グリーンモンスター5
現在、森の中を進んでおります。
ここらに生えている木はブナ科に近いものらしく、年に一度ドングリのような実が生ります。ただ道の駅で異世界ドングリ珈琲や異世界ドングリ独楽が売ってたりしているのを見たことはあるものの、積極的に活用されるほどのモノではないようです。
ちなみに魔力結晶も岩石などから少し生えていますが、エーテルが溜まった結晶はほとんどなく、水晶窟のように稼ぎができるほどではありません。
まあ、ポイポイっと拾った程度で楽に稼げるようなところは大体国か企業が押さえてますからね。
我々のような個人事業主、もとい探索者は地道に足で稼いでいくしかないわけです。
ともあれ、目的の薬草の群生地を目指して私たちは森の中を突き進みます。
まあ私はラキくんの背中に乗せてもらっているのですけれども。正直、私のステータスではここを通過するだけで体力が削られますのでラキくんがいてくれて本当に助かりました。
サーチドローンとティーナさんの乗ったフォーハンズも問題なく付いてきていますね。そしてこのダンジョンに生息している魔獣なのですが……
「ゼンジューロー、上から来るわよ。気を付けて」
「ガッ」
ティーナさんとラキくんが同時に反応し、遅れてサーチドローンが眼鏡型デバイスに敵の位置を示します。おお、不味いですね。であれば、まずは時間遅延を使います。
「それでは時間遅延です!」
この現象は時間遅延付きの収納空間を解除することで時間が遅延された空間を外部に放出し、私を除いたすべての物体の動きが遅くなる……という感じでしょうか。ちなみに遅延空間の影響を受けるのはラキくんたちも同様です。まあ収納空間に手を入れられるのも私だけですしね。
そして私が視線を上に向けると、大きなつちのこのような蛇の顔がすぐそばにまで迫ってきていました。アレ? これって結構ピンチだったのでは?
そう思いつつも私は掌底の構えをしながら手を大蛇に向け、即座に空気弾を撃ちます。
「ギュゥウウ…………ラァ………ァァア」
引き伸ばされた悲鳴と共に太い蛇がゆっくりと弾き飛ばされていきます。二撃目は……必要なさそうですね。あの烈さんも倒せましたし、至近距離での空気弾はかなりの威力のようです。これって本当にただの空気の塊なのでしょうか?
そして周囲の時間の速度が元に戻りました。
「危な……くはなかったわね。今のが時間遅延か。ゼンジューローがとんでもない速度で動いて、パンチで蛇をぶん殴ったように見えたわ。ゼンジューローのスキルって強力過ぎない?」
ティーナさんが地面に転がっている大蛇の亡骸を見ながらそう言いました。近距離での空気弾は殴り倒しているように見えるようです。なるほど。
「ランクFのハズレスキルと言われていたのですけどね」
「それ絶対何か間違ってるわよ。調べ直してもらったら?」
「別に不都合はありませんし、必要はありませんよ」
まあ、カラクリ自体は見当がついていますしね。
ステータス分も合わせてすべてのリソースが振られた可能性がある収納スキルの存在強度。これが高いことで収納空間のサイズが固定されて収容量が伸びなくなっている……というのは事実のようですが、収納ゲートは硬くなり、容量が増えない分、収納空間のストックが増え、スキルが成長して付与されるであろう時間遅延効果や解析能力も他とは違った効果を見せています。となればスキルの存在強度が過剰に高いことが今の私のスキルがおかしな原因なのでしょう。
ただスキルの存在強度は調べるのに結構な金額がかかるそうですし、調べたから何が変わるというわけではありません。むしろ情報漏洩に繋がる可能性を考えるなら、あえて調べない方が安全かもしれませんね。現状で特に問題はありませんし、必要になったら調べるくらいで良いでしょう。
「それでこの蛇ですが、オロチクビですか。たいそうな名前ですね」
シーカーデバイスで確認したところ、倒した大蛇の名前はすぐに出てきました。カメラを使った検索機能は優秀ですね。
「ふーん。複数で集まると尻尾の方で繋がって連携して攻撃してくるんだ」
「ああ、名前の意味はちゃんとあるんですね」
基本的に魔獣は発見者が付けるものだから、適当に名付けたのかと思いました。下ネタではなかったのですね。
「魔石以外だと牙と毒袋が売れる……と。毒袋を処理できればお肉も食べられるのですか。ただ牙も毒袋も毒の扱いが怖いですし、持ち帰って解体もできませんから魔石を採るだけに留めておきましょう。こういう時は普通の収納スキルが羨ましく思えますね」
物語の中にあるようなマジックバッグなどというようなものも見つかってはいますが、数は少なく、民間の探索者にまで出回ることはほとんどありません。
また私がダンジョンに向いていないと言われた理由のひとつなのですけど、収納スキルは互いに干渉し合うため、ひとつのパーティに複数人の収納スキル持ちは望ましくないとされています。マジックバッグはそんなことないらしいので、どこかで手に入れたいものですね。
【次回予告】
森を抜けた先にソレはあった。
そして善十郎は高みへと至る。
待ち受けるのは非情な現実。
醜悪な先人の所業を前に善十郎は何を想い、何を成すのか。