ネイキッドソーリー05
技術レベル的に若干未来なので、カメラの精度とか、3Dプリンター依頼の納期とかは気にしないでくだせぇ。
「おじさーん。ティーナちゃーん。進捗はどうーーー?」
奥の部屋でティーナさんと作業をしていると、ユーリさんが入ってきました。水瀬さんは一緒ではないようです。
「ユーリさん、水瀬さんはどうしました?」
「帰ったよー。なんか、ついさっきだけど、この上空辺りにオーロラが出てたみたいなんだよねー」
「え、ここにオーロラ?」
南極や北極ならいざ知らず、埼玉県でオーロラですか。
条件次第では関東平野でもオーロラを観測できる可能性はあるそうなのですが、少なくとも私は生まれてこの方、オーロラを直接拝見したことはありません。それがここで……というのは確かにおかしなことではありますか。
「そう、ここ。この上辺りだねー」
「そうですか。先ほど外に出たときには気付きませんでしたが、ちゃんと空を見ておくべきでしたね」
「まあ一分程度だったらしいけどねー。ランクAダンジョンと繋がってるゲートがそばにあるしー。何かしらの異常かもしれないから、精霊眼持ちのふーちゃんが調査に駆り出されたってわけなんだよー」
「それは少し気になりますね」
場合によっては高ランクの魔獣が外に出た可能性もあります。ゲートは厳重に管理されているはずですが、ティーナさんの転移スキルのように抜け道がないわけではありません。
「まあねー。そんでさー。部屋の中が見られていい状況なのか分からなかったから、声かけずに帰ってもらったってわけなんだよねー」
「ああ、それは仕方ないですね」
一緒に暮らしているわけですし、ティーナさんの所属するおが肉の運営者でもあるユーリさんには、ティーナさんの能力はお伝えしてます。
そして説明を受けたユーリさん曰く、植物操作スキル、転移スキルに加えて魔法具作成まで可能であるティーナさんの価値はとてつもないものであるとのことでした。場合によっては、国が動くレベルなのだとか。
ですので不特定多数……いえ、信頼している相手でも容易に話すべきではないとユーリさんには言われているのです。
知ってしまえば、その人物には情報源としての価値が生まれてしまいます。親しい人物を危険な目に遭わせないためにも、大きな価値を持つ情報というのはしっかりと管理しないといけないのだとか。
まあ転移スキルは迷宮災害で多用していたので、そこそこバレてはいそうなのですけどね。
「そーそー。仕方なーい。ふーちゃんとはまた今度会えると思うしさー。んでんで、どんな感じ?」
「はい、そうですね。モニターを見てください」
私たちの目の前では、ティーナさんがスマホ端末の画面をソフトキーボードに変えて叩いています。
その前に立てかけて置かれているモニター代わりのタブレット端末に映っているのは、ティーナさんの説明では3DのCADソフトだそうです。
またティーナさんが時折、空中を掴むような動作をしていますが、それはタブレット端末のカメラ判定で行っているハンドトラッキング操作なのだか。
私にはそれが何なのかはよく分からないのですが、ティーナさんはそっち方面の技術力がずいぶんと高くなっているようです。
海外のフォーラムでも頻繁にやり取りしているようですし、彼女はどこに向かって進んでいるのでしょうか。
「ほーほー。なんだろー? こいつは花の形をしてるのかなー?」
「そうですね。見た目にも拘りたいとのことで、こんな感じにしたようです」
モニターに映っているのはサーチドローンの外装です。形自体はアダムスキー型UFOっぽくして、円盤部分を花に見立てて花びらが付いた感じです。
ティーナさんは、とあるものをサーチドローンに設置するためのアタッチメントを増設するのに合わせて、外装全体をCADソフトで自作設計したくなったのだそうです。凝り性ですね。
あ、今ティーナさんがターンってスマホに平手を叩きつけました。ターンって言いましたね。キーボードではないのに。
