バンブーパンダ09
大貫さんは俺の話を聞いて、熊の魔獣を積極的にラキに狩らせる方針を決めたみたいだ。
今もモノクロバッドベアとハーフムーンブルーベアが近づいてきたのを察知して「ラキくんが筋肉達磨になるのはよろしくありませんので青い方をいただきますね」と言って、ハーフムーンブルーベアの方に行っちまった。
まあ、あの人なら問題はないだろう。俺はゴールドクラブを見ないといけないしな。いや……探索者としての活動期間を考えれば、見ておかないといけないのはゴールドクラブよりも大貫さんの方な気もするんだが。
ともかくだ。俺は今回、ゴールドクラブ(+α)の付き添いの他に、熊林渓谷の調査も探索協会から依頼されている。元々調査依頼があって、そこにゴールドクラブから声をかけられて、だったら……って感じで引き受けたわけだが、やっぱり、どうにも様子がおかしいんだよな。
以前に来た時にはこんなに熊たちとも遭遇しなかったし、単独行動が多かった。妙に殺気立ってるのも気にはなる。
大型の上位種か統率個体が一体、或いは二体出現したのかもしれないって報告もあったが……だとすると熊同士の縄張り争いが起きてるのかもしれねえ。群れ同士となりゃ、数百から千を超える魔獣同士の衝突になる可能性もあるわけで、それがゲートを越えて地球に出てくる事態になりゃ、魔獣災害の出来上がりだ。
とはいえ、この熊林渓谷辺りは俺らが活動できる存在境界線ギリギリだからさすがにゲート付近までは来ないだろうが、場合によってはしばらく上野ゲートは立ち入り禁止になるかもしれないな。ここで活動しようとしているゴールドクラブには悪いがな。
……なんてことを俺が考えていると小島が近づいてきた。他のメンバーも一緒だ。思ったよりも早く片付いたな。
「烈さん、戦闘は終わりました」
「烈さん、烈さん。どうっすかね、俺らの実力!」
さっきまで死んだ魚の目をしていた田崎もいつもの調子に戻ったか。
まあ、モノクロバッドベア三体を相手に危なげなく勝利してんだから若手としちゃ十分過ぎる実力だぁな。
「悪くはないと思うぜ。小島の未来予知スキルを中心とすることで、ひとつの生き物のように機能してる。あえて言うなら、小島のスキル頼りの面が大きいってところだが、それがお前たちの強みでもあるからな。以前にも言った通り、小島抜きでもここを退却可能だってお前らで判断できるんなら活動しても問題はねえよ」
「んー。その条件なら大丈夫だと思うぜ。なあ三菱?」
「そうだね田崎くん。手応えはあったし、このメンツならいけると思う」
田崎だけじゃなく、他のメンバーも同じ認識みてえだな。
まあ、自分たちに自信がついたのは悪くねえか。別に自己を過大評価してる様子もねえようだしな。
小島の未来予知スキルは強力だ。二秒までならほぼ確実に、五秒先程度までなら信用できるレベルで未来を見通せる。危険が迫った時にオートで発動するのも優秀。ただこのパーティの戦い方だと小島の負担も大きく、小島のスキルが使えなくなった時点で一気に弱体化する。
だから、小島が使えなくなっても離脱が可能な程度の場所までと指示しているわけだが、この様子なら問題はないだろ。
それから小島が俺の背後に視線を向ける。
「それで大貫さんたちの方はどうなってます?」
「まーだ終わってないが、見た感じ大貫さんの従魔たちはお前らとどっこいどっこいって感じだな。あいつらだけで十分につえーよ」
俺の視線の先では、大貫さんの従魔であるデカレッサーパンダのラキと人語を話せる妖精ティーナ、それにひまわり頭のフォー(フォーハンズだからフォーなのかね?)が最後のハーフムーンブルーベアを仕留めてるところだった。
「良くやったわラキ、フォー」
「ニパーー」
「キュルッ」
三体の青い熊が倒れている前で、最後にトドメを刺したラキが申し訳なさそうな、情けなさそうな顔をしている。
ティーナの話じゃ、ライバル扱いしているフォーが強くなって焦っているってことだったが、そのライバルのフォローで自分がトドメを差したことに思うところがあるんだろうな。気持ちは分かるぜ。
ただ、全周囲をバリアで覆っているティーナが盾がわりになって、戦闘巧者のフォーが牽制をしつつ、ラキが仕留めるって流れはここでも十分に通じている。レベル30前後の探索者パーティ相応の戦力はあるんだろう。従魔だけでその戦力だってんだから羨ましいね。そんで問題は……
「烈さん。アレ……なんです?」
小島が頬をひきつらせて聞いてきたのは、ラキたちの方じゃあないよな。そりゃそうだ。俺だってそっちを見る。
こいつが視線を向けているのは、ラキたちよりもさらに奥の場所だ。ゴールドクラブの他の面々も今は全員そっちを凝視してた。
「実は追加でハーフムーンブルーベアがさらに六体来てな」
「グマァア」「ガァアア」「ヌガアア」「ギイガァアア」「グォオオン」
離れた場所では大貫さんがハーフムーンブルーベアの最後の一体と対峙しているが、周囲にはさらに五体のハーフムーンブルーベアがいて、そいつらは地面に横たわってジタバタと、まったくなす術もなくもがいていたんだ。
【次回予告】
それはひとつの優しさの形。
ただただソレは善意によって成された。
主は心を込めて食事を並べ、
獣はソレを平らげた。
そこに何ひとつ悪意はなく、
そこに何ひとつ殺意はなく、
そこにあるのは主従の愛情。
そこにあるのは弱肉強食の世界そのもの。
そこが彼らの居場所であった。





