ブリテンアライ02
※※2/13 21:00〜23:00にかけて前話が不完全な内容で掲載されていました。現在は修正済みとなります。400文字くらい増えましたが文章の手直しメインです。吉田課長への舌打ちとかが増えているぐらいで、内容はほとんど変わらないので読み返す必要は特にないです。※※
英国には姓名を自由に変えられるディードポールって制度があるらしいですね。
かつて僕は、ミハエル・ウィットモアと呼ばれていた探索者だった。
けれども英国政府からとある仕事を請け負った際に、僕は自分の氏名やクラン名をアーサー王の物語になぞらえて改名することにした。そこに自分の趣味が混ざっていなかったとは言わない。憧れがあったのは確かで、自分が得たスキルは主からの天啓であると確信していたからね。自国の象徴的な探索者、象徴たるクランとなるために必要な対応だったと今も確信している。
故に現在の僕の名はアーサー・ペンドラゴン。彼の伝説の王の名を受け継ぐ存在、英国の探索者の象徴だ。
そんな僕がリーダーをしているクラン『円卓』の主なお仕事は、妖精郷と呼ばれるダンジョンや、そこから出土したフェアリーアーティファクトの管理、また妖精郷の壁画に描かれた御伽噺の研究等だ。ただ、三ヶ月前に厄介な問題が発生した。
僕たちの前に妖精郷を管理し、大英宝物館ができた際にそちらを任されることになった組織スプリガンが突如としてを英国から離反し、多くのフェアリーアーティファクトを奪って姿をくらませた。僕らが集めた分のフェアリーアーティファクトはそれほど被害はなかったけれども、それでもかなりの数を持っていかれた。
それから連中はフェアリーアーティファクトをばら撒いて資金を集めつつ、アンダーグラウンドで暗躍し始めたんだ。当然ウチのMI5、MI6も動いたのだけど、そんな彼らが捜査する過程で浮上したのが極東の国、日本にいる探索者だった。
ゼンジューロー・オオヌキ。こちらで把握していない、存在しているはずのない若芽のフェアリーアーティファクトを持ち、何よりも言語を介する妖精を従魔にしている探索者だ。
彼の背後関係にスプリガンがいないのはすぐに確認できたが、そうなると別の問題が出てきた。彼の持つフェアリーアーティファクトだ。うちで把握していないソレの出どころ次第では大きな問題になると考えた僕は円卓の幹部をひとり派遣したのだが……
「やあラファール。日本の方はどうだったかな? あの国は空気がショーユ臭いとマーリンが言っていたが本当かい?」
目の前のモニターに映っているのは日本に送った我が友にして円卓の幹部、ガウェイン卿『ラファール・ハウザー』。見た目は完全にシロクマだが、正確に言えば彼はスキルによって変化したシロクマ型の獣人だ。ちなみに人間の姿はもう五年は見ていない。
『うむ。アーサーも元気のようで何よりである。ショーユ味の空気というのは、マーリンの戯言であるな。空気が湿気っている感じはあるが、塩の香りも大豆の香りもしないのである』
「はは。確かにマーリンの言葉は話半分に聞いておくのが正解か。君の麗しのジョセフィーヌまで彼女が伏せていたのはさすがに笑ったがね」
『あいつ……戻ったらシメるのである』
ラファールが決意した顔でそう口にした。
二ヶ月前に喚び出した召喚獣に殺されかけて最近まで寝込んでいた彼が探していたのが、ジョセフィーヌと彼が名付けたレッサーパンダの召喚獣だ。それを知っていて隠してジョセフィーヌの今の召喚主に接触させたマーリンは確かにやり過ぎだったとは思う。
もっとも、当のジョセフィーヌがオスだったためにラファールも結局は諦めたようだけれどね。召喚獣の契約解除は手間もかかるし、成功率も100パーセントではないから、諦められたのは良かったと思うよ。
「お手柔らかに頼むよ。それよりも首尾はどうなんだい?」
『詳細は報告書は送ったはずだが?』
「ああ、けれどもいくつか情報をはぶいているだろ。君の口から直接聞きたいんだ」
『ふむ。そうであるな。今回は色々とトラブルに見舞われたし、死にかけたのであるが』
「正直に言って冷や汗をかいたよ」
千体を超える熊型の魔獣の群れの中心にラファールが放り出されたと書かれた報告書を読んだ時には、本当に焦ったさ。ラファールの実力は確かだけど、彼自身は魔法使いタイプの後衛職。本来の彼のスタイルは前衛の裏で移動砲台兼移動城塞役だ。だからこそ、彼は護衛にミツルギを常に連れ歩いているのだけれど、魔獣災害の規模の相手をするのはさすがに火力不足だった。よく生き残れたものだよ。
『結果から言えば、大成功だったのであるな。ミスター・オオヌキやクィーン・ティーナとも良い取引ができたのである』
「妖精女王、本物だったということか」
『であるな。フェアリーアーティファクトの作成、太陽の兵団らしき護衛の人型魔法具。年代から考えて魔王本人ではないだろうが、その力は確実に受け継いでいると見るべきなのである』
その言葉に私は頭を抱えた。
それは報告書にも書かれてはいる内容だが、提出先を考えればそこに込められた意味が他所に発覚されることはないだろう。
妖精女王は、円卓でも一部の人間にしか情報が公開されていない妖精郷の御伽噺の壁画に最初期に登場する人物だ。
あちらの世界の地母神に相当する神の分け身、すべての妖精の祖。妖精兵装と太陽の兵団を用いて、大陸の三分の一を侵攻したとされる最悪の魔王。それが妖精女王だというのが、ウチの研究者が壁画の内容から導き出した答えだった。だからこそ万が一の場合、ラファールは自分が自爆してでも仕留めると言っていたんだが……
「原種のルーツを受け継いだ最上位種といったところか。太陽の兵団らしき護衛の人型魔法具とのことだったが、それは『人間にも』適応できそうであったのかな?」
『さてな。けれどもあの頭部が聖日輪草であるようだったことを考えれば、生き物に対してこそ有効であるとは思うがね』
聖日輪草は生物に植え付けて呪いを吸収する、あちらの世界の寄生植物型魔獣だ。妖精女王はそれを媒介に生物を操っていたようで、だから生物にこそ有効であるというラファールの予想はおかしなものではないだろうね。むしろ、人型魔法具にも使用できていることの方が妙だと考えるべきだろう。
「つまり現代でもクィーン・ティーナは聖日輪草を媒介に次々と自身の兵隊を生み出し、強力な妖精兵装を使わせて侵略が行える……というわけか?」
『可か不可かで言えば、可であろうな』
ラファールが呆気なく認めたが、事実であれば最悪の事態も予想できる。クィーン・ティーナが知性を持つ魔獣であることも踏まえれば、異世界勢力による地球侵略という最悪の事態もあり得るわけだ。であれば、こちらも手を尽くさなければならないか。
「ラファール。従魔契約をオオヌキから僕に変えることはできないか?」
無理やりでなくても良い。説得できるなら。それでも……だが状況次第では……そう考えていた僕にラファールは首を横に振った。
『賛同はできないなアーサー。あのふたりは上手くやっているのである。引き離すのは得策ではないし、何よりも』
続けてのラファールの言葉に、僕は驚きの顔を隠せなかった。
『人間に、『厄災級の魔獣』をテイムなどできないのである』
【次回予告】
結論は出た。
されど問題はひとつではなく、
王権の在処は世界に晒され、
認識の相違は混沌を加速させる。
すべては妖精女王の名の下に、
真なる妖精郷への道は開かれん。
そして宝物の番人の足音は、
彼の者の血筋に向かい始める。





