クライクライベアー01
更新再開します。
作中で比較されている探索者レベルですが、
Lv1〜20:ルーキーの壁。20超えたら中堅の仲間入り。
Lv20〜30:中堅どころで探索者の多くはこの辺り。ここらへんからレベルは上がり辛くなる。若手の実力者は能力があっても経験値不足で20台が多い。
Lv30〜40:一般クランのエースクラスか上級クラン所属者の多くがこの辺り。
Lv40〜50:上級探索者となるのがこの辺り。
Lv50〜:ユーリ、烈など国家間で名前が知られるほどの実力者。
前後5レベル差程度ならスキルや成長の仕方で変わるので実力は団子、10レベル差だと流石に違う……ぐらいの感覚です。
善十郎は特殊な事例ですが、スキルや当人の能力、技量次第でレベル差は覆せますので、あくまで目安です。
ナイトキングダム事件。
それが私たちの遭遇した、秩父ゲートの奥地に突然出現した厄災級魔獣と亡霊都市の発生を指す名前となったわ。
まあ、妖精女王の私の華麗な活躍によってこの事件は無事解決して(実際には問題が先送りになって、諸々のことを探索協会に投げて、私たちの責任は回避されたというのが事実なんだけど)、ひとまずの平穏を取り戻したのよね。
でも、あの事件は私たちにも大きな衝撃を与えたわ。厄災級という常識を超えた存在、戦いそのものが成立しない理不尽、そんな存在を前にして一体の獣の心に大きな傷がついてしまった。
その獣の名はラキ。私の職場の同期である彼は今、悩んでる。あの戦いの中でなす術もなかった自分を恥じている。己の至らなさに心を痛めている。そんな彼が今日、ひとつのケジメをつけようとしていた。悲壮な覚悟を持って。
「ラキ。ゼンジューローは今サワキとの話をしてるわ。だからここには来ないし、結果がゼンジューローに知られることはない。だけど、本当にそれで良いの?」
「キュルッ」
「ニパッ」
川越メイズホテルの地下にある訓練場。
そこにあるコロッセオフィールドは、普通であれば使用者のダメージを肩代わりしてくれる設置型魔法具で、この川越メイズホテルの目玉でもある探索者の訓練場なの。レンタル制で借りている間は他の探索者に見られることもないから、スキルを見られる心配もないし安心安全に訓練ができるってわけね。
まあゼンジュウローは肩代わりしてくれる魔力の防御膜自体を通過してダメージを与えてしまうんだけど、ラキとフォーはそういうイレギュラーはない真っ当な戦闘スタイルだから対等な勝負ができるわ。
「ちゃんとフロントに許可をもらってきているから1時間はこのまま借りられるわよ。フォーはフォーフットと合体状態でやりなさい。全力でないとラキは納得しないだろうし。それで、気持ちにケリはつけなさいよラキ」
「フー、ガ」
「ニパッ」
ラキが両手を挙げて意気込んでいるけど、その顔には余裕がない。
前回の戦いでラキは己の力不足を感じてしまったの。そして強化されたフォーに劣っている自分の力不足を感じ、ふさぎ込んでいた。ゼンジューローは尻尾を抱き枕に転がってるだけにしか見えてなくて、ニコニコしながら撫で回していたのだけれど。ああ、ノンデリってこういうことを言うのね……って思ったわ。
まあゼンジューローはそういう機微があまり分からない人間だから仕方ないんだけどね。
とはいえ、このままの状況はダメだってラキ本人も思ったんでしょう。ラキがフォーに決闘を望んだの。
群れの中での序列をはっきりさせたかった……ということなんでしょうね。
私の見立てでは、出会った頃のフォーとラキはまだ互角に近い戦闘力だった。
でも時間が経過して、ゼンジューローのレベルアップの恩恵を得たラキは強くなった。
遺跡探索前の時点で探索者の実力で言えば、フォーはレベル20クラスでラキはレベル30クラスといったところかしら。
ちなみにゼンジューローのレベルは20だけど実力的には暫定50以上といったところよ。
