バンブーパンダ06
「アダマンストリングはすでに存在していたから簡単に採れたけど、アダマンタイトを吸い出させるのはちょっとねー。いや、無理ではないのよ。アダマンタイトさえあれば、多分自然に吸い出すよりは百倍以上の速度で吸い出せるとは思うわよ。つきっきりで何週間頑張ればだけど」
「それは、諦めた方が良さそうですね」
道中、ティーナさんがアダマンストリングを入手していたので同じようにアダマンタイトの外皮をすぐに用意できないものかと相談したのですが、兄切草のように簡単な話ではないようです。
ティーナさんにつっききりでそんなことさせるつもりはないですし、生えているものを普通に収穫した方が良さそうですね。そう私が考えていると、定期的に発動させている解析解除に反応がありました。
「おや……烈さん。魔獣が近づいていますね」
「え? おお、マジだな。サーチドローンも今捉えたわ」
「スキルかしら?」
「気の力かもな」
ゴールドクラブの面々が少しざわついていますが、私のは解析解除で把握できたことですからね。ランクA収納スキル持ちの本丸さんなら私と似たこともできるかもしれませんが、どうなのでしょう?
それで近づいてくる魔獣ですが、三体……いえ、九体に増えましたか。すべて3メートルクラスの大型です。種類が二種類というのは、解析解除で把握できましたが、どの魔獣か分からないということは私の知らない魔獣のようです。まあ私が把握している魔獣自体が少ないのですけれども。
そして竹藪の中から姿を現したのは青い熊三体でした。
「グォオオオオオ」
「青いってことは、ハーフムーンブルーベアの方か。うん? なんだ?」
ハーフムーンブルーベア。お腹に寝かせられた形の白い半月柄がある青熊ですね。事前に調べた限りでは、特殊な能力はないものの、硬くて白い巨大な拳の一撃が強力だとのことでした。
あれに殴られるだけで私などは一発で死んでしまうことでしょう。
しかし、我々の前に現れたハーフムーンブルーベアたちは何故か血まみれです。烈さんが怪訝な顔になるのも当然のことですね。
「烈さん。こいつら、まさか」
「ああ、この熊竹渓谷でアレに怪我を負わせられる魔獣なんて決まってるわな」
烈さんと小島くんが何かを話していますが、解析解除には彼らの背後からさらに六体の魔獣が来ることを教えてくれています。むむ、反応が……少し上? あ、竹の上を巨大な何かが飛び跳ねています。アレは……
「パンダっぽいですね?」
「違うぞ大貫さん。アレはモノクロバッドベアだ。間違うな」
烈さんが即座に首を横に振って、私の言葉を否定してきました。
「ですが。あの姿はどう見ても……」
「ちゃんと顔を見ろ。アレがパンダの形相か?」
ふむ。確かに恐ろしい顔をしています。普通のパンダがコツメカワウソならアレはオオカワウソくらいに愛嬌がありません。
大きさも3メートルはありますし、全身が筋肉でできているように盛り上がっていて、パンダや熊というよりもその外観は体の色以外はもはやゴリラです。
そんなモノクロバッドベアが六体。生えている竹をバネのように利用して飛び跳ねながらハーフムーンブルーベアを追い詰めています。あ、飛び蹴りで転がして、そのまま馬乗りになりましたよ。うわ、かぶりつきました。
「アレは最初にハイギガントパンダって名付けられたんだが、隣の国からクレームが入ってな。やむなく名前を変えさせられたっていう経緯がある魔獣なんだ」
「なるほど。まあ一緒にされたくないのはわかりますが」
ハーフムーンブルーベアが捕食されてます。
それから私たちに気づいたのか、彼らは血まみれの笑顔でこちらを見てきました。確かにアレと同類と思われたら、子供たちもパンダに近づかなくなるかもしれません。
「それでどうしますか。気付かれましたね」
「連中にとっては、俺たちが食後のデザートに見えているのかもな。ゴールドクラブ。やれるな」
「「「「「はい」」」」」
烈さんはゴールドクラブに戦わせるようです。お手並み拝見ですね。距離を取らないといけませんから、サーチドローン経由のライブ中継になりますが。ですので、さっさと下がります。
おっと、今の田崎くんの盾は予備用でアダマンタイト製ではないそうですが、モノクロバッドベアの攻撃を受け止めました。同時に内藤さんの剣と三菱くんの光魔法によって受け止められたモノクロバッドベアが倒されました。
助けに行こうと動いた他の個体を本丸さんが牽制の攻撃をしてます。うーん。タイミングが絶妙です。完全に出がかりを潰しているようです。
それにしても収納空間に入れられる魔法銃が羨ましいですね。銃本体のサイズがそれなりに大きいから、私の容量では入れられないそうですが。
そして、その後もゴールドクラブ優位で戦闘は進んでいきます。
「小島くんの指揮によるものですか。乱れのない連携で確実に数を減らしていっています。これは見事ですね」
「そうだな。あいつらはハマれば強い。強い……んだが」
「何か気にかかることでもあるのですか?」
烈さんがわずかばかり顔を顰めています。
「んー、ちょっとした心配っていうかな。あいつらの現在の戦果は、小島のスキルに乗っかって実力以上のものが出せているところが大きいんだ」
「未来予知ですか。優秀なスキルということですよね」
未来が見えるスキル。当人のステータスが低くなってしまうことを差し引いても反則的な能力だとは思いますが、烈さんは懸念することがあるようです。
「そうだな。だからこそ崩れると一気に全滅しかねない怖さもある。この戦いも小島がいるから一方的な戦いが成立しているものの、あいつ抜きならモノクロバッドベアが今の半分の数でも苦戦はしていただろう。小島ひとりの有無であいつらがサクッと死にそうなのが怖いんだよ」
そう言いながら、烈さんが背後へと視線を向けました。
ふむ、解析解除。なるほど、三体の魔獣が近づいてきていますね。この反応は……
「ハーフムーンブルーベアが三体ですか。名前長いですよね」
「だなぁ。こっちは俺らでやるか。問題ないか大貫さん?」
「はい」
ゴールドクラブの方はこのまま勝てそうですし、こちらはこちらで対処いたしましょうか。
【次回予告】
彼らは走り続けた。
彼の悪鬼どもより仲間を救うために。
一心不乱に、
その無事を祈りながら、ただ一心に。
されど、その先に在るは、
太陽をその身に宿し者。
そして、無情の劫火が解き放たれた。





