アヴィスパレス01
『それでは安全安心を旨に、素晴らしい探索者生活をお楽しみください』
特に問題もなく準備を整え、いつものAIの声と共に秩父ゲートを抜けて、深化の森、リビングバレーを越えた先にある境界の森に私たちはやってきました。
「ティーナさん。ドローンの調子はどうですか?」
「順調ねー。動作不良もないし、乗り心地も悪くないわ」
ティーナさんの乗っているサーチドローンは改造により、現在は花型UFOのような形をしています。
ティーナさん曰く、某自分の頭部を食べさせることに執着するヒーローのライバルの乗り物に近い形にした……とのことです。
「ファンタジーの妖精のようですね」
「本物の妖精だからねぇ」
そうですね。ティーナさんは妖精さんです。お花は造花ではありますが。
さて、移動自体は順調で、道中でサイサウルスなどとも出会うことはありませんでした。
ラキくんタクシーは今日も絶好調です。サーチドローンとフォーハンズも遅れることなく付いてきていますし、ティーナさんも自力で飛べますので、フィジカル面で厳しいのは私だけなのですよね。まあ、そこら辺は役割が違うから……とでも思っておきましょうか。一応探索者になってから、筋肉もついてきてはいるのですけどね。
ともあれ目的地には到着しました。ああ、これは予想以上の惨状です。
「元々グランドウィンドドレイクが熔かして脆くなっていたはずではあるのよね。とはいえ、ここまで破壊されるってのは、ベラの一撃が恐ろしく強力だったということなのでしょうね」
「フィジカル系では国内最強の一角と言われているようですよ」
以前に私たちがここにきた時にはグランドウィンドドレイクが遺跡の入り口を熔かして、すり鉢状の巣にしていたのですが、もはや見る影もありません。見事に陥没していて、まるで巨大な蟻地獄のようになっています。
「キュル?」
「ああ、大丈夫ですよラキくん。ここを掘り起こすとかそういうことはしませんから」
ラキくんが掘るか? というような仕草をしてくれましたが、流石にこの人数では厳しいでしょうし、掘り出せたとしてもほとんど潰れていると思います。それよりも当初の予定通りに第二の遺跡を目指します。
「それでは、まずは解析解除ですね」
解析の収納空間を解除し、解析の範囲を瞬間的に外に広げます。そうすることで一瞬ではありますが、私は周囲の空間を認識することができるのです。そして分かったことですが……
「どう、ゼンジューロー?」
「はい。こちらの遺跡は完全に倒壊していますね。目ぼしいものは……施設の動力らしい巨大なマナジュエルが感知できましたが、やはり崩れて粉々になっています」
「あーあ、勿体無い」
そうですね。壊れてさえいなければ、ティーナさんの転移と合わせてサルベージもできたでしょうが、とても残念です。
「ですが、もうひとつの、第二の遺跡は第一の遺跡の直下からはズレて配置されているので崩れてはいません。施設を繋ぐ通路は埋まっているものの、入り口付近には空間があるようなのですが」
「ですが? 何か気になることでもあるの?」
首を傾げるティーナさんに私は頷きます。
「はい。第二遺跡の中が解析解除では確認できませんでした」
「確認できない? どういうこと?」
「以前に解析解除した時はそちらに意識を集中していなかったので気にしてはいなかったのですが、第二遺跡の中を解析解除できません。恐らくですが、この感じは解析解除が遮断されているのではないかと思います」
「それは遺跡自体に解析解除を妨害する機能が備わってるってこと?」
「その可能性は高いと思います」
「ふーん。ああ、なるほど」
ティーナさんが地面を見ながらそう口にしました。
私の感覚を共有して、第二遺跡への転移が可能なのかを試してみたのでしょう。
「確かに入り口までなら転移でいけると思う。けど、中に入ったら入り口まで戻らないと帰ってこれないわよ、これ」
「解析解除も転移も通じない。スキルの妨害機能ですか」
そう言ったものが遺跡によっては存在する……というのは遺跡の情報を調べる過程で知識としては得ていました。けれども、そうした遺跡は異世界人にとっても重要な施設であることが多く、危険も多いのだとか。
「それはまた……中々厄介な場所のようですね」
「そう言いながら、随分と嬉しそうな顔じゃないゼンジューロー?」
「キュルッ」
ティーナさんの言葉ににラキくんまで頷いています。私、そんなに嬉しそうな顔をしていますかね?
ですが、そうですね。
「確かに私は今、嬉しいのでしょう。年甲斐もなくワクワクしているという自覚はあります。けれども仕方がないじゃないですか。これこそが探索ですよティーナさん、ラキくん。私はこういうのを望んで、探索者になったのです」
そうです。私は未知に挑む探索者です。であれば、今が楽しくないはずがありません。
「さあ、行きましょう。きっと第二遺跡の中には私たちの想像を超えた何かが待っているはずですよ!」
「ゼンジューローのテンションがかつてないほど上がっているわね。まあ、いいわ。座標は把握したし、ひとまずは入り口にいきましょうか」
「お願いしますティーナさん」
「キュルッ」
「それじゃあ」
そしてティーナさんの声と共に、
「転移」
私たちは地下にある第二の遺跡の入り口へと飛びました。
【次回予告】
地の底に眠るは虚飾の楽園。
そこは終末を逃れた死者の国。
たとえ末路が亡者だとて、
漏れる声が怨嗟だとて、
泡と消えるよりはと彼の者が選んだ永遠。
そして、足を踏み入れた墓漁りの運命は如何に?