クマクマベアベア02
豆知識:レッサーパンダの雌雄は分かりづらい。
ラファールさんのどこか驚いているような、それでいて熱の篭っているような視線がラキくんに向けられています。これはいったいどういう状況なのでしょうか?
「似た……レッサーパンダのような……ような」
「キュル?」
ラキくんが首を傾げていますが、分かりません。彼はいったい何を……そう私が思っていると、ラファールさんが唐突に「ジョセフィーヌ!?」と叫んで駆け出したのです。
「ガッ!?」
あ、ラファールさんがラキくんに抱きつこうとして逃げられました。
「うがっ」
再度飛びかかろうとしたので、収納ゲートのシールドで防がせていただきました。
ラキくんが可愛いのは分かりますが、あれはさすがにマナー違反と言わざるを得ません。
いったい彼は何を考えて、あのような行動に出たのでしょうか。それに何か女性の名前を叫んでいました。
「な、何にぶつかって……いや、それよりもジョセフィーヌ? じ、爺!」
「ハッ。よもや、このような場所で、このような状況で見つかるとは思いませんでしたが……申し訳ございません大貫様。坊っちゃまは己のパートナーを探しておいでなのです」
そう言いながら、御剣さんがラファールさんとラキくん、そして私の間に立ちはだかりました。
「…………」
その様子に烈さんが眉をひそめ、ゴールドクラブの面々が戸惑いの顔を向けてきていますが、これがどういう状況なのかは私にも分かりません。ただ、悪意でも害意でもない、けれども有無を言わさない圧力のようなものが御剣さんから発せられているのは感じます。この気配、烈さんと同等……或いはもっと……強い?
「ラファール・ハウザー。先日に日本に来日してきた英国の探索者。確か、彼はここ最近表舞台に姿を見せていなかったそうよ」
「そうなのですかティーナさん?」
私の問いにティーナさんが頷きます。
「ええ、ちょうど『二ヶ月前』にね。一部の噂では、『獣の爪で切り裂かれて療養中』だって話もあったわ」
「二ヶ月前……獣の爪?」
ちょうど私が探索者デビューを果たした辺りですか。それで獣の爪で療養となると、ちょっとやそっとの怪我ならすぐに回復できそうなものですが、よほど高レベルの魔獣にでも……むむ? なんだか、私にも状況が見えてきた気がしますね。
「パートナー……御剣さん、それはまさかラキくんのことでしょうか?」
「左様。再会して改めて確信したのである。彼女こそ吾輩のパートナーであると」
そう言ってラファールさんが牙を剥き出しにして私に向かって笑いました。
ああ、肉食獣の笑みってこういうのを言うのですね。
「そして、彼女こそが我が妻に相応しいとな!」
「は? 何を言っているんだアンタ?」
烈さんが思わずツッコミを入れてしまいましたが、私も同じ想いです。
「妻ですか。あの……ラファールさんは一応、人間ですよね?」
「坊っちゃまはライカンスロープですので、今の肉体構造は熊の方に近く、それに……愛は自由なのですよ大貫様」
御剣さんが目を逸らしながら言いました。
なるほど。もはや確定的です。ラファール・ハウザーさん。この方はラキくんを召喚したものの逃げられてしまった方なのでしょう。喚び出されたラキくんはラファールさんを倒して逃亡し、その先で私と遭遇したわけです。そして彼は、フォーチュンテラー……占い師の方ですかね。その方からラキくんの行方を占ってもらい、ここに来たと。つまりはラキくんを狙っているということです。
しかし、彼はひとつ大きな間違いを犯しています。愛は自由。種族も彼が人よりも熊に近づいている以上、問題はないのかもしれません。あるかもしれませんが、愛は種族を超えるかもしれません。それ以上にラキくんの意思もありますし、私がそんなことを許すのかも別の話ではありますが……ですが、もっと別の、もっと大きな問題がある様にも思います。
「ラファールさん」
「何かなミスター・オオヌキ」
だから、これだけは言っておかなければなりません。知った上でならば、ともかく、勘違いはいけませんからね。
「ラキくんはオスですよ」
「なん……だと!?」
【次回予告】
そこにあるのは絶望の未来。
望みが断たれた男は崩れ落ち、
嘆きの涙が大地を濡らした。
何故こうなったのか。
何故違うのか。
慚悔は止まず。後悔は止まらず。
されど刻はもはや戻らない。
そして秘め事が光の元に晒され、
決意の言葉が告げられた時、
台場烈の叫びが竹林に木霊した。





