グリーンモンスター2
「おじさん、ヤッホー。って、なんかラキくん以外にも増えてんね」
私たちが地下室を出て通路を歩いていると、オーガニックのユーリさんとバッタリ出会いました。どうやらユーリさんはトレーニングルームにいたようです。トレーニングウェアを着ていて、少し汗をかいています。
「おはようございますユーリさん。こちら、新しく私の従魔になっていただいた妖精女王のティーナさんです。彼女が乗っているのはフォーハンズという自律型魔法具ですね」
「はーいどーも。ユーリお姉さん。動画見させてもらってまーす」
手を振ってそう挨拶したティーナさんはフォーハンズから生えたひまわりもどきの頭を上に向けて正座して座っています。そして、ユーリさんの視線はそんなティーナさんに釘付けです。何やら大変驚いております模様。
ちなみにティーナさんはシーカーデバイスをタブレット代わりに使って昨日からメイチューブを視聴しておりましたから、ユーリさんの動画も見ていたのでしょう。まあタブレット代わりとは言いましてもティーナさんの身長は15センチメートル、タッチ式の大型テレビを触るような感覚なのでしょうかね。
「あーしの動画を!? え、この娘喋ってる? どっちを? あーしはどっちを驚けばいいの!?」
おや、ユーリさんが動揺しています。妖精型の魔獣は日本ではほとんど見かけないものの、欧州に開いたゲートの先のダンジョンでは普通に生息しているはずなのですが。
「あの、ユーリさん。ティーナさんは珍しい従魔なのでしょうか?」
「うん。すっごく珍しいよ。妖精型ってのも日本じゃ珍しいけど、喋ってるってのはねー。一応言葉を覚えさせると話せる従魔もいるけどさー。でも、ここまで流暢に話せているのはあーし見たことないなぁ。喋れそうなタイプって大体は壊れちゃってるし」
「壊れてる?」
首を傾げる私にユーリさんが「そーなのさー」と言って頷きました。
「狂獣とかルナティックモンスターとか言われていてね。一定の知性を持っている魔獣はみんなおかしくなってるんだよねぇ。だから喋れるのはそういうのを何かしらの条件ですり抜けたか、そこまで知性が高くないのを教育したかって感じなんだー」
知性のある魔獣はみんな壊れている? 奇妙な話ではありますが、ティーナさんはそういう素振りはありませんね。出会った当初は知らない言語で話しかけてはきましたが、あの時も理性的ではありました。
「ティーナさんはとても賢い感じですけどね」
「あーしもそう思う。だから驚いてるんだけど。ね、ねえおじさん。以前に頼んでたラキくんの出演だけどティーナちゃんも一緒にお願いしたいんだけど! 駄目? 隠しておくっていうなら諦めるけどさー」
上目遣いのユーリさんのお願いに私は眉をひそめました。
配信者が従魔を出演させることは比較的ポピュラーのようなのですが、ラキくんは召喚獣、ティーナさんはとても珍しい話せる妖精さんです。
ただ探索協会からはティーナさんは普通の従魔扱いで問題ないと言われていますし、ラキくんも召喚獣だと明かさなければ多分問題はないでしょう。多分。ワシントン条約もレッサーパンダに似ているだけの魔獣には適用されません。となればティーナさんの意思次第ですが……
「配信……私、興味があるわゼンジューロー」
目を輝かせてティーナさんが頷いています。となれば仕方がありません。ティーナさんが良いのなら私としてもその意思を尊重したいと思います。
そんなわけで、ラキくんと共にティーナさんもユーリさんの配信に出演決定となりました。私の出演? いえいえ。私のような普通のおじさんが出ても面白くはないでしょうし、丁重にお断りしましたよ。
【次回予告】
新たなる旅立ちを前に男たちは牙を磨く。
向かう先は秩父。彼の地の異界門。その先にあるは深き森。
そして森は誘う。その腹の内に引き摺り込まんと待ち受けるように。