「完成よゼンジューロー!」
「おお、随分と変わりましたね」
「これが改造ドローンの全体図? 若干大きくなってない? これ飛ぶの?」
「あ、ユーリもこっち来てたんだ。飛ぶよー。何せハイマナジュエルを二つ使ってるしねー」
「うわ、豪勢だー」
そうですね。ハイマナジュエルは高額なものですし、普通はドローン一体に複数入れるものではありません。
「ティーナさんが座りやすいように造ったんですよね」
「まーねー。ハイマナジュエルを二基搭載することでモーターの出力を上げたのよ。アレを入れても機動性が下がらないようにね」
そう言ってティーナさんが指差した先にあるのは、テーブルに置かれた腕輪でした。
「うわー。本当に直せちゃったんだねー」
「バッチリよ!」
ユーリさんが目を丸くしていますが、そこに置かれているのは、迷宮災害で回収した腕輪型のアーティファクトです。
三船さんは壊れていてもう使えないと判断していましたが、ティーナさんは見事に修理してしまったのですね。
具体的に言えば、魔法回路が刻まれた腕輪の割れた部分を強化合成樹脂で埋めて形を整え、そこに眷属の植物シルヴァーナをくっつけて、その蔦を這わせて回路を繋ぎ合わせたそうです。
とはいえ、回路を繋いだだけではアーティファクトは起動しませんが、シルヴァーナの花弁の部分には、切除したシールドクィーンアントの魔石核を埋め込んだ兄切草獣の魔石を入れることでアーティファクトを復活させたとのことでした。
実際に私も試運転させていただきましたが、このアーティファクトは完全に動作しておりました。
「ふふーん。これをサーチドローンに搭載するために出力を上げたわけかー。ティーナちゃん、本当にアーティファクトの修理とかできるんだねー。ヤバー」
「まあ、壊れ具合にもよるけどね。アーティファクトの外装は元々増幅装置的な側面があるし、シールドクィーンアントの魔石とも融合してたから私には扱いやすかったのよ。だから別の壊れたアーティファクトを持ってきても直せるかは分かんないわよ?」
「そっかー。ま、アーティファクト自体が珍しいし、壊れたアーティファクトも早々あるもんじゃないからなー。でもそういうの見っけたら見てくれる?」
「ユーリの頼みなら仕方ないわね。直せる自信はないから、ダメ元程度で考えていてほしくはあるけど。さてと、後はこのデータを送って完成を待つだけよ」
そう言ってティーナさんはガンテツ工房に3Dデータを添付したメールを送ります。
ティーナさんにできるのはここまでで、実際に製造するのはガンテツ工房です。あのデータを基に金属用の3Dプリンターで作成してもらうのだとか。
「サクッと送っていますが、どれくらいで完成するものなのですか?」
「んー? 精霊銀の粉末を用いた金属3Dプリンターで作成してもらうだけだから、この時間なら明日の午後にはこっちに届くんじゃないかなー? 後は組み立てるだけだから、モノさえ届けば明日中には完成するわよ」
「なるほど。それでは遺跡探索は明後日に向かうとしましょうかね」
その私の言葉にユーリさんが首を傾げます。
「遺跡って……もしかしてー、凛ちゃんが撮影しようとしてたとこー? アレってババァに壊されてなかったっけー?」
「ふふふ。それは企業秘密です」
「うわー。おじさん意地悪だー。あーしは仕事だってのにさー。面白そうなことしてー」
ユーリさんがジタバタしていますが、飯の種ですので教えてあげることは致しません。
まあ、手付かずの遺跡の探索となれば私たちだけでは手に負えないでしょうし、場合によってはオーガニックにお手伝いいただくことになるかもしれませんが。
【次回予告】
黄金の一撃は全てを破壊し尽くした。
されど、それは偽り。
秘された宮殿は奥底で、主の眠りを守り続ける。
主の名は夜の王。
彼の眠りを妨げることなかれ。
彼の安寧を奪うことなかれ。
或いは、彼の国の住人となりたくば、
その手で門を叩きたまえ。





