ボスキルアナトル06
それでは我々のターンです。胸を張っていきましょう。
湧いて出た蟻は退治しなければいけません。彼らも生きるために活動しているだけではあるのでしょうが、悲しいけれどもこれが生存競争というものです。
「そんじゃあ雷の檻を解くよ。初手はおじさんが務めるってことだけど、みんな油断せずにね」
ゲート前で仁王立ちしているユーリさんがそう口にすると全員が身構えました。この場にいるメンバーは私、ラキくん、ティーナさん、フォーハンズにオーガニック所属のユーリさんと水瀬さん。それに近隣の精鋭探索者様方一同です。
雷に包まれたゲートは時折ソードアントの顎らしきものが出ては引っ込んでいるようで、その先に大量の魔獣が待ち構えているのは明らか。我々はそれを退けて内部に突入し、統率個体を見つけて倒す必要があるようで、そのためにはこちらに来ようとしているソードアントの群れをまずはどうにかしないといけないわけです。
「そんじゃあ解除ッ」
おっと、雷の檻が解かれましたね。
ではやりますか。鉄球散弾二連です。発射!
ズガガガガガガガガガッ
「グギギ」「ギャバァ」「ンガッ」「ギャッ」
はい。無数のパチンコ玉の雨によって飛び出そうとしたソードアントの顎が砕けて宙を舞い、体液が周囲に飛び散ります。
ゲート内部にもまとめて吸い込まれましたが、恐らくはゲート先のソードアントをまとめて粉砕してくれたことでしょう。
ちなみに今のは免許センター前で撃ったものを吸引で集め直した再利用品です。かなり飛び散ったので、残弾は三発ほどです。
「おじさん。初手は任せると言ったけど、今のは?」
「そういうスキルですね。はい。ゲート先もやれてると思いますよ」
「そっか、了解」
他の皆さんも驚きの顔をしていますが、収納ゲートはゲートギリギリの場所で発現しましたし、飛び出たパチンコ玉はすぐさまゲート内へと入っていったので私が何をしたのかはほとんど確認できなかったでしょう。とはいえ、今がチャンスです。
「ラキくん、フォーハンズ。突撃です」
「あーしらも続くよッ」
では私も……うん。ああ、みんな追い抜いていきますね。私もゲートに向かって駆けているのですが、みなさんお速いです。こういう時はスペックの低さが如実に分かるので悲しくなります。ともあれ、私も最後尾でゲートの中へ……
「ほぉ」
中は見事に洞窟内ですね。ただ、他のダンジョンと違って、大通りサイズの掘られた洞窟です。見た目だけなら今までに入ったダンジョンよりも迷宮らしいですね。
ソードアントやところどころにシザーズアントがおりますが、統率個体はどこでしょう?
こうも数が多くては分かりませんし、解析解除で確認を……ふむ。あっちの方ですね。
「入り口は確かに蟻が死んでて開いてたけど、やっぱり数が多い。とりあえずはあーしが雷で道を開いて先へと」
「あ、待ってくださいユーリさん。ユーリさんは温存でお願いします」
「おじさん?」
解析解除で確認できたのですが、ユーリさんの魔力が思ったよりも少ないようです。場合によってはボスを倒した辺りでガス欠になるかもしれません。
「ボスの位置は分かりました。私が突入します。ですのでユーリさんたちはここの防衛をお願いしますね」
「え、おじさん。感知能力まであんの?」
「そんなところです。秘密ですよ?」
私は人差し指をピンと立てて口の前に置きました。
さて、本日は不特定多数の方々にも色々と見せてしまいましたし、今後の活動に差し障らないと良いのですが。
「でも突入って言っても、こう数が多いんじゃあ」
「そのための手段はあります。ティーナさん!」
「あ、そうか。転移!?」
「はいはーい。ゼンジューローの感知した場所なら私も分かるよ」
ティーナさんとは従魔契約によりお互いの気持ちを察知できる程度の意思疎通が元々可能でした。ここ最近はこの繋がりが成長したのか、私が解析解除で認識した地点をティーナさんに共有できるぐらいは可能になりました。
「この場のゲートの確保も必要ですから、転移は我々だけでお願いします」
「了解、ゼンジューロー。でも魔獣が密集し過ぎてるから送れても戻すことはできなさそう。私が迎えに行こうか?」
「あー、帰り道はあーしが開くよ。間引きも必要だしねー」
ティーナさんの問いにユーリさんがそう被せました。
「そうですね。それじゃあ帰り道はユーリさんにお願いいたします」
「まーかせて」
ユーリさんも親指を立てて了承してくださいました。であれば……
「カウント行くよゼンジューロー。3、2、1」
さあ、ここからが本番です。
「ゼロッ」
フッと体が浮遊する感覚と共に視界が切り変わります。
「キュルッ」
ガシャンッ
ラキくんやフォーハンズも無事一緒に来れましたね。フォーハンズはスーパーヒーロー着地を決めています。そういえばティーナさんが仕込んでいましたね。
そしてこの場所はゲートからそこまで離れてはいませんが、岩壁やソードアントたちの体で隠れていた奥の、無数の卵が並ぶ部屋の中です。そして……
「なるほど。剣と鋏に続いて今度は『盾』ですか。なかなかヴァリエーション豊かですね」
私の目の前には、まるで盾のような形に肥大化した頭部を持つ巨大な蟻の魔獣が佇んでおりました。これは硬そうですね。
【次回予告】
笑みとは喜びより迸るもの。
笑みとは己が感情を表に表す動作。
であれば善十郎は喜んでいたのだろう。
心の底より感情を高ぶらせていたのだろう。
その笑みはあまりにも攻撃的だった。
触れば切れるナイフのように。
障れば朽ちる猛毒のように。
その微笑みは肉食獣のソレだった。