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バーサスレッサーパンダ9

毎日2回更新の第一章はここまで。

本日22時に登場人物紹介を更新した後、デッカい相棒を仲間にしたおじさんの新たなる冒険が始まる新章は明日から毎日21時更新で公開していく予定です。

「ハァ」


 ため息が出るわね。

 私の名前は沢木素子。元探索者で、今は探索稼業はリタイヤして探索協会の一般職員をやっています。

 探索者協会の、特にフロントの人間は元探索者であることが多いんですよ。一般の方と探索者とではまず身体能力が違いますし、荒事への対処能力も段違いです。特に日本は探索者の犯罪に対する罰則は厳しく、制限も多いのですが、それでも後先を考えることのない、救えない馬鹿というのは一定数いるものです。なので私たちのようなドロップアウトした元探索者が職員になってるんですよね。

 とはいえ、今の私の悩みはそうした頭の悪いお猿さんたちではありません。

 私の悩みの種は、本来であれば探索者認定を取り消して一般人に戻ることも検討すべきであった、とある人物のことです。

 大貫善十郎氏。ランクF収納スキルとランクオールFのステータス。見えない水筒をひとつ手に入れた……という程度の力しかないはずの三十代男性。おおよそ考えて探索者としては最弱。絶対にダンジョン探索など向いていないはずの人物でした。

 けれどもわずか四度のダンジョン探索で独自のエーテル結晶採掘法を確立し、メガマナタラントと眷属の群れを討伐し、さらには召喚獣をも仕留めた。

 大貫氏に許可をもらって討伐時の記録映像を見させて頂きましたが、大貫氏は『尋常ではない速度で』移動しながら、収納スキルを利用した(?)砲撃を召喚獣の口の中に連続で、精密に撃ち込むことによって倒していました。何それ、怖い。

 召喚獣を召喚したのはレベル50相当の人物とのAIの解析が出ています。召喚獣は召喚者のレベルに準じた強さを持ちます。つまりあの召喚獣はレベル50相当の力を有していたはずなのです。実際、大貫氏の砲撃も召喚獣の体に傷こそ与えていましたが耐えられる程度のダメージで、現在レベル9の彼が普通に戦えば本来であれば為すすべもなく敗北していたのは間違いないはずでしょう。それを……


「沢木くん、ご苦労様」

「吉田課長。はぁー」


 休憩室にいた私に課長が声をかけてきました。

 ま、偶然じゃあないでしょうね。

 大貫氏については……というよりは出所不明の召喚獣については上でも神経を尖らせてるようだから、とりあえずでも相手の感触を聞きたいんでしょう。


「デカいため息だな。幸せ逃げちゃうぞー」

「そう思うならこの件、別の人に引き継いでくださいよ。私には荷が重いですって」

「と言ってもね。担当は君なんだからさー。裏方はやっとくから、お願い。ね?」

「裏方って。結局見つかったんですか、召喚主になろうとして失敗した人物?」


 問題はそこなんですよね。大貫氏にも説明しましたが、召喚主が殺されると召喚獣は封印石に戻るんですよ。そして次の召喚主を待つんです。つまり召喚獣が欲しければ、召喚主を殺せば手に入るというわけで……過去に召喚主が狙われたケースは何度もあります。

 ましてや大貫氏はレベル9のオールF。情報が漏れればカモにしか見えないでしょうし、召喚に失敗した人物が生きていて、あまりよろしくない人物であればその人物が大貫氏の命を狙う可能性もあります。大貫氏のことを知れば情報を他に流す可能性もあるでしょう。だから警戒する意味でも失敗した人物の素性は知っておきたいというのがあるのですが……

 けれども、案の定課長が渋い顔をして首を横に振ってきました。


「難しいねぇ。レベル50前後の探索者の動向って言っても国内だけならともかく範囲は世界中だよ」

「ですよねぇ」


 課長の言う通りに国内なら情報も入ってくるし、隠蔽されてるわけでもなければ見つかる可能性はあるんですけどね。ワールドワイドとなると話は変わります。そもそも情報連携がしっかりできていない国も多いですし、できていたところでレベル50クラスの探索者は国の保護対象です。他国に詳細な情報を渡す国は少ないでしょう。


