アヴィスパレス08
書籍版1巻発売まで後1日!
発売日の明日は朝と夜の2回更新予定です。
未だに壁にもたれかかって動かないダークハンズを警戒しながら、部屋の中に入ります。室内は思ったよりも広いのですが、想像以上に散らかってもいました。
「なんなの、この部屋? 元は倉庫だった感じだけど、あの瓦礫の山……遺跡フォーハンズよね?」
「はい。遺跡フォーハンズの残骸ですね。随分と念入りに破壊されているようです。あれはもう固定化付与も機能していないでしょう」
「遺跡フォーハンズを動かなくするには、アレくらい徹底する必要があるという事かもしれないけど……」
ここまで壊し尽くさないと駄目だとすると、やはり遺跡フォーハンズは無視して進むのが正解なのでしょう。ともあれ、問題なのはこの惨状を行ったのが誰かという事ですが、ここにはひとり……いえ、一体しかおりません。
「ゼンジューロー、ダークハンズが動き出したわ」
やはりあの程度では終わりませんか。
では、先ほどと同じように空気弾を……
「む?」
空気弾を避けられました。
ケンタウロスみたいな姿をしている通り、ずいぶんと素早いようです。ですが、私はひとりではありません。
「ラキくん、フォーハンズ。左右からお願いします!」
「フーーー、ガッ」
ラキくんが咆哮して動き出し、フォーハンズも合わせて飛び出しました。左右からふたりが仕掛け、正面から私も攻撃する。この完璧な陣形に……え?
「速いッ」
なるほど。ラキくんたちよりも速いです。これは止められませんね。
「ゼンジューロー!?」
ラキくんとフォーハンズを無視して、一気に私と距離を詰めたダークハンズがバルディッシュを振り下ろしてきました……が、物理攻撃は私には届きません。
「問題ありませんよティーナさん」
バルディッシュと収納ゲートが激突してガギィンッと金属音が響き渡ります。
無論、私の収納ゲートに揺らぎはありません。文字通りに不動です。一方で渾身の一撃を放ったダークハンズの方の負荷はそれなりに大きなものでしょう。
「パワーがあるわね」
「ですね。しかし、ここで終わりにします」
攻撃が弾かれて無防備な状態のダークハンズに収納スキルで拘束を……む!?
「ゼンジューロー、あいつ避けたわよ!?」
「収納ゲートを並べて拘束しようとしたのですが逃げられました。探索者の勘のようなものが備わってるということでしょうか」
スピードもパワーもあって、こちらの攻撃を避ける勘や判断力もある。やはり、これまでの遺跡フォーハンズとは違いますね。
「ガッ、ガッ」
跳び下がったダークハンズに、ラキくんとフォーハンズが応戦していますが、ふたりを相手にしてもダークハンズは退くことなく反撃に出ています。
「フーーーーッ、ガッ」
おお、ラキくんの鉄肉球の一撃がダークハンズに……
「ぴーーーーー」
当たらず、反撃を喰らいました。
フォーハンズが庇いましたが、どちらもバルディッシュに弾かれて、吹き飛ばされて転がっていきます。
やはりスピードもパワーもかなりのものです。ただ、ダークハンズは4本腕なのにバルディッシュを持つ2本の腕しか使用していないように見えます。あれも動かれたらますます厳しい戦いになるでしょうに、故障でもしているのでしょうか?
「おや?」
ダークハンズがこちらを見てきました。
最初の攻撃といい、どうも彼は私がリーダーだと認識しているようです。頭も良いのでしょう。ですが、その性能もある程度は把握できました。今度こそ勝負を決めにいきましょう。
「時間遅延解除」
時間遅延の収納空間の解除と共に私以外の時間が減速していきます。そんな中で、私は指二本を突き出して、手を銃に見立てて岩砲弾を撃ちます。
「これも避けますか」
この減速した空間内、相手にしてみれば私の攻撃は今までよりも加速しているはずなのですが、最小の動きでダークハンズは避けました。
やはり探索者の持つ勘のようなものが彼にもあるように思えます。まるで機械というよりは人。何かしらの意志を持っている?
ですが、避けられてしまうなら避けられないような攻撃をするまでです。
私はダークハンズの周囲に、みっつの収納ゲートを発現させました。
「!?」
収納ゲートは見えないはずですが、何かしら仕掛けられていると気づいたのでしょう。咄嗟に逃げようと動き出しましたが、もう遅いです。
ジャガガガガガガガガガガッ
放ったのは鋼鉄球の鉄散弾三連です。
あの迷宮災害での経験を経て、パチンコ球の威力に感銘を受けた私は、収納空間の一部に金属球を入れるようにしていたのです。
今回は600発のパチンコ玉サイズの金属球入り収納空間を三つ、8センチメートルサイズの大玉を入れた収納空間を三つ用意しました。
そして今、600発入りの収納空間を全て解放したのです。
ダークハンズもそれを避け切ることは流石にできません。全身を殴打されて、踊るように跳ねながら最後には床をバウンドして壁に激突しました。
ふむ、ここまでやっても、遺跡フォーハンズのようにバラバラにはなりませんか。
「まあ、どうあれこれで終わりです」
収納ゲート拘束。ドラゴンの突進でも揺るがない私の収納ゲートをダークハンズの周囲に並べて壁際に固定しました。もう逃げられません。
そして時間が通常の流れに戻ります。ティーナさんたちの動きも元に戻りました。
「おお、やったわねゼンジューロー。ガチャガチャ気持ち悪く動いていたみたいだけど、凄かったわね」
ガチャガチャ気持ち悪い……確かに私は素早く動こうと体を動かしてるわけではなく、結果的に速く見えているだけですからね。客観的には早送りの映像を見ているような感じになるのは仕方ないところですが、まあ凄かったのであれば良いのではないですかね。
……うーん。やっぱり気持ち悪い……ですか?
【次回予告】
必殺技。
それは読んで字の如く、
必ず殺す技を指す。
それは浪漫。それは憧憬。それは夢。
そして、ひとりの男が夢に向かって手を伸ばす時、
極光の祝福が空に広がり、新たなる絶技が産声をあげる。