えることで、そこに長距離転移で飛ぶこともできるとのこと。
ただ長距離転移は数日寝込むくらいには疲れるとのことなので、一応入り口のゲート付近に座標を用意してはもらっているものの使用するのは緊急避難の時ぐらいでしょうね。
「うーん、フォーハンズよりこっちの方が座り心地いいわね?」
ティーナさんがそんなことをぼやいています。
崖の上まで登り切ってもティーナさんはフォーハンズには戻らず、サーチドローンの上を自分の定位置としたようでした。手ぶれ補正機能が良い具合に作動しているのかもしれません。
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「あら、やられちゃってますね」
そして崖の上に到着した私たちですが、目の前にあるのは中途半端に荒らされた薬草の群生地でした。見たところ荒らされてから数日は経過してる感じでしょうか。恐らく売却額の高い新芽の部分だけを強引に採って放置したのでしょうが、わざわざ荒らして帰ることもないでしょうに。これをそのまま持ち帰っては査定に大きくマイナスが入りますね。嫌がらせでしょうか?
「うわぁ、これはひどいね。いっぱいあったから適当に摘んでっちゃったっぽい?」
「そうかもしれませんね。ただ私とティーナさんのスキルを試すのには良い状況ではありますか」
「確かにゼンジューローの言う通りね。ちょうど良かったじゃない」
「キュルル!」
もちろん荒らされていない方が良いのですけれどもね。
なお、新芽の売却額が高いのはポーションの原液を抽出しやすいからです。しかし今回私が行う方法なら新芽でも普通の葉の部分でも問題はありません。なので目の前の、そのまま売っただけでは二束三文になりそうな荒らされた薬草でも十分に効果を発揮するはずです。
ちなみにですが、この地域のポーションに使える薬草は兄切草と言います。名前の由来は、この草の効能を言いふらした兄が弟に切り殺された……とかなのでしょうか。いや、発見者がシャレを利かせただけでしょうね。
他の地域では別の植物がポーションの材料となっていたりしますが、外見は違っていても同じ種類の植物らしく、魔力を含んだ葉っぱから搾り取った汁がポーションの原液となります。
そして私がこの作業で使用するのは、レベル10になって使えるようになった解析付き収納空間とティーナさんの植物操作。このふたつの組み合わせによって、一儲けしよう……というのが今回の趣旨なわけです。
【次回予告】
善十郎の新たなる力。その一端が今明かされる。
命を搾り取る。それはまるで死神の業。
故に相反する新たなる命もまた生まれ落ちた。
さあ妖精の寵児よ。緑園の嬰児よ。
命を弄ぶ者たちに災いを。
今こそ叛逆の意思を示す時。





