ボスキルアナトル10
「おじさん、これって?」
「時間もなさそうでしたのでラキくんとフォーハンズに頼んでクィーンの魔石だけ回収をお願いしたのですがね。なぜかこれがくっついていたのですよ」
戦闘中にした解析解除で確認できていたので、ラキくんたちに場所を指定して取り出してもらうのは難しくありませんでした。ただ、この腕輪は割れているのですよね。
「ふーん。ちょっと見せてもらっていいかい。ええと……アンタは?」
「大貫と申します三船さん。はい。どうぞ」
私が三船さんにソレを手渡すと、彼女は眉をひそめながら壊れた腕輪を見ています。
「大貫さんかい。あんがとね。へぇ。魔力が通らない……から、やっぱり魔法具としても機能してないねぇ。ボスを倒したのがアンタなら所有権はアンタのものにはなるんだが、残念だけど今回はハズレだね」
「そうなのですか?」
「まぁねぇ。迷宮災害を起こすようなアーティファクトは大抵強力な能力を有していることが多いんだよ。多分シールドクィーンアントは壊れたこれを拾って自分の魔石を強化していたんだろうさ。もしかするとゲートが開くのが遅れた原因は、アーティファクトが破損していて発動しづらかったから……ってことかもしれないねぇ」
「なるほど」
別にアーティファクト狙いでボスを倒したわけではないのですが、微妙に悔しいですね。
「ただね。基本的にゲートが安定するとアーティファクトはゲートクリスタル化するから、そうなる前のこいつには研究資料としての価値がある。だからそこそこの値段で売れはするよ」
「そうなのですね。まあ、所有権が私にあるのでしたら記念に貰って帰ります」
ティーナさんが物欲しそうに見ていますからね。もしかすると直す手立てがあるのか、何かに使えるのかもしれません。
「それにしても大貫さんだったっけ。最近どっかで聞いたことある気がするんだが……」
「グランマ騎士団の門倉さんとは何度かお話しさせていただいておりますので、彼からではないでしょうか?」
「うーん。そうだったかねぇ?」
そう言って首を傾げる三船さんでしたが、その後にぎっくり腰が再発したようで、すぐにヘリで病院に運ばれていきました。前職でも苦労されている方がおりましたが、ギックリ腰は大変ですね。
ともあれ、これで鴻巣市の迷宮災害も終了……とはいきません。ゲートは閉じましたが地上に出ていった魔獣たちが一緒に消えるわけではないのです。
ただ、こちらに来てしまったソードアントの数も残りわずかとのこと。現地探索者の方々はこのまま残党狩りに向かい、私は免許センターに戻って国防軍の方々の防衛組に協力することとなりました。子供達からラキくんの要望が大きかったのも理由とのことですが、また先ほどのように徒党を組んで攻めてくる可能性もあります。そのため、まとめて始末が可能な私が防衛に回されたようですね。
それから日の昇った頃には一応のケリがついたようで、私はユーリさんたちと共に国防軍の車に乗せてもらってホテルに帰りました。仮眠はとりましたが、緊張していたのか、戻ったらすぐに眠ってしまいました。そして……
「ラキくんがバズってるですか?」
「そうなんだよねー。ほらおじさん、見て見てー」
昼頃に目覚めるとノートパソコンの前でキーボードを叩きながらユーリさんが何かの動画を見ておりました。書いているのは昨日の報告書ですかね。
それにしてもユーリさん、昨日は死にそうな顔をしていたのに元気一杯ですね。若いって良いですね。
「あ、ゼンジューロー起きたんだー。どうも昨日のラキの姿を撮った動画がネットにアップされたみたいね」
「キュルッ?」
ラキくんが自分の姿が映っているモニターを見て、首を傾げておりますね。
「ラキくんの動画ですか? どうやって撮ったのですかね?」
「えーっとねー。多分最初のはホテルから鴻巣市に向かってる映像だねー。んで、こっちのは避難している子供をソードアントから守ってるとこかなー。SNSなどでアップされているものをつなぎ合わせて作られているっぽいね」
「最後のは免許センターで子供達の相手をしている姿だ。あ、私も映ってる」
「ティーナちゃんは、戦闘中はカメラに捉え辛いけど、止まっていればバエるからねぇ。いやー、ラキくんの中に人が入ってるんじゃないかって言ってる人いるよー。今のラキくん見たらそんなこと言えないよねー」
部屋にいる時は50センチメートルくらいですからねぇ。
「しっかし、これ……」
「はい?」
「おじさんの姿どこにもないね?」
「……確かに」
まあ、移動中はラキくんの背にしがみついておりましたし、避難民救助の際も受けの良かったラキくんたちを護衛に任せて、私はひとり前で戦っていました。免許センターの時も私は国防軍の方と外にいたのですよね。
「あれ?」
「どうかしました?」
「いやね。ニュースの記事見てたんだけど、昨日の鴻巣ゲートの攻略メンバーに」
ユーリさんがブラウザを開いて見せてくれた迷宮災害の記事には鴻巣市のことも書かれておりまして、鴻巣ゲートを閉じた攻略メンバーのことも載っていたのですが、ユーリさんや水瀬さん、それに三船さんや地元探索者の方々の名前もあるのですが……
「私の名前……ありませんね」
「ない……ねえ? あれ?」
どういうことでしょうか?
もしかして何かのイジメですか?
【次回予告】
沢木素子。
その日は彼女にとって最悪の日であった。
己の所業で命が消える。
一秒の遅れで命をこぼす。
戦場を退いてなお、戦いが彼女を追い立てる。
けれども終わりはやってくる。
穴は埋まり、惨劇は終わりを迎えた。
そして朝陽を前に沢木の顔にも笑顔が戻る。
彼女の名を呼ぶあの男が訪れるまでは。