グリーンモンスター1
「ふふふ。ナイフ、これは良いものですね」
吉川ゲート先の水晶窟の地震騒動はローカルニュースにも載ったほどでしたが、被害者は出ておらず、風化した遺跡の自然崩壊ということになって記事にされていました。
実際には違うのですが、異世界人の人体実験の話などはあまり表に出したくはないらしく、そういうことになったのだと思います。探索者になるために首裏に埋め込まれたエクステンドプレートなども異世界人の技術だそうですし、人体実験や奴隷などに結び付けられて世論が動くのを嫌ったのでしょう。
ともあれ事情聴取後、解放された私は川越メイズホテルへと戻り、今はホテルの地下室を借りて今回の拾得物の確認をしております。すでに鑑定も終えていますが、なかなかのものが手に入りました。
中でも私が一番目を惹いたのはナイフでした。
施設内で戦った四つ腕人形はフォーハンズと呼ばれる自律型魔法具だったそうで、彼らが装備していたナイフはロックナイフと言い、特別な効果はないものの固定化の付与がされていてともかく頑丈なんだとか。
ちなみにロックナイフのロックは岩の硬い……ではなく鍵をかけたイコール固定化したという意味でのロックなのだそうです。
なので、まだ試してはいませんが収納空間で飛ばしても壊れないシロモノである可能性は高いと思われます。なので今回回収した三十六本のロックナイフはすべて残しておくことにしました。
それと一緒に手に入れた軽鎧の方もロックメイルといい、同じように固定化の付与がされていました。薄く、軽く、細身のフォーハンズでも装備できるもので、私が着ている体にピッチリなプロテクトスーツの上からでも装備が可能です。
プロテクトスーツも合成樹脂製で軽くて丈夫ですが、防御力よりも衝撃吸収に重きを置いた造りになっていますので、ちょうど良い防御バランスになるのではないでしょうか。
それからフォーハンズの動力源だったマナジュエルなのですが、調べてみてもらったところ、普通のマナジュエルではなく、より高性能なハイマナジュエルというものでした。よく見ればマナジュエルよりも色が濃いのですよね。分かりづらいですけど。
これをサーチドローンに搭載したところ、消費よりも供給の方が上回りましたのでメンテナンスさえしっかりできればほぼ無尽蔵の活動が可能となりました。
そんなわけで元々持っていたマナジュエル三つは百五十万円で売却とし、ハイマナジュエルは珍しいもののようなので九つすべて残しておく予定です。そして、無傷で回収したフォーハンズなのですが……
「立ちなさい」
「ほぉ、動いてますね」
私の従魔となったティーナさんの命令で動くようになったみたいです。
遺跡内部の時のようにこちらに襲いかかってくる様子はありません。一応、魔法具などが暴走しても大丈夫なようにホテル内に用意された専用の頑丈な地下室で作業していたのですが杞憂だったようです。
「ティーナさん。頭部にひまわりのようなお花が生えていますが、何をしたんですか?」
「んー、私の眷属の植物を介して操ってるの。一応、私以外にゼンジューローの言うことも聞いてくれるようにしたわよ」
頭の花がくねくね動く様はかつてのダンスするフラワー的な商品を思い出します。あと、私の言うことも聞いてくれるのは嬉しいのですが、ティーナさん……この花、人間とかにも使えたりはしないですよね? いや、聞くのが怖いので聞きませんが。
「ティーナさん、このフォーハンズは戦闘可能なのですか?」
「問題ないわ。戦闘プロトコルはしっかり残ってるし、元の戦闘力も保持されてるはずよ」
「それは良かった。遺跡内ではバッタのように飛びかかって襲ってきたわけですし、頼もしい味方となってくれそうですね」
「記憶を見た限りだと、ゼンジューローには傷ひとつ付けられなかったみたいだけど」
「私のスキル、思ったよりも優秀なのですよ」
「知ってるけどねー」
ちなみにティーナさんは現在従魔として探索協会マーク入りの首輪を腕輪にして身に付けています。可愛くないからと色々とデコっていますが、こういうのって改造しても大丈夫なのでしょうか? まあ、怒られたらその時に考えますか。
そして、次の探索はこの新メンバーで向かいたいと思います。
吉川ゲートではお騒がせしてしまったので今入り辛いということもありますが、元々レベル10で出せるようになった解析付き収納空間を生かしたダンジョンに移動予定でしたし、ちょうど良い機会だったかもしれませんね。
【次回予告】
哀れなり。哀れなり。
生きるために恥を捨てた。
生きるために獣に戻った。
生きるために狂い続けた。
命を繋ぐために地を這った。
その意味を人々は知らず。
ただ在り方のみが残り続ける。