ネイキッドソーリー02
大きい猫……サイベリアンとかメインクーンとかのイメージ。
鴻巣市の迷宮災害の際に私の名前が公開されなかったこと、それがすべての発端でした。
理由は複数挙げられますが、まずユーリさんが行った私への要請なのですが、オーガニックは東京都の探索協会本部の所属であったため、特別探索者権限こそ私に与えられていたものの、埼玉支部への伝達が後回しにされていたのが最初の原因だったようです。
加えて、私が探索者としてはまだ若葉マークの試用期間であったこと、また私が保護探索者対象であったことも情報伝達の遅れの一因になったのだとか。
そうしたこともあって、私の名前が初報では公表されていませんでした。その後に私の名前も追加されたそうなのですが、世間様はそんな事情を汲んではくれません。
ルーキーである私の名前が載っていることに疑問が浮かぶ方はいたかもしれません。ですが、ダンジョン攻略時の詳細な報告がされているわけではないのです。ただ結果だけ報告された段階で、私が統率個体を倒したと考えるのは難しいでしょう。そうした状況下で、ユーリさんを中心とした探索者チームがゲート内のダンジョンを攻略、その後に三船さんがゲートを破壊……というストーリーができあがり、今に至っているというのが、この記事の内容なのですね。
「というわけで、現状の話を覆すにせよ、証拠なしでは混乱を招くだけですし、動画を公開すれば私やティーナさんのスキルを晒すことになります。私としては今の流れを崩して、状況が混乱するのも本意ではありませんし、あえてスキルを晒すつもりもありませんので、現状のままで問題がない……と説明をいただいた探索協会の担当者様には返答してあります。そういうことなので、これはユーリさんの落ち度というわけではないのですよ」
私のスキルだけならまだ良かったのですがね。
ティーナさんは喋れる妖精というだけで海外から奪おうとする者が来たのに、これで転移スキルも持っていますと公表するのは、かなり厄介なことになりそうなのです。
転移スキル持ちは、通常は国で囲い込むのが一般的のようですからね。今回の迷宮災害や転移門の仕様を考えれば、確かにと頷けるものではありますが、ティーナさんをお譲りするつもりはありません。
それに探索協会では、今回の討伐はちゃんと実績として扱ってくれています。私は最高の探索者を目指してはおりますが、それは別にテレビに出て目立ちたいというわけではないのです。私の実力が然るべきところで、正しく評価されていれば問題はありません。報酬もちゃんと用意はしていただけるそうですし。
まあ、ラキくんの飼い主については、ティーナさんとちゃんとお話ししなければいけませんがね。正しい情報をしっかりと公表をして、私がラキくんの主人であることを確実にお伝えしなければなりません。
「じゃあ、あーしは悪くないの? おじさん、あーし捨てない? あーしはおじさんのそばにいて良いの?」
「もちろんです。ユーリさんが故意にやったことではないのは、承知しております。むしろ、ユーリさんの心情を慮れなかった私の落ち度です。申し訳ありませんでした」
「う、うぉおおお、おじさーん。うぉぉぉおおお」
まったくユーリさんは大きな猫のようですね。ハグが強烈です。
ただ鼻水でベタベタのまま、抱きつかれると着ているものを洗わないといけませんが……まあ、それだけ不安にさせたのは私の不徳の致すところです。私の方からちゃんと連絡を入れておくべきことでした。
昔から、私は相手の気持ちを考えるということが苦手で、だから佐世子さんたちも離れていったのですからね。
ところで……
「あの……水瀬さんがなぜここに?」
部屋の奥には水瀬さんがおりました。
怯えた顔をしておりますが、どうしたのでしょうか?
「えっと……私は……止めようとしたんだけどさ。ユーリにブチギレられて黙ってるしかなくて」
ああ、ご友人が奇行に走ったことに怯えていらしたわけですか。
まあ目の前で全裸土下座を始めたら止めようとしますし、それを本気で怒られれば黙って見ているしかありませんよね。大変でしたね水瀬さん。
【次回予告】
踏み出した先は愛の園。
秘された蜜の匂いに水瀬は戸惑い、問いかける。
答えはすでに内にあり、
故にソレにはただの確認だった。
そして明かされる真実と照らされる新たなる謎。
それはかつてのリフレインか、
或いは新たなる試練なのか。
その答えは善十郎の未来にのみ存在する。