クライクライベアー02
今話までが前章までのリザルト的なやつ。
次話から本編的なやつ。
「……キュル」
私が何かを言う間もなく、ラキくんはお気に入りのタオルケットを引きずるように掴んで、寝室に入っていきました。なんだか背中が煤けているように見えましたが、どうかしたのでしょうか。
「あのティーナさん……ラキくん、何かありましたか?」
「んー。今日までのラキの行動を見て分かってないんなら、ゼンジューローはそっとしておいてあげた方がいいかも?」
「おじさんはそーいうとこ、ニブチンだよねー」
「ニパーー」
ティーナさんの辛辣な言葉に、ユーリさんやフォーさんまでもが頷いていました。少しショックです。
「まあフォーとの訓練で疲れてるのよ。フォーもパワーアップしたからね」
「なるほど。となるとラキくんのパワーアップも本格的に考えないといけませんね」
「ええと、ラキくんって召喚獣よね? 成長の仕方も普通の魔獣とは違うんだっけ?」
ユーリさんがそう尋ねてきました。
実のところ、ユーリさんはラキくんが召喚獣であることをすでに知っております。
一緒に住んでおりますし、私の手の甲についたラキくんの刺青は基本肌色シールで隠しているのですが、家の中では剥がしていますからすぐにバレてしまったのです。
「そうですね。通常の魔獣は強い魔獣を倒したり、魔石を食べると進化することがあるそうです。魔獣も探索者と同様に経験値を得ることによって強くなれますからね。ただそこに身体の成長も要素として加わりますし、必ずしも進化するわけではないのですよね」
「でも召喚獣には肉体的という意味での成長という概念はないし、召喚主のレベルに合わせて成長自体はしていくのよね」
現在の私のレベルが20なので、ラキくんもレベルは20です。人間とラキくんの種族では地力が違いますので、実際には人間のレベル30相当の実力はあるのではないかとティーナさんは言っておられましたが。
「つまりは、おじさんのレベル上げをすればラキくんも強くなるってことだよねー?」
「そうなります。ただ、召喚獣というのは魔力で構築された魔力体と呼ばれるものなので、条件さえ揃えば、すぐにでも進化はできるそうなのです。それに召喚主が倒した魔獣の因子も経験値という形で召喚獣には共有されるそうなのですが」
「共有ってことは……うーん? おじさん、ドラゴン2体倒してるよね。迷宮災害でもアホみたいに蟻を倒してたわけだしさー」
「そうなのよユーリ。だからラキもとっくに進化しててもおかしくはないはずなのよねー。まあラキは蟻もそうだけど、ドラゴンと相性が悪いだけなのかもしれないけど。虫に爬虫類だし」
「そうですねえ。ん、ドラゴンって爬虫類なんですか?」
「あー、正しくは爬虫類じゃなくて、爬虫類の特徴を持つ恒温動物なんだってー。以前にそんな話を聞いたことあるなー」
「へー。ユーリは物知りね」
「でーしょー?」
爬虫類の特徴を持つ恒温動物というと以前にも聞いたことがありますね。あれは確か……
「つまりはドラゴンはカモノハシのお仲間ということでしょうか?」
「んー。そうかもしれない? のかな??」
なるほど。広義の意味ではカモノハシもドラゴンと呼べるのかもしれませんね。勉強になりました。
「となると……同じ哺乳類系で、ラキくんとは違う種類、別の熊とかの因子を取り込めば、進化できるかも?」
「可能性はあるかもしれませんね。でもラキくんって熊なんですかね?」
「さあ?」
レッサーパンダは赤熊猫ですからね。猫かもしれませんが……うーん。猫といえば、西表巨猫島ですが、あそこの厄災級は人間と和解してますし、あの島での猫型魔獣の討伐は禁止されてますからねえ。まあ、サイズから考えればやはり熊のお仲間で良いのかもしれません。
「まあ、細かいことは置いておいてさー。蟻とドラゴンよりは近いって」
「確かに」
ユーリさんの言葉に私が頷くと、ユーリさんは「だったらちょうどいいかもー」と言ってから、私の方を向いて口を開きました。
「おじさんさー。今、秩父ゲート出禁でしょ?」
「そうですね。遺憾ながら、入ることが許可されておりません」
厄災級を目覚めさせたことについてのお咎めはありませんでしたが、ゴースト系統の魔獣は一度接敵した相手をマーキングすることがあるそうで、私が近づくとゲートの方へとナイトキングダムを呼び寄せる可能性があるから……ということで秩父ゲート内への立ち入りを現在禁止されているのですよね。
そういうわけで、今の私は聖霊銀と神霊銀に代わる収入源を確保すべく、近場の別のダンジョンの情報を洗っているところなのです。
「そんな暇なおじさんに朗報でーす」
「朗報?」
「うんうん。ねえ、おじさん。ちょーーーっと、うちの手伝いをしてみない?」
「手伝いですか?」
「そーそー。実は気になる案件がひとつあってですなー。ラキくんを進化させることができるかもしれないし、多分おじさんなら良い稼ぎ場になるかもしれないダンジョンがあるんだけど、どうかな?」
それは……興味深い話ですね。
【次回予告】
台場烈。
彼の征く先にあったのは悪夢であった。
獣の咆哮、妖精の溜め息、
そして太陽の微笑みを前に、
彼の仲間は無惨に崩れ落ちた。
それはただの必然。
起こるべくして起きた当然の結末。
それが狂犬に噛み付いた末路である。