フェアリーブルーム5
敵……というわけではないようです。
敵意や殺意を感じません。なんとなくですが。ラキくんも戸惑っているようです。ただ、私にも分かっていることはあります。それは……
ゴゴゴゴ……
あー。多分、ここ崩れますね。
どうやらこの施設、目の前でしおしおに枯れてしまった大木が支えになっていたようです。建物に侵食していた枝や根が枯れたせいでこの施設全体に波及して崩壊し始めている……そんな感じで軋み始めているのですよ。
「※※※※※!?」
妖精さんが慌てた表情で何かを言っています。
可愛いですね。ほっこりしてしまいます……が、何が言いたいのかさっぱり分かりません。さっさとこの場を去らないと潰されて死んでしまいそうなのですがね。
というか入り口のパイプがすでに崩れていたらどうしましょう。ハァ、ここで考えても仕方ないですね。妖精さんも気になりますが、やっぱりここはさっさと戻りま……
『魔獣から従魔契約を求められています。応じますか?』
突然、シーカーデバイスから電子音声が発せられました。こんな時に?
魔獣との主従関係を成立させる従魔契約はシーカーデバイスを介することでシステマチックに行うことが可能です。
元々は複雑な契約が必要なところを機械を通してワンタッチで可能にしたというのは実に現代らしくて結構ですが、従魔契約はスキルと紐付いているために私では一体のみとなります。
そもそも従魔契約は発動すること自体が稀で普通は捕獲して時間をかけて飼って人類への敵対意識を解いて信頼を勝ち取って……というのが基本のはず。
ともあれ、この場で契約というとあの妖精さんからでしょうか?
私が妖精さんを指差すとブンブンと首を縦に振っているので間違いないようです。チョロい……と言っても良いのでしょうか。妖精さんがどの程度の魔獣なのかは知りませんが、私のスキルはランクF収納ですからここを逃せば、次の機会がいつ訪れるか分かりません。ならばやれる時にやるのが良いでしょうね。
ではシーカーデバイスの『はい』ボタンをポチッと押します。
「※※※※……あぁ※※」
すると目の前の妖精さんと私の間に何かしらの繋がりができたのを感じました。それはラキくんとの繋がりとは似ているようで少し違う感じです。
この繋がりのようなもの、ラキくんとは直通という感じなんですが、妖精さんとは別の何か、多分スキルを経由して繋がってる……ような感覚です。
「※※らぁ……やっと繋がった。もう遅いのよ」
そしてパスの繋がった妖精さんからお叱りの言葉が。
「ハァ、申し訳ありません。それであなたは一体?」
「私は妖精女王! 妖精の女王様なのよ!!」
ふくよかとは言い難い胸を張る女王様です。
正直に言わせていただければ、お姫様という方が似合う外見をしておりますね。
「いいこと。落ち着いて聞きなさい。ここは崩れるわ!」
はい。存じております。だから早く逃げたかったところにあなたが接触してきたのですけれども。
【次回予告】
すべてが終わろうとした時、善十郎は選択する。
新たなる契約。世界を越える力。
かつての世界の忌むべき罪が闇に沈む時、善十郎が手にしたものとは?
そして妖精は高らかに笑った。





