ボスキルアナトル07
「おお、消えた!?」
「アレが転移スキルか」
「あの妖精がやったのかよ。妖精スゲー」
「ティーナ様。後で投げ銭しときます!」
ティーナちゃんが転移スキルでおじさん達を送ったのを見て、探索者たちが驚いてる。
ま、転移スキル持ちは希少だからねー。あーしらのクランにも中距離転移持ちはひとりだけだし、ほとんどは国に保護されたり、国防軍や大企業に囲い込まれてるから。まあ、転移って魔力馬鹿喰いするけど転移門っていう長距離転移用の魔法具は彼らにしか使えないからなー。アレ同じ転移者の魔力をチャージして使うから連続使用もできないし。
「ん、ゼンジューローがシールドクィーンアントと接触。討伐開始だって」
ティーナちゃんが乗っているサーチドローンの上に設置した、シーカーデバイスの子機らしい小型端末の表示を見てそう口にしたよ。
「ユーリ、場所送るね」
「あいよー」
それからティーナちゃんがあーしのシーカーデバイスにも座標を転送してくれる。なるほど、この距離なら帰り道の用意はできるね。あーしの出番もしっかりあるってわけだー。
「そんじゃあ、あーしらはゲートの確保優先で。ボスを倒したおじさんを回収したらソッコーで戻るよー」
あーしの言葉にみんなが「オウッ」と声をあげる。一方であーしの横にいるふーちゃんは浮かない顔だ。
「しかしシールドクィーンアントか。アックスクィーンアントか、クレイモアクィーンアントならまだしもシールドってのは厳しいな」
「そうなのミナセ?」
「まーなー。単純に硬いんだよ。時間をかけたらソードアントに囲まれるし、私かユーリも連れてった方が良かったんじゃないか?」
ふーちゃんの言いたいことは分かるけど、円滑に帰還するためにも、ソードアントを外に出さないようにするためにも、ここの確保は必要だからね。まあ、それに……
「おじさんなら大丈夫だよ。あんなに嬉しそうにしてたもの」
「まーうん。アレはちょっと引いた。つか、ドラゴン殺したってのもアレ見て納得できたわ」
ふふふ、転移する前のおじさんの顔見たらねー。みんな後退りしてたからねー。気配は低レベルなのにソードアントも動き止めてたからねー。
アレは駄目だねー。悪魔みたいに笑ってたからねー。
でもさー。ああいう危険な香りのする感じがねー。良いんじゃないかにゃーとあーしは思うのですよねー。ふーちゃんには良い男の価値ってのはまだ分からないかにゃー。ニャーニャー。
———————————
そこにあるのは洞窟の中のすり鉢状の地面でした。
ところどころに生えている魔力結晶の光で洞窟内は薄暗がりながら確認できますが、ぼんやりと見えている周囲のすべてに無数の卵が丁寧に並べられています。これが全部孵化したらと思うとゾッとしますね。
そして、その中心にいる大きな蟻が女王蟻ですか。とても頭がでかいです。シーカーデバイスの検索によればアレはシールドクィーンアントというらしいですね。南米に生息するタートルアントみたいな見た目をしています。
耐久性が高いようで、となると少々お時間がかかってしまうかもしれません。
それにどうやら六体のシザーズアントが守っているようですが……
「フーーーーッ」
おや、ラキくんがやる気のようです。フォーハンズも構えていますし、ここはお任せいたしましょうか。そして私のお相手はもちろん
「あなたです!」
「ギッ」
ガガガガガガガガガガンッ
おやおや。石砲弾を十連射しましたが、あの頭部は全て弾いてしまいました。恐ろしく頑丈な頭ですね。よく見れば頭部をオーラのようなものが覆っているのも確認できます。これは『大地の銀花』のアースシールドと同じような魔法的なシールドが張られていると見るべきでしょうか。
