フェアリーブルーム6
「はい。確かに崩れそうですね。なので私もここからすぐに逃げだしたいと考えているのですが」
「甘いわね。激甘よ。途中で死ぬわ。ほら見なさい」
あ、ドアの外の通路の天井が崩れてますね。
もう帰れません。困りました。いえ、本当に困ってはいるのですよ。リアクションが薄くて申し訳ございません。ただ、こういうことに私は慣れておりません。困った……としか思えないのですよ。
「けれども私と契約したあなたは大ラッキー。さあ、私に名前を与えなさい! それで契約は完了するわ」
名前を与えるというのは召喚獣の契約と同じですね。
名で縛ることで繋がりを確定させ、契約を成立させるというわけです。
「ええと、それでここから出られるということでしょうか?」
「そうよ。このままだとここは崩れて私もあなたもそっちの獣も死んじゃうわ。だから急ぎなさい契約者」
どうやら妖精女王さんは脱出手段があるようです。最悪天井を岩砲弾で破壊して上の遺跡と繋げられるのかを試そうと考えていましたが、他に逃げる手段があるというなら、まずは言われた通りにしてみましょう。
妖精女王さんの名前でしたら……確かオヴェロン……は男で、その奥さんはティターニアでしたっけ? 長いからティー……ニア……うーん、少し捻って。
「妖精の女王であるティターニアから取ってティーナというのではいかがでしょう?」
「ティーナ? あら、良い名前じゃない。うん、『繋がった』」
妖精女王さん改めティーナさんと私の間にあるパスが完全に繋がりました。
それと同時にティーナさんから私、私を通じてラキくんにまで魔力が流れてきます。
あ、サーチドローンもこっちに。
「契約者の記憶を元に座標をセットするわ。さー転移するわよー」
「転移? お、おお!?」
次の瞬間、私の目の前は白に染まりました。そしてすぐに視界が晴れ、次に目の前に見えたのは遺跡の入り口と崖にかかっていた壊れた橋でした。
「ここは……遺跡の橋の前? あ、ラキくん? サーチドローンもみんな大丈夫ですか!?」
「キュル」
慌てて周りを見た私の視界には四つ腕人形を担いだラキくんとサーチドローンの姿がありました。妖精女王を名乗っているティーナさんも一緒です。どうやら私たちは遺跡の前の崖の手前に転移したようです。
「ティーナさん。これって転移ですよね?」
転移とは一瞬で離れた場所に行けてしまうスキルのことです。希少で私の収納スキルと違ってランクが低くてもとても有用であると言われています。短距離転移だけでも戦闘ではかなり優位に立ち回れるようになりますからね。私とラキくんも含めてこの距離まで転移できるとなると、もしかしてティーナさんはとんでもなく優秀な方なのでしょうか?
「そうよゼンジューロー。そして見なさい。あの忌々しき施設がぶっ壊れていくわ」
空中で腕を組み、仁王立ちで静止しているティーナさんの視線の先にある遺跡がガラガラと崩れていくのが見えました。入り口周辺もひび割れ、反対岸の崖が割れて下へと落ちていきます。既に壊れていた橋も根元まで一緒に落下し、暗い闇の底に消えてしまいました。
「危機一髪……だったんでしょうね。助かりましたティーナさん」
「でしょう。ふふん、私の力に感謝なさいゼンジューロー」
元気の良い妖精女王様のようです。ですが彼女の転移がなければ今頃私とラキくんが瓦礫に潰されて死んでいただろうことは事実。どうやら、心強い仲間が増えたようですね。
ところでティーナさんはなんで私の名前を知っているのでしょうか?
【次回予告】
悪夢は地の底の闇に消えた。
何もかもが終わったはずだった。
けれどもソレは男の油断だ。
激震する世界は善十郎の存在を見逃さない。
世界の律は善十郎を離さない。
そして行手を阻まれた男の選択とは?
今、善十郎最大の試練が待ち受ける。