バンブーパンダ02
前話のエーテル生成関係は超純水のASTM D5127 Type E-1.1的な感じの、多分作中で一番の厄ネタ。
国の調査隊が遺跡を一番最初に潜って調べてるのは、これの製造装置を探しているため。
今頃、ユーリさんは頭を抱えていることでしょう。
「烈さんから連絡。大貫さんは下がった。久美、行けるか?」
「問題ないわ龍平。シーカーデバイスも距離計測してくれてる。大貫さんとの距離は今124メートルで影響範囲外。まったく信じられない範囲だわ」
久美がそう愚痴っているが無理もないな。
収納スキルはスキル同士が干渉して使えなくなることがあるのはよく知られていることだけど、久美は強度が高いから自分が使えなくなる方に回ることがほとんどなかったんだよ。その分、ストレスも大きいんだろう。
「まあ、そこまで俺らが退がることがあったら、あの人たちにも協力してもらおう」
「んな状況にはならねえよ」
調子をある程度、取り戻した田崎がそう口にした。
装備している盾は以前に使っていた魔鋼のものになっているが、魔法ベースの敵でもなければ戦闘に支障はないはずだ。
そして迫ってきている魔獣はニンジャゴブリン。何がニンジャなのかというと背中に甲羅を背負っているからだ。なぜ甲羅を背負っているとニンジャなのかは色々と問題があるから説明はできない……と烈さんが言ってた。意味はよく分からなかったけど、何か理由があるんだろう。ともかく烈さんの見ている前で、これ以上の無様は晒せない。
「久美は右、三菱くんは左。分かるな?」
「オッケー」「問題ない」
未来予知スキルにリソースを取られてステータスが貧弱な俺はそれを魔法具で補っている。その補っている魔法具のひとつが、俺の未来予知のイメージを届けるための最新スマホ型魔法具『YouPhone』だ。
こいつを使って、未来予知で察知した敵の動きをリアルタイムで仲間に念話の形で伝えているわけだな。俺らのパーティの生命線になる魔法具だ。
そして竹林の間からニンジャゴブリンの姿が見えた。ゴブリンと言っても、ファンタジーのゴブリンそのものじゃない。猿もどきがそう名付けられることもあるし、ニンジャゴブリンは亀型の爬虫類が進化した魔獣だろうって言われてる。とはいえ、俺たちの技量なら問題はない相手のはずだ。
「そんじゃ大貫さんの邪魔も無くなったし、始めるよ」
そう言って久美が出現させた収納ゲートから銃身が出てくる。
アレは収納空間内に入っている魔法銃だ。本体はかなり大きくて、銃口と共に出ている思考受信用アンテナで制御し、エーテルをエネルギーにして発射するってシロモノだ。
異世界の魔法銃はコンパクトだが、ピュアエーテルっていう、不純物のほとんどないエーテルしかエネルギーとして利用できないことが多い。
しかもピュアエーテルの製造は一部の国の所有魔法具でしか不可能な上に、地球産魔法具の制御に不可欠な魔半導体の製造に使われるから一般人が手に入れることは実質不可能だ。
対して久美の魔法銃はエーテル結晶から取れるエーテルで代用できるように作られた地球産で、彼女の主武装になっている。それが強度8のランクA収納スキルにリソースを吸われて、俺と同じように探索者としては身体能力が低い彼女が選んだ戦う力だった。
「うん。やろうか」
そして一緒に攻撃をするのは光魔法使いの三菱くん。光魔法の使い手で、遠距離魔法のエキスパート。そのふたりの攻撃が一斉に放たれた。
「「「ギャァアアア」」」
「仕留めたな龍平」
「ああ、しかし三菱くんの魔法、いつもより威力高くないか?」
「烈さんが見てるからって力み過ぎてんじゃねーの?」
田崎の言葉に、三菱くんは困惑しながら首を振る。
「……いや、大丈夫だ。無理はしていない……が、恐らくはスキルの解釈が深まったんだと思う。光魔法が以前よりもスムーズに出せるようになった」
解釈が深まった?
スキルというのはレベルが上がると能力が強化されたり、新しい機能が増えることがあるけど、スキルの理解を深めることで、その効率が上がることもある。大体の場合は同系統の上位スキルを見た時に起きる現象なんだけど……三菱くんのスキルは光魔法。であれば、先ほどの大貫さんのレーザー……ビーム? を見たことで何かが無意識下で目覚めたのか?
「おい龍平。ボーッとしてんな」
「大丈夫だ。そら、このタイミングで」
左右の草むらからニンジャゴブリンたちが一斉に飛び出して来たが、もちろんその未来を俺は視ている。
「一網打尽だ」
俺は振り下ろした魔法具『大漁電旗』でその場に雷の網を発生させて、それをニンジャゴブリンたちに被せて動きを止めた。
「チッ、タイミング狙ってたんなら最初から言っとけ!」
「小島の悪い癖だね」
痺れて動けなくなったニンジャゴブリンたちを田崎と内藤さんが即座に仕留めていく。田崎の盾のタックルは巨大なハンマーで殴られるのに等しいし、内藤さんの斬撃スキルは刀身の三倍の長さの擬似刃を生み出し、敵を屠ることができるシンプルで強力なものだ。
そして、二陣として後方待機していたニンジャゴブリンも久美と三菱くんが撃ち抜き、全滅させることに成功した。
【次回予告】
赤熊の勇者は未だ迷いの中を彷徨う。
強きを求める彼の道は未だ見えず。
必要なのは贄の数か、質か。
或いは、その答えはもっと短な、
勇者の有り様にこそあるのかもしれないが。





