アヴィスパレス09
本日、書籍版1巻の発売日です。
記念に善十郎が必殺技を編み出しました。
本日は21時にももう一話更新します。
ひとまず、ダークハンズは拘束できました。
拘束後も暴れておりますが、どれだけ動こうと私の収納スキルから抜け出す事はできません。とはいえ、それ以上の対応も難しいのです。
何しろ、ダークハンズは遺跡フォーハンズと同じはめ込み式球体関節です。ですのでハイマナジュエルの代わりのチップが胸部パーツに内蔵されているのですが、頑丈で活動停止にするのも、破壊するのも難しいのですよね。
ただ、遺跡フォーハンズと同じ構造なのに手足は分解しませんし、それと戦っている途中で気付いたのですが、ダークハンズは4本ある腕を2本しか使っていませんでした。あの煙といい、やはり壊れているのでしょうか。
何にせよ今は拘束していますし、危険はないはずです。
なので、ひとまずダークハンズはフォーハンズに警戒してもらいながら、私たちは部屋の中を探索し始めました。
そして探索をして分かったことなのですが、新しい出入り口は見つかりませんでしたが、ここは倉庫として使われていた場所だったのは間違いないようです。
もっとも現在は残骸以外、ほとんど残ってはいません。どうやら形あるものはダークハンズがほとんど破壊してしまったようです。あと原型が残っているものもあるにはあるのですが……
「骨ね」
「骨ですね」
「キュルッ」
「ラキくん、小突いてはいけませんよ。仏様ですからね」
「キュ?」
部屋の端っこにどなたかの亡骸が転がっておりました。もちろん風化して白骨死体となっていましたが、全身を頑丈そうな鎧で覆っており、鎧の隙間に無数の槍や剣が突き刺さっております。
見ればその鎧は、入り口で倒れていた亡骸の方々のものと同じですし、状況から察するに、この方はあの集団と分かれてひとりでここまでやってきて、遺跡フォーハンズに囲まれて殺された……という感じなのでしょうか。それと気になることが一点ありまして……
「頭、これ人間のものですかね?」
この亡骸の頭蓋骨が、どうにも犬などのような動物の頭蓋骨に見えるのですが。
「入り口の連中にも同じような感じの骨はあったわよ?」
「そうだったのですか?」
そこまでしっかり見ていませんでしたし、兜も被っていましたので気付きませんでした。
「異世界では獣人なんてのもいたらしいってのは資料にもあったし、多分そういう種族なんじゃないかしら」
「なるほど。コボルトという人のように活動する魔獣もおりますし、以前に襲撃してきた外国の方も獣の姿に変身しておりました。であれば、異世界にそういう種族の人類がいるのもおかしなことではないですか」
「そうね。そしてこの人物を遺跡フォーハンズがここまで追い詰めて殺したのは間違いないでしょうね。でも、この人を殺したのであろう遺跡フォーハンズはバラバラの残骸になって転がっていて、ダークハンズだけが残っているのは意味が分からないわね?」
「はい、そうですね。さっぱりです」
この方が死んだ後にダークハンズが暴走し、遺跡フォーハンズが破壊されて、この部屋に閉じ込められた?
訳が分かりませんね。やはり壊れている説が濃厚のような気がしてきました。今まさにダークハンズ当人の暴れ具合が激しくなってきておりますし、暴走状態というものなのではないでしょうか。
「ねえゼンジューロー。アレ、やっぱりヤバくない?」
「私もそう思います。当初から漏れていた黒いモヤが徐々に増えていっているような気もしますし、出力も上がっているように見えますね」
それでも収納ゲートの拘束が解けることはないと思いますが、ずっと拘束し続けているわけにもいきません。
「やはり危険ですね。回収可能ならば……とも考えていましたが、倒しておきましょうか」
「できるのゼンジューロー?」
「ふふふ、ティーナさん。男子、三日会わざれば刮目して見よという言葉を知っていますか?」
「同じ記憶持ってるんだから、当然知ってるわよ」
「ならば、そういう事です」
私とて日々成長しています。
あの迷宮災害を経て編み出した鉄球散弾、その応用である鉄球砲弾。
それらは確かに強力ではありますが、それでも格上の魔獣、例えばドラゴンなどを倒すのには火力が足りません。
ロックナイフと圧縮空気弾のコンボも強いのですが、それよりももっと高いダメージを出せる技が必要だと感じたのです。
そこで私の新必殺技です。
必殺技、すなわち必ず殺す技。
ティーナさんは、ここまで気付かなかったのでしょうか? 今日、私が吸引収納を使用していないということを。
圧縮空気弾さえ使えば、ダークハンズも多少は楽に倒せていたかもしれないのになぜ使わなかったのか。ふふふ、その理由は全て新必殺技のためだったのだと……
「ねえ。ゼンジューロー、まだ?」
「あ、はい。撃ちますね」
それでは行きますね。
ソーラービーーーーーーーーーム。
ジュワッ
「は?」
はい。終わりました。あ、壁も貫通してますね。
「え?」
ソレにとって光は忌むべきものだった。
光は生者への祝福なれど、
夜に生きる者には毒でしかなく、
ソレを光届かぬ地の底へと追いやった元凶だった。
それは、もはや語り部もおらぬ太古の記憶だ。
幾千年も昔の、遠き過去の話だ。
けれども、時を経ようとソレの中には残っている。
光という天敵への恐怖心が。
故に忘れていた心の軋みがソレを揺れ動かした。
故に忘れていた屈辱がソレの自我に火を点けた。
そしてソレが、ゆっくりと目覚め始める。
人非ざる存在。生命ですらない肥大化した力の塊。
生きとし生けるものにとっての絶対的なる災い。
人はそれを厄災という。