「しらみ潰しに探してはいくけど正直期待はできないかな。それで召喚主さんの方はどうだった? 話聞いてビビっちゃってた?」

「いや、そういう感じではなかったですね」


 大貫氏の顔が頭に思い浮かびましたが、別れた時も以前と変わらず緊張感のないままでした。


「そうなんだ。まだ探索者になったばかりだっていうのにね。かなり図太い人物なのかな。君から見て大貫氏ってどういう人? 実際に見てみるとオーラある?」

「いえ、いかにも普通のおじさん……という感じですね。あの実績に見合っているとは思えない、むしろスキルもステータスも書面上のランクFっていう方がしっくりきそうな、荒事とは縁のなさそうな人ですよ」


 そう。普通なんです。本当に普通のおじさん。実際、探索者になる前はダンジョンとは関係のない普通の会社に勤めていたらしいですし。けど、あの人はおかしい。やっぱり何かがおかしい。だって……


「ただ、笑ってたんです。あの人」

「笑ってた?」

「はい」

「殺される可能性があると伝えた時に、自然と笑みを浮かべてたんですよ」


 あんなことを言われたら困惑するか、怯えるのが普通だと思う。けど、あの人は違った。多分あの時、あの人はなんていうか、そう……ワクワクしていた。そう思う。だから私はあの人が私の常識の範囲外にいると感じたんだ。

 そんな私の言葉と様子を見て課長の表情も変わりました。


「沢木くん、大貫氏のライセンス習得時の精神鑑定は?」

「評価としてはB+。内向的ではありますが、情緒に不安定なところもなく、精神も安定しているという結果でした。当然探索者としては積極性が薄いという点はマイナス評価でしたが問題はなしとなっています」


 実際、話している限りでは普通のおじさんなんですよね。だからおかしいって話なんですけど。


「なるほどねぇ。ま、とりあえずは様子見かな。沢木くんは引き続き彼の様子を見といて。希少な召喚主というだけでなく、ウチのお得意様になる可能性があるんだからさ。実績だけ見ればね」

「はい。やっぱりそうなりますよねー」


 課長の言うことはごもっとも。

 探索者と言うのは誰も彼もが続けていけるものではなく、ある程度の収入が得られるようになればそれで落ち着くし、纏まったお金が入れば引退するし、危険な目に遭えば死ぬし、生き残っても恐怖が刻まれて続けられなくなったりもする。私のように。

 だから探索者の上位勢は本当にひと握りなんですよね。元探索者から言わせてもらえば上位探索者は基本全員頭がおかしいです。

 でも、そういう人物ってのは探索協会にとってもありがたい存在ですし、その担当になるというのは出世街道に乗るということでもあるのですが……なんというかあの人、今後もやらかしそうな気がするんですよね。誰か担当代わってくれないかなー。

 まあ、それはそれとしてあのでっかいレッサーパンダ、映像では怖かったですけど……大貫さんの召喚獣になったのなら会わせてほしいですね。モフらせてほしいですね。

 今度お願いしてみましょうか。

【次回予告】

 異界の地に再び男が舞い戻る。

 死の鎌を首にそえられようも男の歩みを止めることはできない。男は探索者。危険に魅入られ、異なる世界に挑む者なり。

 そして男の呼び掛けに応え、赤き悪魔が顕現する。

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収納おじさん【修羅】の書籍版1巻はアース・スターノベル様から発売中です。
WEB版ともどもよろしくお願いします。

収納おじさん書影

【収納おじさん特集ページはこちら】
キャラクター紹介や試し読みが見れます。
― 新着の感想 ―
[一言] 修羅の兆候が見える見えるw 他者からの評価でわかるおじさんの異常さでしたねー この低レベルでこの異常さ……目を離したら突然変異でも起こしそうですわw
[一言] 命を狙われて笑みを浮かべるごく普通の修羅のおじさんェ……
[一言] 毎回次回予告のテキストがしっかり練られていて楽しみです
感想一覧
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