攻撃を喰らって若干揺らぎましたが、ダメージがあるようには見えません。それにしても正面に向かい合うと本当に盾になった頭以外は見えません。となれば……
ガンッ
「ギィッ」
石砲弾をゼロ距離で撃つと少し仰け反りました。先ほどの十連射よりも利いてはいますか。やはり私の収納ゲートは相手の魔法的な防御を抜いて発生させられるようです……が、それでも衝撃こそ与えられましたが、甲殻は割れてもいません。元々の硬さが尋常ではないのでしょう。
繰り返すには残弾数がありませんし……ああ、駄目ですね。侵入者に気付いたソードアントが部屋の外から入ってきました。囲まれれば危険です。
「フーーーー、ガッ」
ラキくんとフォーハンズもシザーズアントに囲まれています。
もっともフォーハンズが盾と槍を使って牽制し、そこにラキくんが飛びかかって一撃必殺の鉄肉球ダブルスレッジハンマー……という形ですでに二体を倒しています。シザーズアントは残り四匹いますがあちらは問題なさそうです。
そもそもユーリさんたちのことも考えれば時間はかけられませんし、ソードアントも近づきつつあるので、最速で倒す必要がありますね。
ガンッ
「ギシャァッ」
うーん。しかし、あのシールドクィーンアントですが体全部を隠せるほど頭がデカいので正面からの攻撃は全て防いでしまいます。角度をズラして撃っても微動だにしません。
弱点となりそうな女王蟻らしい大きいお腹も隠れて見えませんし、私が左右に動いても結構な速度で角度を変えてこちらに向いてきます。あの機敏さでは時間遅延解除で回りこむのも難しいのではないでしょうか。
「となれば正面突破しかありません」
覚悟を決めて突貫あるのみです。
私はシールドクィーンアントに向かって駆け出しました。
「ギャギャッ」
そして私が真正面から駆け出していくと、シールドクィーンアントが頭を深く下ろして身構えます。おや、突進攻撃ですかね? なるほど。私の体格程度であれば正面から粉砕できると考えたのでしょう。
「ギヂャァアア」
速い!?
予想通りに突進攻撃が来ました。確かに突進して攻撃が当たれば私程度、簡単に殺せるでしょう。正しい認識です……がそれは当たればの話です。
ガンッ
と音がして、シールドクィーンアントの突進が止まります。進行方向に仕掛けた収納ゲートに当たったのですね。はい。私の収納ゲートはドラゴンの力でも破壊できない自慢の逸品です。蟻の女王程度では抜けられません。
そして動きを止めたこの瞬間に私は時間遅延解除を発動しました。同時に空気弾を二発放ちます。
「ギィイシィイヤァアアア」
直後、シールドクィーンアントの頭部が跳ね上がりました。ふふふ。やはり、そうですか。
実は今の空気弾は、地面スレスレの真下から真上にある顎に向かって撃ったものです。時間遅延解除の影響下なので速度と威力も上がっています。
正面からの衝撃には強くとも想定外の箇所から攻められれば呆気なく崩れる……という私の予測が当たっていたようです。さらに続けて解析解除です。弱点、脆い場所……ふむ。首の接合部が脆いようですね。脆いと言っても他に比べればですけれども。ともあれ、頭部がカチ上がって見えているそこにロックナイフを撃ち込みます。
「ギ……ィ!?」
刺さりはしましたが、途中で止まりました。この魔獣、頭部以外も随分と硬いのですよね。ですが、これで詰みです。
「圧縮空気弾!」
私はここまで取っておいた圧縮空気弾を突き刺さったロックナイフに向かって放ちました。
そして凄まじい力が加わったロックナイフがシールドクィーンアントの首をブチブチという音を立てて貫くと、巨大な頭部が宙を舞いました。
【次回予告】
それは雷。煌めく轟拳。
それは女の拳だった。
それは巨大な拳だった。
風間ユーリ。
この女、生粋の拳闘士。
自慢の拳を振り上げて、
何もかもを粉砕す。
雷神の化身の如き女なり。