ギャクサツライセンス03
「あー、ヘヴィスキルホルダーねぇ。おじさん、鴻巣で暴れたもんねえ。あーしも持ってるよ。ほら、このゴッツいガトリングのマークがそうなんだー」
部屋に戻ってきた私がユーリさんにヘヴィスキルホルダーの件を相談したところ、ユーリさんが自分のシーカーデバイスを見せてくれました。そこにはガトリングガンを模したアイコンが表示されていて、それがヘヴィスキルホルダーの証なのだと教えてくれました。
「なるほど、カッコ良いですね。良いかもしれませんね、ヘヴィスキルホルダー」
「と言ってもそーんなに良いもんではないけどねー」
「そうなのですか?」
ユーリさんの若干ネガティブな発言に私は首を傾けました。ここまでの話を聞く限りでは特にデメリットのある内容ではありませんでしたが、何が問題なのでしょうか?
「おじさんはヘビィスキルホルダーに認定される条件を聞いた?」
「強力な広域攻撃スキル持ちと認定されること……ですよね?」
「表向きはね」
表向きですか。含みのある言い方ですね。
「でも実際の条件っていうのは、短時間で非覚醒者……一般人を100人単位で殺傷可能なスキルを持っているかどうかなんだよねぇ」
「……それはどういうことですか?」
随分と穏やかではない話ですね。
「言葉通りの意味だよー。普通の探索者が街中で暴れた場合、たとえ高レベルの探索者でも短時間なら被害は10人程度……多くても2桁台。それ以上は、軍や警察、それに探索者にもAIが緊急対応権限を与えて対処する想定になってるからさー。実際それ以上の被害ってほとんどないし、そこら辺までなら情報封鎖可能な範囲って考えられてるわけ」
今の時代は探索者に優しいですからね。
そうした事件があっても、報道すらされずに闇に葬られることも多いのだとは聞いたことがあります。まあ、守られるのは探索者という立場だけで、加害者となった探索者は殺処分か、海外派兵コースから前線送りなんて話も聞きましたが。
「でもヘヴィスキルホルダーに認定される条件の探索者が起こす被害はその比じゃないんだよー。100人単位や1000人単位の被害が出るとなると、ちょっと誤魔化せないし、批判も避けられないでしょ。だから、それができる探索者はあらかじめタグ付けして監視しておくってわけ。こんな風にねー」
そう言ってユーリさんがフリフリとシーカーデバイスを振りながら、画面に映るガトリングアイコンを見せてきます。
「なんで、うちの界隈じゃー、これを虐殺ライセンスだーなんて言ってたりもするんだよねー」
「恐ろしい言われようですね。そうなると認定を受けない方が良いのでしょうか?」
私の問いにユーリさんは首を横に振りました。
「そんなことはないよー。おじさんが国防軍の人に説明されたこと自体は確かだしさー。メリットも勿論ある。それに受けないと監視が強まって面倒だからねー。まあ受けたほうがいいよ? ってすぐには受けられないんだっけ?」
「そうなのですよ。私は厳密にはまだ探索者ではないので」
「おじさんが探索者になってまだ2ヶ月なのってホント詐欺だよねぇ」
「時間は誤魔化せませんから」
実は私、まだ若葉マークが取れておりません。
現在の私の立場は探索協会預かりとなる仮免許の試用期間中というもので、本来であればライセンス発行から半年後の実地試験を経て正式に探索者となれるわけです。
普通の探索者としての行動であれば仮免でも特に問題はないのですが、こうした特殊な手続きの際には正式な探索者になっていないと問題なのだそうですね。
「ただ、早期に正式な探索者になるための制度もあるそうで、その制度に則って近々私の実地試験が組まれるそうです。元は海外難民向けの、実力はあるが免許のない方用の制度らしいのですが」
「ふーん。素直に残り4ヶ月待っても良かったんじゃあないのかにゃー。にゃーにゃー」
「仮免許がシーカーグランプリ参加条件にも引っかかっているらしいのですよ。となると受けないわけにはいきません」
「なーるほど」
無理を言って、ニューカマーグランプリではなく、シーカーグランプリへの参加をお願いしたわけですが、どうやらそちらでも色々と問題が出ているようで、その解消のための手段のひとつが私の探索者としての立場を明確にすることなのだそうです。4ヶ月後では大会が終わっていますので、ヘヴィスキルホルダーの件がなかったとしても早めに受ける必要があったのですね。
ちなみに本来の沢木さんの目的である迷宮災害の報酬についてですが、参加した探索者には特別手当が出ますが、私の場合はユーリさんからの要請で参加しましたのでさらにプラスで報酬が入り、またシールドクィーンアントたちの討伐報酬も上乗せされました。
私が数を数えていたわけではありませんが、活動内容はシーカーデバイスのカメラで記録されているため、それを解析したAIにより討伐数も確定しております。直接的な討伐は187体、ラキくんたちの討伐数も含めると211体。その中にはシールドクィーンアントやシザーズアントも含まれていますし、ゲート破壊報酬や、避難民の救助なども貢献度として数値化されて報酬に上乗せされているそうで、合計で5000万円ほどのお金が入ってくるとのことです。
今の私は測定器の借金もなくなっていますし、5000万円もあれば愛車のローン返済も一括で済ませられます。
他に欲しいものも今は特にはないのですが……ああ、ロックナイフも補充しておきたかったので買っておきましょうかね。何本か回収に失敗して数も減っていましたし。
……などということをユーリさんにお話ししていると、ティーナさんたちが外から戻ってきました。
確かみんなで出かけていたはずですが……おや、ラキくんが何やらグッタリしているようですね。何かあったのでしょうか?
【次回予告】
赤熊の勇者は去っていった。
その背中に悲しみを背負い、
ひとり扉の奥へと消えていった。
言葉ひとつかけられぬ男は、
あの勇者に何ができるか?
そして竜に連なる獣の真実とは?
今、善十郎の新たなる挑戦が始まる。