ブリテンアライ04
ジャイアントパンダ化するか、マッスル化するか等等色々悩んだ結果、こうなりました。
今章は、これにてお終い。明日朝更新の登場人物紹介更新後は書き溜め期間に入ります。
次章でまたお会いしましょう。
あの熊たちとの戦争から一週間が経ちました。
あれからどうなったのか……ですが、上野ゲートまで戻る途中で救援に来ていた探索者たちと合流しまして、彼らには倒した魔獣からの素材の回収をお願いすることになりました。
今回は緊急出動ということもあって、手数料もかなり持って行かれることになりましたが、倒した数が数ですので自力で回収するのも大変ですし、放置すれば他の魔獣の餌になってしまっていたでしょうから、必要経費と考えています。
その後にゲート前で先に脱出していたゴールドクラブの方々とも再会し、全員が無事なのを確認した後は報告だけをしてその日は解散し、後日にラファールさんと探索協会経由で再度会って正式に同盟関係を結ぶこととなりました。
その結果として沢木さんが手続きのためにイギリスへと旅立つこととなったようですね。私も行きたかったのですが、探索者が戦力として派遣される形ではない渡航を行うのは今のご時世では難しく、さらに保護探索者制度で制限がかかっている身では尚更無理とのことでした。まあ、そこら辺は納得した上で探索者になったのですから仕方のないことなのですが。
ともあれ、色々トラブルやイレギュラーはありましたが、最終的に今回の探索は大成功と言えるものになりました。私、ラキくん、ティーナさんのパワーアップ、アダマンタイトとアダマンストリングという収入源も見つかり、円卓という新しい取引先も得ました。新しい収入の目処もついたことで、今後は最高の探索者になるべくより一層動きやすくなったと言えるでしょう。
また、今回得たモノが実はもうひとつありまして……それは新たなるフェアリーアーティファクトです。
ベルト型魔法具で名称を『ドミナンスコア』。命名はラファールさんです。そして、その効果は……
「うーん。これはヤバいわね」
「キュルッ」
ティーナさんとラキくんが強張った顔をして私を見ています。
現在、私はホテルの自室でドミナンスコアを試しているのですが、これは前回の探索で倒したモノクロバッドベアの統率個体の魔石から作られたベルト型のフェアリーアーティファクトでして、簡単に言うと周囲にプレッシャーをかける効果があるという感じのものですね。
「ふむ。自分ではなんとなくモヤモヤーという感じで放ってるイメージなのですが、受け手としては違うということでしょうか?」
「そりゃあ、当人はそうでしょ。私とラキはゼンジューローの一部みたいなものだから効果は薄いけど、これを他の人間が受けたら……あ!?」
ガチャ……と扉の開く音がしました。
「うぉおおお、おじさん。たっだいまー。一週間ぶりーーーって、って、にぎゃあぁあああああ」
部屋に入ってきたユーリさんが顔を合わせた途端に叫んで倒れてしまいました。
彼女はしばらく出張していたのですが、そういえば今日帰ってくると言っていましたね。
というか大丈夫でしょうか。
「ちょっとゼンジューロー。それ止めて。ユーリだってアレを不意打ちで食らったら危ないんだから」
「あ、はい。そんなに効果があるものなのですね」
私がベルトのスイッチを切ると私の内側からモヤモヤーと出ていたものが消えました。それと同時にユーリさんがヨロヨロと起き上がりました。
「うわぁ……ユーリでこれなら一般人なら本当に心臓が止まるかもしれないわよ」
「ははは、まさか」
「まさかじゃないし。おじさん、今の何? 厄災級の威圧喰らったんだけど? あーし、普通にヤバかったんですけれども。も、も、漏れかけ……いや、漏れ……漏れ……いや、超ヤバかったんですけどー」
ああ、ユーリさん。大人ですのに。いえ、ここは指摘しないのが優しさというものなのでしょう。
「ごめんねユーリ。新しいフェアリーアーティファクトをゼンジューローに試してもらってたのよ」
「新しいフェアリーアーティファクト?」
「そうそう。ゼンジューローと親和性の高い私やラキでも結構キツかったし、ユーリぐらいの上級探索者でも不意を打ったら漏……叫ぶぐらいに効果があったみたいね。ほら、アレよ。ゼンジューローの腰のベルト」
ティーナさんが指差した先にあるのは私の腰に巻かれているベルト『ドミナンスコア』です。
作りは特撮ヒーローの変身ベルトのような形をしているのですが、魔獣植物のシルヴァーナが装飾代わりになっています。そのため。シルバーアクセサリーのゴツいベルトのような、なかなかに豪華な見た目なのですよね。
「つまり今のとんでもない圧は、その魔法具の効果ってわけ?」
「そうですね。熊林渓谷で倒した二体の統率個体のウチの一体『プワンダーベア』の魔石を使ったものです」
「プワンダー……いいのそれ?」
「そう鳴くのだから仕方がありません」
プワンダーベアはプワンダーベアであって、お隣の国の外交手段に使われている動物とは別の生き物です。ちなみに名付けたのはラファールさんです。「そう鳴いたのだからそれでいいであろう」とのことでした。カッコウとかウシガエルのようなものですね。
「ふーん。それでそのプワンダーベア? って、確か広範囲攻撃を行うアスラベアと違って、身体能力の高さに特化したタイプだったってのは聞いていたんけど……そんなプレッシャーを放つ魔獣だったとは烈から説明なかったわよ」
「まあ、そうでしょうね」
ユーリさんの言葉は確かで、実際プワンダーベアは肉弾戦を得意としていて、特殊な攻撃などもなかったようです。純粋なパワーとスピードで押し切るタイプ。全ての攻撃が必殺だった恐るべき相手だと御剣さんはおっしゃっていました。私との相性は良かったようですが、ランクAなのですから、本来はドラゴンとも渡り合える強敵なのです。
