クマクマベアベア03
「馬鹿な……馬鹿なぁあああ」
「おいたわしや坊っちゃま」
ラファールさんは涙を流しながら、ガックリと崩れ落ちています。
ラキくんは不思議そうな顔をしていますが、自分に近づこうとしなくなったことを理解して安堵しているようですね。ほら、今のうちに戻ってきてくださいラキくん。そうそう、ラキくんは良い子ですね。アレに近づいてはいけませんよ。ラキくんを性的に見ようとしていた危険人……熊物ですからね。
「ええと。結局、どういうことなんだ大貫さん? ラファールがここに探し物をしに来て、ラキが探し物で、ラキを巡って大貫さんと対立しようとした……って感じに見えるんだが」
烈さんがなんともいえない顔でそう質問をしてきました。まあ、当然の反応だと思います。事情が分からなければ、ラファールさんの行動は全く意味の分からないものに映るでしょうから。
であれば仕方がありません。大っぴらに喧伝するつもりはありませんでしたが、私もある程度の実力がついたという自覚はあります。ランクF収納スキルと同様に、こちらも絶対に隠さなければならない理由はありませんし、知人であれば明かしても問題はないと考えましょう。
「烈さん。つまりはこういうことです」
そして私は手の甲に貼ってある肌色シールをペロペロと剥がして、そこに描かれている紋様を見せました。
「それはラキのタトゥー? 大貫さん。アンタ、ラキが好き過ぎないか?」
「!?」
「違いますよ烈さん。アレ、召喚獣の刻印です」
烈さんの勘違いを小島さんが指摘してくれました。
召喚獣の存在は希少ですから、召喚主の体に刻印が刻まれることはあまり知られていないのかもしれませんね。
「そうです。ラキくんは従魔ではなく、召喚獣です。恐らく、そちらのラファールさんが召喚した後、ラキくんに逃げられ……その後にハグレ召喚獣となったラキくんと私が偶然遭遇して従えることになったのです」
「ミスター・オオヌキはジョセフィーヌ、いやラキを倒して従えたのだな」
未だに涙を流しながらのラファールさんの言葉に私は頷きました。
今思い出しても、あの時のラキくんは強敵でした。よく勝てましたね、当時の私。
「召喚獣とかマジか。ええと。確か、召喚獣は召喚主のレベルに合わせて召喚されるんだろ。つまりはラファールのレベルの力を持ってたってことだ。大貫さん、よく倒せたな。それに召喚獣って、召喚主の能力も乗るんだろ。つまりはその時のラキはラファールの氷の力も持っていたはずだよな?」
「そうなのですか? 普通に爪で攻撃してきましたが?」
あの時のラキくんは肉弾戦だけでしたし、私の能力も今のラキくんに乗ってはいませんよね?
「確かにラキは吾輩へと出会い頭に氷爪の一撃を喰らわせてきたのである。危うく死にかけたのである」
「それはですね。召喚獣は喚び出したら倒さねばならぬのに、坊っちゃまがいきなり抱きしめたのが原因でございます。驚いたラキ様がその場で全力の一撃を放ちまして、坊っちゃまのお腹に穴が空いて氷結化。その場から逃亡いたしました」
「それ……よく生きていましたね」
「一ヶ月、生死の境を彷徨ったのである」
それで今は全快ですか。さすがは英国のトップクラス探索者というところでしょうか。
「まあ、氷の力が使われていなかったのであれば、それはラキの中の吾輩の魔力が尽きていたのであろうな。魔力自体はエーテルなどで補給も可能なのである」
「なるほど」
「はー、話は分かったがよ。それでラファール、アンタはどうするつもりだ? 召喚獣の移譲方法は俺も聞いたことがある。殺して奪うしかないってこともよ。大貫さんに手を出すってんならこっちも黙っちゃいねえぜ」
問題はそこですね。召喚獣を切り離すには、召喚主を殺さなければなりません。
私は死ぬのも嫌ですし、ラキくんを手放すつもりもありません。戦う必要があるなら全力で争わせていただくつもりですが……今のラファールさんはそういう感じではありませんね。
「ふむ。方法ならあるのだ。ネクロマンサーを介した外法ではあるがな」
それ、私ゾンビになっていませんか?
「まあ、ラキがオスであるならば吾輩も諦めざるを得ないのである」
「よろしいのですか?」
「うむ……が、ミスター・オオヌキ。君には興味が湧いてきたのである」
「すみません。私、恋人がおりますので」
「え!? 大貫さん。そうなのか?」
烈さんが驚いていますね。ゴールドクラブの方々も意外……という顔をしておられます。
独り身だと思われていたのでしょうか。
「吾輩は性差で差別をするほど狭量ではないが、個人の嗜好として女性しか愛さぬ」
熊の……ですよね。
「吾輩の興味はミスター・オオヌキの強さだ。ジョセフィーヌ……いや、ラキは吾輩から離れて弱体化こそしていただろうが、それでも弱くはなかったはずである」
「探索協会では、レベル50相当の力はあっただろうと言われましたね」
弱体化ですか。探索協会からは当時のラキくんの力から召喚した人物のレベルは50相当と判断していましたが、弱っていてレベル50。となればラファールさんの現在のレベルは60はありそうです。ラファールさんの強さがそのまま乗っていたラキくんと遭遇していたら、私の命も危なかったかもしれません。
「であろう。一方でミスター・オオヌキの実力は吾輩の見立てではレベル5に届くか届かぬかというところ。その違和感の正体に興味があるのだよ」
「つまりは実力が見たいということでしょうか」
「左様。手合わせを願いたいところではあるが」
良いですね。英国最強の一角であるラファールさんと戦えるというのは貴重な体験です。
「とはいえ、さすがにこのダンジョン内で戦うというのは非常識。だから一撃……受けよう」
「なるほど?」
「同意の下であるならば、問題はあるまい。ミスター・オオヌキ、君の全力の一撃を吾輩に」
「止めろぉぉぉおおお」
烈さんが全力で止めにきました。
【次回予告】
白か黒か。生か死か。
運命を分けるは今。
そして黒く、
そびえたつソレが
善十郎の中に収まる時、
新たなる希望が目覚め、
赤熊の勇者が咆哮した。