まあ、ゼンジューローは在り方からしてまともではないからね。仕方がないわね。
で、フォーは神霊との融合でパワーアップしたから素の状態でもレベル30クラス。フォーフットとの合体により、レベル40クラスにまで上がった。つまりラキは地力で負けている上に、フォーの中の人の戦闘技術は極めて高いし、レベル差を覆す技術も持っている。こうなるとラキはもうフォーには勝てない。結果は見えている。
そして、それは私の目の前で今、現実となろうとしていた。
「フーーーーッ、ガッ」
「ニッパァアアア」
決闘が始まったけど、ペースはずっとフォーのもの。
フォーフットと合体して大型化しているのに機動力は高く、ラキの攻撃を一切受け付けない。
ラキも頑張ってるけど、ラキの攻撃手段は噛みつきやタックル、両腕での攻撃の近接攻撃のみ。ガントレットの爪も鉄肉球も当たれば強力ではあるものの、当たらなければ意味はない。
対してフォーは四脚の機動力に加えてふたつの槍とふたつの盾を器用に使いこなして、攻撃を仕掛けていく。ひとりファランクスみたいなもんよね、アレ。
先日にガンテツ工房からようやく届いた槍と盾の力も大きいわ。
霊銀槍2本と水晶盾2枚。霊銀槍はリンに渡した風の竜晶剣に近い、刃だけが神霊銀で他は精霊銀の槍。水晶盾は神霊銀を引き伸ばした透明な盾ね。凛用の風の竜晶剣のオーダーを差し込んだことで納期は遅れたけど、無事に届いたし、その出来は十分過ぎるものだった。まあそれを見てラキが余計にしょげちゃったんだけどね。
それにフォーには太陽顔からのフラッシュ攻撃まであるわ。本来は悪霊を消滅させる類の攻撃だけど、単純に目潰しにもなるから、近接戦オンリーのラキには十分に脅威となる。地力の差に加えて、技量と手数、手札の不足もあるのではどうあってもラキの敗北は揺るがない。それにフォーフットには隠し武器として二本の砲身が存在しているわ。
ダークハンズの時は負のオーラを装填していたけど、通常はエーテルを変換して放つもの。さすがに今はエーテルを入れてはいないけど、ゼンジューローはエーテルを生成可能だからコストゼロで撃てるのよ。
まあ、その切り札なしでも……
「勝負あったわね。フォーの勝ちよラキ」
「ピーー」
倒れ込んだラキの目の前にフォーの槍が向けられたことで決着はついた。
フォーが上、ラキが下。それがここに確定しちゃった。
ラキが悲しげに鳴いているけど、それでもこれは自分が自ら望んで得た結果なのよラキ。覆したいのであれば、強くならないといけない。
「ピーーーーーーーーー」
まあ、本来であればね。ラキもパワーアップしているはずなのだけれどもね。
肉体を持っている私たち、普通の魔獣は進化も自分の体の成長に合わせるから時間はかかるけど、召喚獣は魔力を構築させた魔力体。
探索協会の召喚獣マニュアルによれば、召喚獣は経験値も召喚主と共有しているし、召喚主と召喚獣のどちらであっても、格上の魔獣を倒せばかなり早い段階で進化はするとのこと。だからドラゴンを二体も倒してるし、この間のソードアントも結構な数を仕留めてるんだから、実はとっくの昔に進化していてもおかしくはないっぽいのよ。
でもラキはまだ進化できていない。となれば、召喚獣の進化には別の、何かしらのプロセスが必要な可能性は高い。召喚獣自体の数が少なく、調べても情報はまだ得られてないけど……ラキ、もう少し待ってなさい。きっとあなたを進化させてみせるわ。
ちなみに私は進化ツリー最上位でカンストだからこれより上はないし、レースシフトして神様になっちゃうぐらいしか選択肢がないのよね。まあ、妖精女王だしね。仕方がないわね。
【次回予告】
その場に来たるはかつての戦友。
天に在りし異形の極光が煌めく時、
善十郎に告げられた選択はふたつ。
国を背負うか、自由を望むか。
選ぶべき道はひとつ。
そして選んだ道の先にもまた道がふたつ。