ナイトキングダム02
「いや、本当にただの好奇心だったのですよ。グランドウィンドドレイクのブレスを吸引で吸えるのなら、太陽光でも可能なのではないか……と思いまして、それでちょっと試したらできたのですよね」
それで分かったのですが、吸引は一分ほどで吸えなくなりました。
光なら質量はないだろうからずっと吸収できるのかとも思っていたのですが、吸引収納の方に活動限界があったようです。
「なるほど……できちゃったものは仕方ないわね。けど、なんで黙ってたのよ」
「いえ、伝えるつもりはあったのですが……部屋に戻ったらユーリさんが裸で土下座をしていて、頭から飛んでいました」
「ああ、あの時かー」
はい。思った以上に自分でもビックリしたのです。ユーリさんの頭がおかしくなったのではないかと。いや、実際おかしくはあったのですが。
「事情は分かったけど、報連相はしっかりしてよねゼンジューロー」
「はい。申し訳ありません」
怒られてしまいました。こんな命がかかっている状況でのサプライズは確かにやり過ぎでしたね。
しかし、ティーナさんも以前に比べて意見を言えるようになった感じがあります。
最初の頃は私の記憶を受け取った影響か思考も私に近かったのですが、アイデンティティが確立してきたのか、こうして私を叱ってくれるようになりました。逆の状況がないのが悲しいところではありますが、私だけでは至らないところも多々ありますし、ティーナさんがしっかりしてくれるのは良いことです。助かります。
「太陽光を集めたレーザーね。ソーラービーム? ビーム? レーザー? まあどっちでもいいか。それで、この威力ってわけなのね」
「はい。敵に向けて撃ったのは初めてですが、かなりのものですね」
付与された固定化の魔法が解けて、胸部の装甲が完全に熔解していますし、貫通して、後ろの壁にも穴が空いて、こちらも穴の周囲が熔けています。光とともに相当な熱量が出ていたのでしょう。我ながら恐ろしい技を身につけてしまいました。
「すごいだろうとは思っていましたが、ベニヤ板に撃った時には一瞬で燃え上がって消し炭になりましたので、あまり威力は分からなかったのですよね」
「え?」
「え?」
ティーナさんが驚いた顔をしておりますが、どうしたのでしょう?
「撃ったの? いや、ベニヤ板が燃えたってことはそういうことよね? でも迷宮災害前からダンジョンには入ってなかったし、あっちの世界での話なの?」
「ええ、まあ。試してみないと威力も分かりませんし。いや、眩しいだけかなと思ったのですが予想以上でして。一応空に向けて撃ったので被害は他にないはずですが」
「…………なら大丈夫かな?」
「多分」
もしかして不味かった……ですかね。
でも外から見てもせいぜいが白い光の線が一瞬見えただけでしょうし、問題はないと思いますよ。
魔力も含まれない純粋な光ですから、計測されることもないはずです。
「ともかくですね。今は倒したダークハンズですよティーナさん。なんだか分離しているようなのですが」
「そ、そうね。黒かったダークハンズが元の白い遺跡フォーハンズに戻って、下半身も分離して四脚の台のようなものになったわね。多分だけど、この四脚台、フォーハンズの強化外装だわ」
強化外装……何故でしょうか。無性に心が躍る言葉です。
「四脚台の前足が分離して、フォーハンズの四本腕に付いて出力を強化させ、さらには全身の装甲化と馬のような四本足の下半身に変形していたという感じかしら」
「ほぉ、そんなものがあったのですね。ダークハンズはああいう機体なのではなく、外付けだったと。であれば、ウチのフォーハンズにも使えますか?」
「いけるとは思うけど……」
ティーナさんがフォーハンズに視線を向けると、フォーハンズが頷いてから四脚台に近づきました。
「大丈夫みたいだけど、操作するのに少しかかるっぽい。制御を上書きするんだって」
「分かりました。じゃあ私たちはここを出る方法を探しましょうか」
「そうね。あの亡骸みたいにずっと閉じ込められたくはないわね。解析解除でどうにかならない?」
「実は先ほど、室内を調べた時にも使ったのですが駄目だったのですよね。何も引っかかるものはありませんでした」
「そうなのね。困ったわ」
入ってきた入口を除けば、ここは完全に閉じられた空間のようです。騎士の亡骸やダークハンズ、遺跡フォーハンズの残骸がここにあるのですから出入りする手段はあるのでしょうが、私には把握できません。
ただ、今は先ほど解析解除を使った時とは少し状況が違います。
「あの、ティーナさん。確認なのですが、あの穴から外への転移ってできませんか?」
「うん? ああ、いけるかも」
あの穴とは、先ほどのソーラービームで開けた穴です。壁を貫通していて、よく見れば穴の先には壁を越えた隣の空間も見えています。私の解析解除もティーナさんの転移も壁によって妨害されていますが、これまでも扉などが空いて空間が繋がれば発動は可能でした。であれば穴によって空間が繋がった今ならば、転移による移動が可能なのではないでしょうか?
【次回予告】
太陽の導きが道を照らし、
善十郎たちは自由の翼を手に入れた。
されど光あれば、また闇も濃く。
故に漆黒の魂も再び解き放たれる。
その有り様は憎悪の刃。憤怒の炎。
それは主君を討たんとする叛逆の騎士。
そして闇の刃が眼前の敵へと振るわれた。