クマクマベアベア07
書籍版収納おじさん【修羅】2巻、本日発売!
WEB版ともどもよろしくお願いします。
「ふーむ」
どうしましょうか。
ラファールさんには私の持つ大地の銀花とティーナさんの関係を疑われている様です。それがいったいどこまでの疑惑なのか? 作成できるところまでバレているのか? もしかするとハッタリの可能性も……
「一応種明かしをすると、ミスター・オオヌキのフェアリーアーティファクトに使用されている魔獣植物シルヴァーナに若芽があったのが最大の問題だったのであるな。シルヴァーナ自体はダンジョン内での存在が確認されてはいるが、発見されたフェアリーアーティファクトはすべて遥か昔に製造されたもの。現代では新造する技術も存在してはいないのだから若芽があるフェアリーアーティファクトというのは本来あり得ないのだ」
「あーーー」
ティーナさんが苦い顔をしています。どうやらラファールさんの指摘は的確だった様です。
(ゼンジューローのはブローチ型だったから、形を整えるために成長を抑えてたのよね。それが原因で注目されるとは)
(私のは……というと凛さんのは大丈夫なのですか?)
(うん。そっちは適度に成長させたから問題はないはず。ただ……まあ、この話の流れはある意味ではチャンスかもしれないわね)
(と言いますと?)
ティーナさんの顔が少し悪どいものに変わった気がします。
(いっそこっちから話を持ちかけてみようと思って)
(ふむ。危険ではありませんか?)
(そうかもしれないけど、すでにある程度疑惑をかけられているなら、隠すよりもこちらの望む形に話を持っていった方が良いと思うのよね。逃げて、逃げて、逃げきれずに選択肢すら取れなくなる方が問題だわ)
(確かに、それはそうかもしれません)
ティーナさんがフェアリーアーティファクトを作成可能なことが知られていないならまだしも、一度疑惑を持たれたのであれば、私の様な新人探索者では秘密を守り切るのは難しいでしょう。
ユーリさんを頼るという道もありますが、さすがに英国政府の後ろ盾のあるクランが相手では厳しいと言わざるを得ません。
であれば、あえて虎の巣穴に飛び込む勇気も必要なのではないでしょうか?
「相談はすんだかなミスター・オオヌキ、クィーン・ティーナ」
「そうですね。こちらの話は纏まりました」
私の返しに、ラファールさんが頷きます。
「であれば、まず確認したいのだが、ミスター・オオヌキのフェアリーアーティファクトを作ったのはクィーン・ティーナであるな?」
「だったらどうするのかしら?」
ティーナさんが胸を張って尋ね返しました。
威勢が良いですね。私も見習いたいものです。
「そうであるな。これはラファール・ハウザーではなく、円卓としてのものと考えてもらいたいのであるが」
そう言ってラファールさんが目を細めて、私を、それからティーナさんに視線を向けて口を開きました。
「取引がしたいのである」
「取引……ですか?」
この返しは少々意外でした。
場合によってはティーナさんを寄越せ……などと言った話をされるかとも思ったのですが、取引ですか。ずいぶんと温和な話から入ってきましたね。
「へぇ。どういう取引かしら?」
「そうであるな。こちらの予想ではあるがクィーン・ティーナはフェアリーアーティファクトを作ることはできたとしても、そう多くは作れないのではないか……と我々は考えているのである」
「……なるほど」
まあフェアリーアーティファクトにはランクAの魔石が必要です。フェアリーアーティファクトを扱っているなら、製造はできなくとも素材は分かっているのでしょう。
「作成したものを販売してくれるのであれば、円卓が見合った値段で購入するのである。また販売する気がないとしても、申請をしてくれれば英国政府がシリアルナンバーと認定証を用意するのである」
「シリアルナンバーと認定証……ですか?」
「そうなのである。市場に流すフェアリーアーティファクトはすべて英国政府が認定をし、シリアルナンバーを振っているのであるな。まあ、フェアリーアーティファクト自体は妖精郷以外でも見つかる場合はあるが、フェアリーアーティファクトという呼び名で市場に並ぶものは認定された正規品に限られるのである」
ほぉ、そういうものなのですね。
「そうなれば、出所不明のフェアリーアーティファクトではなくなるし、仮にミスター・オオヌキがどこぞに販売する場合でも手続きが容易になる。それに今回の吾輩の様にどこかしらから勘づかれた時の対処もしやすかろう。これは実質的に英国政府の後ろ盾を得たと考えてもらっても良いのである」
