アヴィスパレス04
今週いよいよ書籍版の収納おじさん【修羅】が発売……ということで、書籍発売日まで明日からカウントダウン更新をいたします。
「ほぉ。これはすごいですね」
門をくぐって入った第二遺跡の中は、豪奢と呼ぶに相応しい装飾華美な玄関ホールでした。
キラキラと輝く巨大なシャンデリアが吊るされていて、私には価値のわからない調度品や、異世界らしいドラゴンと戦う戦士、または水晶の谷などを描いた絵画なども飾られております。中でも正面の階段上に飾られている、王冠を被り、全身を煌びやかに着飾った老人の絵画のインパクトがとても大きいですね。
「この方が、この遺跡の主なのでしょうか?」
「そうかもしれないわね。どことなく不気味に見えるけど」
確かに。なんと言いますか、生きているという感じがしないのです。
生命力の代わりに良くない何かが詰め込まれているかのような違和感。生者ではなく死者に近しい雰囲気。恐らくはティーナさんもそうしたものを感じ取ったのではないでしょうか。
「この方、耳が長いですね。もしかしてエルフという種族の方なのですかね?」
「エルフって不健康そうなのね」
そうですね。現実のエルフは不健康なのかもしれません。ただ、この方はとても不健康そうなのに、相当強そうな感じでもあるのですよね。絵ではありますが強者感が滲み出ています。
「ここまで豪華な建造物を建てられるのですから、相当な権力の持ち主だったのでしょう。それにしても、この玄関ホールですが、よく見ると埃ひとつありません」
「そういう魔法具があるのか、もしくは入り口の遺跡フォーハンズが掃除をしていたのか……遺跡自体が稼働しているのだから、メンテナンスがしっかりしているのはおかしなことではないのだけれども」
ウチのフォーハンズも料理に、洗濯に、掃除に整理整頓と家事全般をこなします。ホテル暮らしではそこまで活用できませんが、一家に一台欲しい人型魔法具、それがフォーハンズです。
「遺跡フォーハンズが掃除をしているかもしれませんが、入り口にいたのは埃が被っていましたから別口ではないですかね」
「ああ、確かにそうね」
「それで、どうですティーナさん? 遺跡内で転移は使用できそうですか?」
逃走経路の確保は探索者としての基本ですね。
特にティーナさんの転移スキルが使えるか否かは、我々の生存率に大きく影響します。
「そうね。視覚認識の短距離転移は問題ないわ。空間把握による中距離転移は通路の途中までは行けると思う。座標に向かって転移する長距離転移は、そもそも座標を把握できないから使用できない……って感じかな。閉まっている扉の中は認識できないから無理ね。それとあの門の先の遺跡入り口は認識できないから、一度自力で門を潜らないと上まで転移できないわ」
予想通りではありますが、やはり転移スキルにも制限がありますか。
つまり、ここはそうするだけの理由がある重要な施設ということです。なおさら、ここに興味が湧いてきましたね。
「ゼンジューローの解析解除はどう?」
「そうですね。使ってみますか。解析解除」
己の知覚が瞬間的に広がっていくのを感じます。しかし、ここは今までとは少し違いますね。ああ、駄目です。この感覚は、間違いなく妨害されています。
「確認しました。ティーナさんと同じです。感知できるのは通路の途中までで、扉が閉じられている部屋の中までは分かりません。いえ、扉の先も若干は把握できましたが」
「へぇ。ゼンジューローの解析解除でも分からないとなると相当に厄介かも」
「そうですね。それと」
私は、目の前の柱の一部に空気弾をぶつけました。ガァンッと音がして、ティーナさんが驚いた顔をしましたが、説明する時間はありませんでした。
「え? 何?」
「驚かせて申し訳ありません。今にも出ようとしていましたので」
そう言って私が視線を向けた柱の一部が歪み、その中からドンドンと何かが叩く音が聞こえます。
「フーーーーッ」
その光景にラキくんが威嚇のポーズをとっています。かわいいですね。
「えーと、もしかして中にいるの? 遺跡フォーハンズ?」
「はい。どうやら、隠れている……というよりも用事がない時は、見えないようにあちこちに収容されて待機しているようです」
自動掃除機が仕事を終えると充電器に戻るようなものでしょうか。私がしたことは、開閉部の機構に空気弾を打ち込んで歪ませ、外に出れないようにした……という感じです。まあ、それ自体は成功したのですが困りましたね。
「ちょっとゼンジューロー、入り口の扉が閉まったわ。それに」
「はい。相手も、こちらが気付いていることに気付いてしまったようですね。随分とたくさん潜んでいたものです」
「うわーー」
ガシャガシャガシャと部屋の至る所から音が聞こえてきます。
柱や壁、床が次々と開いて遺跡フォーハンズが出てきているのです。
「それとティーナさんの予想通り、彼らがワイヤレス給電式というのは当たっているようです」
「ワイヤレス給電式はゼンジューローが言ったんだけど……当たってたってのは?」
「起動時に解析解除したので確認できたのですが、彼らに遺跡から魔力が流れています。魔力の流れからハイマナジュエルの代わりのチップサイズのコアが胸部内に付いているのも把握できました」
「じゃあ、じゃあそれを破壊できれば……」
「いえ、難しいでしょう。固定付与されたボックスに入っていて、少なくとも私の攻撃では届きません」
ユーリさんの雷などならわずかな隙間からダメージを与えられるかもしれませんが、その手の範囲攻撃の手段が私にはありません。一応ロックメイルも限界値を超えるほどにダメージを与えれば破壊は可能だとは聞いていますが、あの数の遺跡フォーハンズ一体一体を相手に行うのは現実的ではないでしょう。
「じゃあ、どうするわけ?」
「フーーーー」
ティーナさんが眉をひそめ、ラキくんが近づく遺跡フォーハンズを威嚇しています。
「まあ、一体一体は大したことはないのですから、蹴散らして進んでしまいましょうか」
「えーー」
「どの道、戻れないのであれば進むしかありません。ある程度、成果をあげられたら一度ここに戻って門を開ける手段を考えれば良いと思いますよ」
中々大きくて頑丈そうな門ではありますが、ここを出る方法は一応頭に浮かんでおります。
遺跡フォーハンズを撒いて、多少時間をかけて対応すればどうにかなるはずです。
ですので、今はひとまず前進ですね。ここから出るにしても、逃げ帰るのではなく、成果のひとつやふたつは欲しいのですよね。
【次回予告】
灯りに招かれた羽虫は燃え散る宿命。
されど羽虫は気付かぬ。分かりもせぬ。
ただ彼らは熱に浮かされ、
灯りに魅せられ、迷い込む。
その先にあるのは死の檻。終の柩。
されど、魅せられる輝きに嘘はなく、
ただ夢見るように手を伸ばす。