アヴィスパレス07
書籍版1巻発売まで後2日!
「なんというか……ここまでのものに比べるとかなり殺風景な通路ですね」
「遺跡フォーハンズが利用するためのものだからってことなのかしらね」
「キュルッ、キュルル」
今私たちが歩いている通路は、これまでとは打って変わって簡素な造りをしております。とはいえ、ここもまた転移、解析解除ともに壁の先に通らない徹底ぶりです。ついでに固定付与もされていて破壊もできません。
「仕掛けなどもなさそうですし、裏方用の通路なのでしょうね。どうやら下の方に降りていっているようですが、この先に何があるのでしょうか」
「どこに罠が仕掛けられてるか分からないし、慎重に進みましょう。後ゼンジューロー、その持っているものをしまいなさい」
「この王笏ですか? なぜでしょうか?」
ティーナさんが指差したのは、私が持っている王笏でした。
「それは、間違いなく魔法具よ。下手に発動したら何が起こるか分からないでしょう。なのにゼンジューローは、さっきから無造作に振って歩いてるし。気になって仕方がないわ」
「そうでしたか。無意識だったので。でも魔法具だとすれば、どんな能力を持っているのでしょうか?」
「さっきの感じからすれば、高度な幻術を発現するか、或いは本当に転移させる能力があるのか……あの部屋を再現するっていう線もあるかもしれないわ。それに落とし穴に一緒に落ちる造りだったことを考えれば杖自体も頑丈に作られてるはずよ」
なるほど。確かに王笏を取った人間はこれを持ったまま、罠にかかるわけですからね。この造りからして使い捨てということはないでしょうし、アレに耐えうる強度の可能性は高いですか。
「とはいえ、それをここで調べるのは危険すぎるわ。転移だった場合は最悪、さっきの落とし穴のある部屋にまた戻されるかもしれないし」
「それは面倒ですね。仕方ありません」
とりあえずは腰に差しておくことにしました。
この遺跡に入ってから、私の唯一の成果です。失くさないようにしないといけませんね。
そして、そんなことを話していると、通路の先に扉がありました。
「ゼンジューロー、解析解除で中の様子、分からない?」
「確認してみましたが、残念ながら見えません。ただ空間があるのは間違いないようです。後、扉は開きますね」
ここに入ってから解析解除の弱体化が著しいのですが、それでも十分に有用です。そんな私の優秀な解析解除によれば、入り口付近はひとまず問題ないようなので、ドアを開けま……
ガァンッ
「おや?」
「ゼンジューロー!?」
「フーーーーッ」
驚きましたが、私は大丈夫です。
何が起きたかと言えば、あらかじめ展開していた収納ゲートシールドに扉を開けた先から出てきた大きな刃がぶつかって、刃の方が弾かれたという感じです。
流石にこれ以上うっかりは……と思って、収納ゲートを並べた盾をあらかじめ用意して扉を開きましたが、それが功を奏したようですね。
「部屋に入りたいので失礼します」
私はそう口にして、刃を放った相手に空気弾を撃ち込みました。
ドンッ
という音ともに私を攻撃してきた何かが吹き飛びましたが……おや、踏みとどまりましたか。
「まあ良いでしょう」
一発で駄目なら二発、三発……おっと、四発目は流石に止められませんか。
重ねて撃って、ようやくクリーンヒットです。
空気弾に弾かれた何者かが後方の壁に激突しました。
「何あれ? 黒いフォーハンズ?」
「ですかね。とりあえずはダークハンズとでも呼びましょうか。ベースは似ていますが、少々マッシヴなプロポーションをしておりますし武器も大きな半月型の刃が付いた槍……バルディッシュという武器に似ています」
「ああ、ゼンジューローが武器候補に考えていたヤツね」
ティーナさんは私の記憶を持っていますから、そういうことも分かってしまいますか。
バルディッシュというのは、東ヨーロッパで使われていた大きな刃を持つ戦斧の一種です。
私が探索者になる際に、パワーファイター系のステータスであれば使おうと考えていた武器でもあります。ステータスがオールFの時点で諦めましたが。まあ、それはそれとして……
「見てくださいティーナさん。ダークハンズの下半身、馬のようになっています。まるでケンタウロスです。それに変な黒いモヤも出ていますよ」
故障しているのでしょうか。
黒いモヤが全身から立ち昇るように出ています。
それに、どうにもピリピリと来ますね。これは怒り? 殺気? ウチのフォーハンズと同じならロボットのようなもののはずですが……どうにもただのフォーハンズではないようですね。
【次回予告】
絡繰りたちの屍の山。
その上に立つは四腕四脚の半人半馬。
凶刃振るう彼の者は、
怨讐の煙纏いし古の騎士なり。
永劫の牢獄の中、刹那に見えた一筋の希望。
故に彼は立ち上がった。
愛しきものを奪った王を、
その尖兵を打ち滅ぼすために、
憎悪の刃を振るい始めたのである。