アヴィスパレス02
「はい、到着」
「ありがとうございますティーナさん」
「キュルッ」
ティーナさんの転移スキルによって崩れた遺跡の先にある第二の地下遺跡へと移動しました。
後方の通路は崩壊した遺跡に繋がっているはずですが、今は完全に瓦礫で埋まっています。あちらはあちらで何かはあったでしょうし、勿体無いとは思います。ですが、このような状況になったからこそ、我々がここを独占できるようになったのですから、結果としては私たちにとっては良かったのかもしれませんね。そして、この場ですが……
「シーカーデバイスの反応は……問題ないようです。十分に空気がありますね。遺跡内の活動は可能なようです」
「つまりはこの遺跡は生きてるってことね。トンボ帰りにならなくて良かったわ」
「では、魔法具の力を弱めましょうか」
「オッケー」
そのやり取りの後、私の周囲にあった橙色のオーラと、ティーナさんの乗るサーチドローンの周囲を覆っていた緑色のオーラがスーッと消えました。私のブローチ型魔法具『大地の銀花』の『アースシールド』と、ティーナさんがサーチドローンに搭載したアーティファクト『城壁の腕輪』の『キャッスルシールド』の効果を落としたのです。
アースシールドは生存特化、キャッスルシールドは防御特化と違いはありますが、どちらも空気がなかったり、毒ガスが満ちていても生存が可能なシールドを形成してくれる優れものです。
ガスでも溜まっていれば、ティーナさんの転移で上に戻る必要がありましたが、幸いなことに遺跡は稼働していて、生物が活動可能な環境を維持してくれているようです。
ちなみにラキくんは小型化して私にしがみついていましたし、フォーハンズは宇宙での活動が可能なくらい場所を選ばずに動ける仕様なので問題はありません。
「それにしても、第二遺跡はどうやら随分と格調高そうな造りをしていますねティーナさん」
「あー、うん。なんというか……中はベルサイユ宮殿みたいな? 造りの違いはあるけど、ああしたものと似た感じがするわ」
瓦礫とは反対側、第二遺跡の入り口には大きな門があって、それもまた凝った装飾で……ああ、あれですね。上野の美術館にある地獄の門に赤と金の色をつけたような感じです。
そして、わずかに開いた門の隙間からは第二遺跡の中が見えて、そこはティーナさんの言うように西洋の宮殿のような造りとなっているようです。
「ただ、なんと言いますか……周辺に転がっているものが物騒です」
「まったくね」
門の周りに散らばっているのは、無数の風化した白骨死体たちと、バラバラになって壊れているこの遺跡のフォーハンズたちです。どうやら、門の前で激しい戦闘があったようです。
「ねえねえ。ゼンジューローって、こういうの大丈夫なの?」
「そうですね。ここまで風化しているとホラー的な感じもありませんし、特に思うところはありませんね。しかし、どういう状況でしょうか?」
白骨死体の多くは門に向かって倒れており、フォーハンズは崩れた遺跡の方に向かって倒れています。
であれば、両者は相打ったのだろうと分かります。
「服装もほとんど原形残ってないけど、どうも同じ鎧を着けてるし、騎士っぽい感じよね」
「騎士というとどこかの国に所属していたということでしょうか」
「そうかもしれないわね。国か何かの組織か。装備の方は風化してもう使えなさそうかなぁ。ちゃんと調べれば、まだ使用できるのもあるかもだけど」
「死体漁りというのはあまり良い感じはしませんが、そういうのも含めて、探索者としての遺跡探索なのでしょうね。比べて遺跡のフォーハンズは全部壊れてはいるようです。ハイマナジュエルも抜かれているようですが、ロックメイルの状態は悪くなさそうです。装飾華美で少々目立ちますが」
私やフォーハンズの身につけているロックメイルは固定化の魔法がかけられていて、よほどの衝撃でなければ壊れることはありません。恐らくは時間経過でも風化がしないようにもなっているのでしょう。ただ、この遺跡のフォーハンズは実戦向けというよりも、式典で使うような……この遺跡に相応しい装いとして、着飾られたものとなっています。
「表面の汚れを落とせば、普通に使えそうかな。どうするゼンジューロー? 着替える? それとも持ち帰る?」
「これを着るには少々勇気がいりますし、私は遠慮いたします。嵩張りますし、ここに置いておいて誰かに持ち帰られるということもないでしょうから、まずは第二遺跡の中を先に調べましょう」
「まあ、確かにそうね。内装の豪華さから考えても、色々と期待できそうだしね」
「そういうことです」
あれほど豪華な遺跡であれば、そこに眠るであろう財宝の価値は計りしれません。
今回の探索だけでも、今後の財政面での問題は恐らく……
「ゼンジューロー!?」
「え、はい?」
そして次の瞬間、私の目に映ったのは剣を振るうフォーハンズの姿でした。
【次回予告】
善十郎たちが足を踏み入れたるは、
地下深くに眠る深淵の宮殿。
そこは夜の王の領域。最後の楽園。
そして地獄の門が開かれる時、
宮殿の刻は戻り始め、
魂なき人形たちが動き出す。





