ブリテンアライ03
※善十郎に変な人間が近づかないように佐世子さんは表向きは善十郎と前島グループの繋がりがないように仕掛けています。結果、円卓は善十郎の元嫁や娘まで辿り着けなかった模様。前島グループの情報セキュリティは優秀でした。
なお前島翔は佐世子の兄。離婚のきっかけの人。ボンクラ。
「厄災級? 大袈裟なことを言うねラファール。けれども、オオヌキは実際にテイムしているじゃあないか? 僕の強度9の聖剣スキルなら」
そう返す僕にラファールは再度、首を横に振った。
『まったく以て足りないのである。クィーン・ティーナは別格なのだよアーサー。アレは本当に厄災級に近い魔獣なのだ。知性を持ち、恐らくは弱体化してなお、存在としての格が人間のスキルでは紐づけることはできない……アレはそんな怪物なのだ』
「真実か?」
『吾輩の妖精眼は確かなのである』
そう答えるラファールの瞳が清浄を示す蒼色に煌めいている。彼の瞳は、妖精眼という特別なモノだ。これはダンジョンとは関係のない、彼の家の異能。円卓の中でも最高機密にあるその瞳は『スキルの強度』すらも把握が可能なシロモノだ。まあ、解析の意味が薄い純粋な身体能力特化の魔獣にはあまり意味がないんだが。
『契約を解除することはおそらく可能ではあるな。契約自体は普通の従魔契約であるのだから。けれども契約可能な人類はミスター・オオヌキのみなのだよアーサー。少なくとも吾輩の把握している限りはな』
「ゼンジューロー・オオヌキ、彼は強度10のスキル持ちということか」
『現在の定義で言えばそうであるな』
現在の?
それはどういう意味だろうか?
『今はミスター・オオヌキの人間性に縛られているが、次の使役者も現れず、アレが自由になって、妖精の本能のままに行動をし始めたらどうなるか……それこそ国がひとつやふたつ消えてもおかしくはないのだよアーサー」
ラファールの言葉には若干の畏怖のようなものがあるように感じられた。それはどちらかといえば、クィーン・ティーナに対して……というよりもオオヌキに対してのものか。
「あの『ふたり』を離すべきではない。敵対もな』
「君がそこまで言うとはね。クィーン・ティーナはともかく……ゼンジューロー・オオヌキか。彼は一体何者なんだい?」
『それはそちらの方が分かっているのではないかアーサー?』
「表向きの情報だけだけれどね」
ラファールの言う通り、ゼンジューロー・オオヌキについては事前に調べている。もっとも気になる情報は何も出てこなかった。
「調べた限りではあるが、彼は当たり前の、とても一般的な日本人だよ。両親は死去していて、兄弟や親しい親族もいないようだが」
『迷宮災害であるか?』
「いいや。三年前に世界的に流行った病があっただろう。アレにやられたようだね。高齢出産だったらしく、当時の時点でどちらもそれなりの年齢だった。その両親もトーホク地方の農村の出で、母方の先祖にジンジャのカンヌシがいたが、そこからもオンミョージなどの術師の家系との繋がりはなかったな。彼自身の学歴は大学中退。その後に勤めた会社は昨年倒産し、二ヶ月前に探索者になったとあるわけだが……」
離婚歴はあるが『相手方の女性も一般人』で特におかしな点は見当たらなかった。『子供もいない』のだから、彼の性質が受け継がれている者もいないはずだ。
『そうであるか。それが事実であれば、やはりミスター・オオヌキ自身が異常個体である可能性が高そうではあるな』
ラファールが何か考え込んでいる。彼の妖精眼がオオヌキの中の何を捉えたのか。それも気にはなるところだが、ともあれ問題はクィーン・ティーナだ。
「ガウェイン卿。クィーン・ティーナが君の眼が認めた妖精の女王で、フェアリーアーティファクトに精通しているのであるならば、彼女がアヴァロンの門を開ける可能性もあるというわけだな」
『ふむ……アヴァロンの門であるか。アレも確かにフェアリーアーティファクトではあったな』
「そうだ。アーサー王伝説終焉の地。妖精たちの住まう伝説の島に通じる門だよ」
『熱弁を語るのは結構。けれどもあの門は、我々が勝手に名付けただけの別物である。あまり名に引っ張られ過ぎるなよアーサー』
そのラファールの忠告に僕は苦笑するしかない。少々趣味が入り過ぎているとは理解しているが、アヴァロンは我々に必要だ。英国政府もいざという時の保険を求めている。安全な避難所を。
そのための我々で、そのためのスプリガンだったはずなのだけれどね。
「分かっているさ。けれども期待せずにはいられない。恐らくスプリガンたちも同じなのだろう。だからこそ疑問ではあるのだけどね」
僕はモニタに映し出されている、もうひとつの報告書に目を向けた。
そこにはMAEJIMAの文字が描かれている。こちらはラファールを日本に派遣したもうひとつの、そして本命の案件の報告書……つまりはスプリガンへの手がかりだ。
『前島グループであるか。連中と接触した日本の大企業』
「そうだ。これまでコソコソと動いていたというのに、連中はわざわざアレを我々に見せつけるように出してきた」
報告書に載っているのは前回の迷宮災害の被災地のひとつである日本の秋田県の画像だ。画像に写っているのはリン・マエジマという少女で、オーガニックというクランに所属し、彼女は迷宮災害の対応のために出動したらしかった。問題は彼女の持つ、透き通った宝石のような剣だ。
『意匠に違いはあるが、間違いなく。形を変えようとも魔法回路のパターンまでは変えられないから、必然的に形状は同じものになるのであるな。ふん。素材を変え、多少装飾も変更した程度で誤魔化せると思ったのであれば、吾輩たちを舐め過ぎなのである』
ラファールも憤っている通り、少女の持っているものは我々にとってもっとも重要な鍵であり、多少の偽装を施そうと誤魔化せるものではないシロモノだ。だというのにヤツらはそれを手放し、なぜかこの極東の少女に持たせて表の舞台に登場させた。必死に探している我々をまるで嘲笑うかのように……だ。
「前島グループは中核三十社、関連会社百社以上の日本国内でも有数のグループ会社で、写真の少女は総帥であるシンイチ・マエジマの娘であるサヨコ・マエジマの娘だ。『父親までは』セキュリティがかけられていてたどれなかったが、リン・マエジマ当人の素養を考えれば父親も相当の人物なのだろうね」
こちらの手が届かなかったことを考えれば、父親は前島グループと懇意にしている風間一門の人間かな。現在所属しているのがオーガニックであることも踏まえれば、オーガニックのサブリーダーであるサダモトという人物がそうである可能性が高いと報告は上がっていたが。
『加えてスプリガンが日本で接触した人物はシンイチ・マエジマの息子ショウ・マエジマであるな。リン・マエジマの叔父ということだが、当然彼女があの剣を手に入れた経緯にはそいつが関わっているはずなのである』
「だろうね。だから問題は」
彼女の持つ剣は円卓にすら詳細の明かされていない、大英宝物館で封印されているはずのもっとも重要なフェアリーアーティファクトだ。その剣の名は……
「宝剣レガリア。なぜ大英宝物館の最重要機密を彼女に渡したんだスプリガン。いったい連中は何を考えている?」
【次回予告】
風間ユーリは危機に瀕する。
こぼれた雫は彼女の心に陰を作り、
男は己の所業に恐怖した。
それは油断。それは緩み。
大貫善十郎よ。目を背け、懺悔せよ。
風間ユーリよ。涙を拭え。
そして再び、花のような笑顔を君に。