「それにですな。先ほどお伝えした通り、我々の不手際とはいえ、今後は盗品のフェアリーアーティファクトが市場に増える可能性が高いのですよ大貫様、ティーナ様。これからのことを考えれば、正規品にしておいた方が問題は起きにくいかと思われます」
「なるほど、確かに」
一々盗んだものと誤解されるのはよろしくありませんね。
「それと……可能であれば、なのだが」
「何かしら?」
「壊れているフェアリーアーティファクトの修理などもお願いしたいのであるが、可能か?」
「うーん。修復不可能な状態なら無理だけど、できるものはできるわね」
「可能性があるだけで十分なのである。故障して起動もできないフェアリーアーティファクトもそれなりの数があるのだ。そうしたものが直るだけでこちらとしても助かるのであるな」
「直るかは確約できないし、大量に持ち込まれても困るけど、こちらのペースでいいなら請け負うわよ」
ティーナさんの言葉にラファールさんが安堵の息を吐きました。
「良かったですな坊っちゃま」
「うむ。これでマーリンの嫌みを聞かずに済む。日本に来た甲斐があったというものだ」
御剣さんの言葉にラファールさんは満面の笑みで頷きました。
その後に聞いた話なのですが、どうやら発見されても壊れていたり、シルヴァーナが枯れて使えなくなっているフェアリーアーティファクトはそれなりの数があるらしく、ラファールさんたちの本命もこちらだったのだそうです。
それからラファールさんの所属する円卓とは、オーガニックと同様に同盟関係を結ぶことを決め、ある程度の個数を絞って修理品を対応、販売は売れるものがあれば……という契約を結ぶことになりました。
どうやら、こちらの要望には最大限叶えてくれるつもりのようで、私たちとしても今回の話はとても実のあるものになりそうです。
それにしても最悪、敵対した場合はそれはそれで仕方ないと思っていたのですが、穏便に済んで良かったですね。英国の英雄と敵対……まあ、そうなった場合のことも少しだけ気にはなりますが。いや、本当に少しだけなのですが。
「何か嫌な視線を感じた気がしたのであるが?」
「気のせいではないですかねラファールさん。ともあれ、そろそろ戻った方が良くはないでしょうか?」
「確かにそうであるな。ミスター・レツたちも気を揉んでいるかもしれぬし、結界を解くのである」
正式な契約の締結はダンジョンを出た後となりますが、ティーナさんと御剣さんが話の詰めを進めていたため、それなりに時間が経っています。その間も外とは遮断された状況ですので、烈さんたちが心配しているかもしれません。
そして、ラファールさんがこの氷華の結界を解き始めました。
そういえば、ラファールさんは最初私たちが逃げない様に閉じ込めたと言っていましたね。いったい何事かと構えてしまいましたが、蓋を開けてしまえば穏便な取引の話だったわけですが、彼らはいったい何を警戒して……おや、シーカーデバイスの電源もつき始めました。烈さんからの通信が入ってますね。
『……ているか大貫さん。頼む、返事をしてくれ』
ずいぶんと慌てた声がスピーカーから聞こえてきました。どうやら、心配をおかけしていたようで……
「グォオオオオオオオオ」「グマァアアア」
おやおや、猛獣らしい咆哮も聞こえて来ました。これはシーカーデバイスのスピーカーからではなく、外からのものですね。周囲を覆っていた氷の花びらが開きながら崩れていく姿は幻想的ではありますが……なんだか外の様子が不穏です。
「あー。ゼンジューロー、これは不味いかもしれないわよ」
「フーーーー」
「ニパァ?」
ああ、なるほど。これは確かに不味い状況です。いつの間にこうなったのでしょうか。ラファールさんと御剣さんも唖然としております。何しろ……
「これはもう……戦争であるな爺」
「はい。まさかこの様な事態になっているとは。まこと、ダンジョンとは油断ならぬものです」
外ではものすごい数の青い熊とモノクロの熊が殺し合っていたのです。そして、そんな彼らの視線は今、突然現れた私たちへと向けられて……あ、彼らが一斉にこちらに飛びかかってきました。
【次回予告】
そこは闘争の渦。
そこは互いの生存を賭けた鉄火場。
その事態に台場烈は戦慄する。
熊熊熊熊熊熊熊。
見渡す限りの熊の群れ。
されど、驚愕するのはまだ早い。
戦場の中心に現れたるは、さらなる理不尽。
それは獣たちの惨劇の始まりだった。