「プワンダーベアは単純に自分のパワーで勝負するタイプなのはその通りよユーリ。だから私も身体強化系の効果があるのかと思ったら、あいつが持ってたスキルは自分の力をプレッシャーに変換して周囲に知らしめる能力だったのよ」
つまりプワンダーベアのあのパワーはスキル的なものではなく、ただの筋肉によるものということですね。
「あー、素の力だけで勝負してくるタイプか。そういうのは能力が総合的に高いし、隙がないから地力で勝てないし、大技も出しづらいから近接戦主体の探索者だと不利。烈や御剣さんが苦戦するわけね」
「だからねー。多分だけど、これは統率個体としてのスキルなんだと思うわ」
「なーるほど? 戦闘は地の力に振り切ったから、統率するための能力を発現させたってことかにゃー。あーしでも使えるー?」
「使えるわよ。けど、スキル強度に依存しそうだし……ユーリは多分自前で同じようなことできるでしょう? 殺気とか闘気とかそんな感じのやつを?」
「あー、そーいう感じかー。うんうん。あーしは自力でできるねー。んで素人のおじさんは自分ではできないからそのベルトを使うわけかー。まあ、おじさんの中のもののプレッシャーを抽出して放出すればそりゃあんなやべーって感じにもなるかー。あーしも納得だわー」
ユーリさんがティーナさんの言葉でうんうんと頷いています。ユーリさんは自力で圧がかけられて、私は魔法具の補助ありきで使えるということですか。まだまだ私は探索者としては未熟ということなのでしょうね。
「使い勝手が悪かったら円卓に売っぱらうことも考えたんだけど、ゼンジューローが使うのが一番良さそうかな。一応、やり過ぎないように調整できるようにはしておくわ。一般人だと喰らったら普通に死ぬから」
「……死にますか。怖いですね」
「まあ武器だからね。武器ってのは怖いものなのよ」
そうですか。そうですね。こちらの不手際で殺人を起こしてしまうのは当然、許されざることです。安心安全にいきたいものですね。
それにしてもティーナさんも今回の魔石の魔法具化やラファールさんのフェアリーアーティファクトの杖から知見を得て、色々と応用範囲が広がったようで、以前に比べるとやれることも増えているようです。今回の探索でティーナさんもずいぶんと頼もしくなりました。
「ああ、そうだ。今のティーナちゃんの言葉で思い出したけど、おじさんが円卓と同盟を結んだってマジなの?」
「はい。それは本当です。とは言っても私はただの添え物で、ティーナさんありきのものですけれども。烈さんから伝わってると思っていましたが、そう言えば電話でも聞いてはきませんでしたね」
「いやー。外だとどこに耳があるか分からないからねー」
上級探索者ともなると、そういうことにも気を配らないといけないのですね。大変です。
「フェアリーアーティファクト作成もあっちにバレちゃったしねー。どう動くにしろ、変に広まるのも困るし、だったらあっちが友好的に振る舞ってるうちに良い条件で関係結んだほうがいいじゃない?」
「まー、そーだよねー。けどバレちゃったかー。だったら仕方ないけどさー。イギリスにいっちゃわないよねー?」
「ないない。というか、それは駄目って言われてるし」
「日本政府から引き抜きは止められているようです、保護探索者制度もありますので」
「ふーん。ならいいやー。ラファールとは一応知人ではあるんだけどさー。おじさんを奪おうってんなら、ちょーっと痛い目見てもらおうって思ってたんだけどねー」
「なるほど。そうはならなくて良かったです」
雷帝と氷帝のどちらが強いのかは気になりますが、今のユーリさんは大切な時期ですし、無理をして大事なお体に触っては困りますからね。
「じゃあじゃあ、ちょっと安心できたところでさー。ラキくんとティーナちゃんに仕事持ってきたんだー。おに肉の仕事でねー」
「私とラキの?」
「キュル?」
「そそ。ちなみにおじさんは着いてきちゃ駄目な案件でねー」
「駄目なのですか」
私はあくまでティーナさんのマネージャーです。なのでお呼ばれされないことがあったとしても仕方がないとは思うのですが、駄目と言われるとそれはそれで悲しくなりますね。
「いやさー。スポンサーの誕生パーティにお呼ばれしたんだけどさー。おが肉一同でって要望でねー。スタッフも連れては行くんだけど人数は絞られててねー」
なるほど、そういう事情ですか。
まあユーリさんを始め、凛さん、ティーナさんもいますし、他のおが肉のメイチューバーもみなさん華やかですからね。私がマネージャーというのも建前ですし、そんなところに普通のおじさんが顔を出すのは……というのもありますか。
「分かりました。私はお留守番しておりますよ。それでスポンサーの誕生パーティというと結構な大物の方のようですが、どなたの誕生日なのですか?」
「それがね。そのー」
ふむ? ユーリさんの目が泳いで……る?
「えっとねー。前島……真一さん」
ああ、なるほど。
「凛のお祖父ちゃんで」
「サヨコのお父さんで」
「私の元義父ですね」
では、呼ばれないのも仕方ありませんか。あの人にはずいぶんと嫌われてますからね、私。
【次章予告】
それは海の上の暗闘。
穏やかなる船上の招宴は
王権に群がる獣共の狂宴へと変わり、
歓声は悲鳴へと転じていく。
すべては因果。すべては宿業。
すべては妖精の縁が生み出した必然。
故にその先に起こる悲劇も必然。
故にその先に起こる喜劇も必然。
そして天よりあの男が降ってくる。
それは悲劇も喜劇も喰い破る狂った犬。
或いは、刻をも支配する絶界の魔人であった。





