ナイトキングダム11
ジャンル:ホラー
輝いております。キラキラと輝いております。
あの禍々しかったダークなフォーハンズが、今ではまるで仏様のように真っ白に輝いておりますよ。
すでに怨霊の気配はなく、全身が淡く光っていて、それがどうにも神聖な光のようで、思わず拝みたくなってしまいます。
これが負のオーラを取り除き、正のオーラのみとなって存在している霊体の力なのでしょうか。もしかするとフォーハンズに宿っているモノは、神様に近い存在に昇華してしまったのかもしれません。
「ティーナさん。フォーハンズはどうなったのでしょう?」
「結論から言うと今のフォーハンズは、フォーハンズと、昇華されたっぽい霊体と、聖日輪草のハイブリッドになったわ。善十郎が怨霊から負のオーラをすべて吸い取った結果、元々の正のオーラだけが霊に残ったの。悪い人の成分を抜いて超良い人になった? みたいな?」
超良い人ですか。簡単に詐欺に引っかかりそうな感じがありますね。大丈夫なのでしょうか。
「当初の予定だと聖日輪草に強化をかけて、フォーハンズの支配権を怨霊から取り戻して呪いを吸い出そうとしていたんだけどね。あの元怨霊が聖日輪草を受け入れてフォーハンズの中で共存し始めたから安定してるわ」
聖日輪草に寄生された方もティーナさんには絶対遵守するのでしたっけ。そう考えると現状は安全なのでしょうか?
「つまり、聖日輪草の強化はもう必要なくて、問題は解決した……ということでよろしいのですか?」
「そうね。強化と言っても一時的なものの予定だったし、今は元怨霊が入っているので他から取り憑かれようがないしね。唯一の問題は」
ティーナさんが、キラキラして微笑んでいるフォーハンズに視線を向けて口を開きました。
「今回のことで聖日輪草が成長して自意識を持ったことと、元怨霊の生前のパーソナルも混じってることぐらいだけど、私はこのままの方が良いと思うわよ。まあ……善十郎が嫌なら聖日輪草は一度枯らして新しいの植えてみるけど?」
その言葉にフォーハンズがビクッとなって私を見ました。
どことなく人間臭くなっているのは気のせいではないようですね。微笑んでいるのに、捨てないでという感情が伝わってくるようです。これ、本当に正のオーラだけなのでしょうか。この反応はネガティブな感じですが。
「問題はないのですよね?」
「もう悪霊化することはないでしょうし、あの遺体の姿からして元は高位の騎士とかだっただろうから、以前のフォーハンズの頃よりもパワーアップしてるんじゃないかな。だからね。今後の探索にも役に立つと思うし、ねえゼンジューロー。この子、飼っちゃ駄目?」
ふむ。ティーナさんはこのまま、このフォーハンズを連れて帰りたいようです。確かにフォーハンズがパワーアップしたのであれば、今後の探索の役にも立つでしょうし、ティーナさんが良いと思うのであれば、私としては別に良いのですが。
「責任を持って飼ってくださいねティーナさん。飽きて捨てたりしてはいけませんよ」
「分かったわゼンジューロー。ほらフォーハンズ、良かったわね」
「ニパァアアア」
フォーハンズがガシャンガシャンと頭を下げています。ひまわりが揺れていますね。
取り憑かれているからか動作が人間臭くなりましたが、先ほどの黒いオーラが出てきていた時のような圧迫感はありません。
あと、口は残っていますし、鳴くんですね。変な鳴き声ですけれども。
「キュル、キュルル」
「ニッパァア」
ラキくんとも打ち解けているようです。
ペット同士の喧嘩は大変ですからね。仲良くやれそうでよかったです。しかし……
「自意識を持った……ですか。となると、もうロボットのように考えて扱えませんね。これからはフォーさんとでもお呼びいたしましょうか」
実は遺跡フォーハンズやダークハンズなどとフォーハンズの亜種が出てきて、私の中での呼び方も混乱していました。フォーハンズは機種名ですからね。もっと前に、ちゃんと名付けてあげるべきでした。
「フォーハンズだからフォーさん……ねぇ。まあゼンジューローがそれでいいならいいけど。じゃあフォー、あなたの名前はフォーよ。いいわね?」
「ニパァアア」
歯茎を剥き出しにして笑う姿は普通に恐ろしげですが、輝きが恐怖心を拭い去ってくれますね。アレにはリラックス効果があるのかもしれません。
「ともかく、これでフォーさんも取り戻せたわけですし一旦は戻りますか」
「そうね。今ならフォーも四脚台を自由に扱えるだろうし、荷物の回収もしやすくなったわよ」
積載能力が上がったということは、ここに来る途中でピックアップした品の回収も捗るということですね。これは結構な稼ぎに……
ギィィイイ
「おや?」
おやおや、門が開き始めていますよ。
「ゼンジューロー、アレって」
「ニパ?」
「キュル?」
長い間、開けていなかったせいか、鈍く、ゆっくりとではありますが、鈍い金属音と共に左右に分かれて開いていきます。
あ、中から何か出てきました。
アレは……手?
【次回予告】
ついに門は開き、世界が凍った。
現れたソレは怨嗟を凝縮した汚泥。
老人の形をした死そのもの。
そして幾千幾万の死と対峙した善十郎の一手が放たれた時、
止まった全てが動き出し、ソレは天に向かって溢れ出した。