バンブーパンダ08
戦闘が終わりました。こちらもゴールドクラブも危なげなく勝利して移動を再開しましたが、ラキくんの様子がなんだかおかしいです。シュンッという感じになっているのですね。
そんなラキくんに乗っている私を見るみんなの視線が少し痛い……と思うのは私の気のせいでしょうか。
そういう機微が昔から分からないとは言われていましたが、今の私は違います。探索者となったことで私のコミュニケーション能力は日々鍛えられています。故にラキくんの様子にも気づけましたし、気遣いの言葉をかけることも可能なのですね。
「ラキくん。大丈夫ですか?」
「キュル」
「ラキくんの調子が悪いなら私、降りましょうか?」
「ピーーーーー!?」
ラキくんが涙目でブンブンと首を横に振っています。
おかしいですね。なんだか想像していた反応とは違います。私は、何か悪いことでも言ったのでしょうか?
そんな私をティーナさんがジト目で見ていました。
「ゼンジューロー、ラキの気持ちも分かってあげなさい。この子は自分の役割をこれ以上取られたくないのよ」
「フーーーー」
ティーナさんの言葉にラキくんが唸っています。もしかして図星だったということでしょうか。
「どういうことでしょう?」
「フォーが強くなったからね。同格だったライバルに差をつけられたから、自分が役立たずになったんじゃないかって気にしてるのよ」
「ガッガッ」
ラキくんが興奮して地面を掘っています。恥ずかしがっているのでしょうか。可愛いですね。
「役に立っていないだなんて。そんなことはありませんよ。実際に今だって私を乗せて運んでくれているわけですし」
「降りようとしたでしょ」
まあ、確かに。
「いいなぁデカレッサーパンダ」
「いや、普通に怖いだろ」
「可愛いと思う」
「おじさん乗せてるのはシュールじゃないか?」
「それはそう」
ゴールドクラブの面々もこちらに注目しています。ラキくんの可愛さについて話し合われているのかもしれません。まあ、ラキくんは可愛いですからね。
それはそれとして、ラキくんがフォーさんとの差にコンプレックスを感じているとは気づきませんでした。
ペットのストレスはホルモンの乱れや免疫力の低下に繋がり、短命になる傾向があると聞きます。ラキくんの寿命は分かりませんが、健康状態の悪化は良いことではありません。とはいえ、根本的な解決を考えるならラキくんをフォーさんと同じくらいにはパワーアップさせないといけませんか。
「大貫さんとこも色々と悩んでるんだな。魔獣を強くするっていうと上位種への進化があるが……ラキはまだ進化したこたねえのか?」
「そうですね。まだ、できてはいないようです。ラキくんも頑張ってはいるのですが」
「フーーーッ」
「ラキの大きさなら成獣だろ? キッカケがあればサクッと進化できそうな気もするんだけどな」
従魔ではなく召喚獣ではありますが、烈さんのいう通り、きっかけさえあればラキくんも進化はできるはずなのです。
「ドラゴンやソードアントなどでは進化はしませんでしたね」
「うーん。ソードアントはともかく、ドラゴンを倒してもか。近縁種を倒せば進化はしやすいとは言われてるが……ハーフムーンブルーベアやモノクロバッドベア辺りを倒し続ければいけるんじゃないか? その上位種なんかも良いと思うぞ」
「……そうですね。やはり、そうなりますよね」
烈さんの言葉は、この依頼を受ける前にユーリさんも言っていたことと同じです。従魔と召喚獣の違いはあれど、進化のための方向性自体は近いはず。だからラキくんにここで積極的に熊狩りをして貰えば進化の道が開けるかもしれないと。
ちなみにレッサーパンダは、外見からアライグマ科、身体構造が似ていることからクマ科と分類されたこともあるそうですが、現在では進化ツリーの前段階の種が全滅してるため、近縁種のいない独立したレッサーパンダ科であると考えられているそうです。
まあ、ラキくんはレッサーパンダに似ているだけで、大元のサイズを考えればレッサーパンダっぽい熊なのだろうとは思いますし、問題はないでしょう。
それではいっぱい熊を狩りましょうねラキくん。
【次回予告】
異質は浮かび上がる。
若人たちの鬨の声も、
獣たちの勝利の咆哮も、
その所業の前では薄く、霞む。
さあ、刮目せよ。
人類という名の悪の所業を。
知恵を得た獣の残虐性を。





