ギャクサツライセンス02
「ヘヴィスキルホルダーってのは、一般的には強力な広域攻撃スキル持ちを指していてな。大貫さん、あんたは鴻巣市でソードアントをまとめて仕留めただろ。アレで認定することに決まったらしい」
「なるほど。認定されると私のスキル……公表する必要が出てくるのでしょうか?」
鉄散弾について明かすこと自体は特に問題はありませんが、スキルの全容を教えろ……となると話は違ってきます。ですが、私の杞憂に対して葛西少尉は首を横に振りました。
「アンタはスキルを隠してる人だったな。まあ、どういうことができて、何が必要なのかを教えてくれれば問題はねえよ」
「そうですか。国が管理するのなら、詳細を知りたいものだとは思うのですが」
私の問いに葛西少尉が苦笑しました。
「探索者の管理はなぁ。そういう締め付けをして過去に反乱を起こされた国は少なくないし、実際発展途上国の中じゃあ探索者が支配してる国も増えてきてるからな。刺激したくねえってのもあんだろうさ。AI管理がうまくいっているのもあるがな」
探索協会のAI『セブンセージ・プロトコル』ですね。
正確には七賢者と呼ばれる七つのAIとそれを管理するシステムを指しているのですが、一般的には単純にAIと呼ばれていることが多いですね。
セブンセージ・プロトコルは覚醒施術のサポートからレコーダー解析、素材鑑定等等を統合していただいている探索者の良きパートナーです。
探索協会でもこのAIのサポートを導入してから探索者との摩擦が少なくなっているそうです。あのゲート入り口の『それでは安全安心を旨に、素晴らしい探索者生活をお楽しみください』と言ってくれているのもセブンセージ・プロトコルなのですよ。
「そういうものですか」
「そういうもんだ。それにだ。国に対して公開なんてしたらどこに狙われるか分かったもんじゃないからな。身内を悪く言いたかないが、国の組織内だって、ぶっちゃけ信用できるもんじゃねーからよ。AIに任せられるんならその方がいいわな」
そう言ってから葛西少尉は、「ああ、ワリィ。今のオフレコで」と言いながら笑っていました。
「そんで大貫さんがヘヴィスキルホルダーの認定される理由は分かっただろ。で、ここからはメリットの話なんだが、これに認定されると国から年間100万円程度が支給されるんだよ」
100万円ですか。前職の時であれば嬉しかったのでしょうが、今の私の収入を考えれば、そこまでという感じはありますね。いや、私も贅沢になってしまいました。
「こんなところに住んでるアンタの稼ぎに比べれば微々たるもんだろうが、税金も一部免除されるから、稼げば稼ぐほどに儲けも膨らむって感じだな。あ、俺は詳細を知らないから、詳しくはそいつを読んでくれよ」
「分かりました」
「手続きに関しては探索協会の方で管理していますので、認定後でも大貫様は今まで通りの対応で問題ありませんよ」
「それは、ありがたいですね」
探索者に対しては、確定申告などもすべて自動処理してくれます。経費も購入履歴からAIが判断してくれますし、新しい組織だけあって、この手の対応では探索協会は他に比べて一歩抜きん出ているのですよね。
「とは言っても、国がそこまで優遇するからには義務も付きまとう。まあ、上級クランや上級探索者みたいに遠方の迷宮災害や魔獣災害への参加義務はないんだが、出動要請自体はされるし、参加すれば積極的に魔獣の多いところに回される」
「ほぉ」
「とは言っても基本的には手厚い護衛付きだがな。ヘヴィスキルホルダーってのは、国としても貴重な存在で、大事な銃火器代わりだ。日本って国は、相変わらず銃器アレルギーのレッテル貼りが多くてな。こんなご時世でも探索者って代替品があれば、銃は規制しろって言うのが市民様ってヤツなんだ」
「……葛西少尉」
「ああ、悪い悪い。基地の外にはいまだにそんなのが結構いることがあってな。こういう時代ならそういうのも減るんじゃないかと思ってたんだが、生活に余裕ができるとすぐに戻ってくるんだよな。なんなんだろうな、アレ」
「ハァ」
葛西少尉も何やら溜まっているようですね。
「まあ、そんなわけでヘヴィスキルホルダーになれば迷宮災害への参加要請があるだろうけど、参加してもアンタは安全にブッパできる形になるだろうから安心して欲しいって話さ」
安全圏で攻撃しているだけ……それはあまり面白くはなさそうですし、最高の探索者らしからぬ行為に思えます。前職の元部下の田中くん曰く芋るというヤツなのではないでしょうか。
こちらから要望を出せば、前線に出てもよろしいのでしょうかね?
「とりあえず、メリットとデメリットはこんなところか。保護探索者制度の対象にもなるんだが、アンタ前から対象みたいだしな」
「ええ。そうですね」
「それでヘヴィスキルホルダーに認定されてみる気になったか大貫さん?」
「そうですね。気になる点はありますが、問題はないと思います」
「そいつは助かる。ただ、実は今のままだとアンタはヘヴィスキルホルダーにはなれない。何故だか分かるか?」
「もっと実績を上げる必要がある……とかですか?」
「いや、そっちじゃねえ。実績に関しては問題はねえんだよ。それよりももっと大きな問題だ.いや、俺もマジかって思ったけどさ」
それは一体……そう私が首を傾げると、沢木さんが少し困った顔で、答えを告げてくれました。
「大貫様。探索者になってまだ二ヶ月のあなたは、まだ正式な探索者ではないんですよ」
ああ、そういえば、まだ私は試用期間のような立場でしたね。
【次回予告】
それは英雄の称号か、虐殺者の烙印か。
清濁飲み干す器となるか、
或いは清廉を尊ぶ道を望むか。
どうあれ、男の道はひとつ。
そして赤熊の勇者が扉を開く時、
男はそこに何を視るのか。