ナイトキングダム08
なるほど。あの門の先にあるのは、異世界人の街……かもしれないですか。
まあ、動いていても、動いていなくても、あの先が異世界の都市であるならば、大発見でしょう。
現在、見つかっている異世界人の都市というのはそれほど多くはなく、あってもすでに魔獣に荒らされた後であるものが大半です。
ですが、ここまでしっかりと閉じられていたのであれば風化せずに残っているものも多いかもしれませんし……いえ、もしかすると生きている異世界人がいれば世界初の新発見という可能性もあります。
そうなれば最高の探索者に一歩二歩どころか、K点越えをしていることになるのではないでしょうか?
これはもしかすると、もしかするのでしょうか?
「あのね。テンション高くなっているところ悪いけど。ゼンジューロー、門を開けるのは止めておいた方がいいわ」
「なぜでしょうか?」
「さっきの震動を覚えているでしょ」
「それはまあ」
フォーハンズが逃げる前の時に感じた地震のような不思議な感覚ですね。もちろん、忘れようがありません。まるで心臓を掴まれたかのような緊張感がありました。あれは確かにドキドキしました。
「それにあれを見て」
もうすぐ最下層に到着しますので、先ほどから響いているガーンガーンという音の正体も今は見えています。あの音は、フォーハンズが足元の巨大な門をバルディッシュで叩いている音でした。
私たちがここに入った時点で音が鳴っていたところを考えるに、フォーハンズは通路を通らずに上から落下して、ここまで降りてきたのでしょうかね。
今のフォーハンズは四脚台と合体したケンタウロス形態というだけではなく、全身を棘のついた植物のツルが巻き付いて刺々しくなっており、あの黒いモヤに染められて全身が黒く、モヤも炎のように噴き上がっています。また、バルディッシュを二本の腕で支え、残りの二本の腕は盾を構えていて攻守ともに隙がありません。
それにあの黄色かったひまわり顔ですが、花びらが真紅に染まり、それ以外は黒くなっています。花弁にギザギザの牙が並んだ口ができていて、吊り上がった笑みも浮かべているのです。
「笑っていますね?」
「人間、怒り過ぎると笑うそうよ」
ここまでくると私でも分かります。
あの黒いモヤ、いえ黒いオーラは可視化できるほどの憎悪が魔力と共に溢れ出たものということなのでしょう。すっごく憎いって想いが直に伝わってきて新鮮な気持ちになります。今まで感じたことがないものなので、ゾクゾクしてきて、気分も上がってしまいます。少し癖になりそうで怖いですね。
「どう考えてもワケありよ。門の先にはそうなるだけのものがあるということでしょうね。さっき封印はないと言ったけどね。封印されていない『強大な怪物がいる』可能性はあるのよ。少なくともちゃんと調べて、安全性を確保した上で開けた方が良いと思うわ」
「なるほど」
そう言われると余計に中を見たくなりはしますが、すごく見てみたい気もしますが、さすがに私も理解はしております。はい。しっかりと私も感じてはいるのです。
確かに『あの先にいるモノ』は駄目でしょう。あのグランドウィンドドレイクたちと遭遇した時は戦えるという確信がありました。ユーリさんの戦闘を見た時は、まだ勝ちの目はあると思えました。一番近いのは三船さんを前にした時なのですが、勝ち負けの部分はともかく、門の先に『ある』のは、個人では手に負えないほど規模が大きい……そんな感覚なのです。
「そうですね。私もよくは分からないのですが、どこかのタイミングで『勝ちの目を逃したような感覚』があります。今回は退くべきなのかもしれません」
どうにかすれば勝てた可能性はあったかもしれませんが、今となっては手遅れだとも感じています。それが何かは分からないのですが……これも探索者としての直感というものでしょうか。であれば、仕方ありません。
「では、あの扉を攻撃しているフォーハンズを正気に戻して回収したら、今日は撤退ですね。でも、アレって本当に元に戻せるのですか? なんと言いますか、もう悪魔みたいになっていますが」
「う、ううん。形はともかく制御権は……いけるはず。多分……ううん。絶対に!」
ティーナさんが決意を決めた顔で、そう返してくれました。
であれば、私は私のやるべきことをなすだけです。先ほどよりも随分と強くなっている気はしますが、ちゃんと拘束してティーナさんに引き渡してみせましょう!
【次回予告】
異界の騎士は憎悪に燃え、
己を阻む敵へと挑んだ。
善十郎は仲間を取り戻すため、
地の底で対峙した。
振るうは刃、放たれるは不可視の弾丸。
互いの譲れぬ願いのために両者は挑み、
そして決着の鐘は鳴り響いた。