ボスキルアナトル04
「そこのお前、止まれ」
「なんだ? 低レベルの探索者? だがあの従魔は……」
私がゲートに近づくと、ユーリさんを護るように並んでいた探索者の方々が近づいてきて立ち塞がりました。
警戒している……というよりは、なぜ低レベルの探索者がここに? という反応ですね。どうやら私の気配はレベルが上がっても低レベル探索者並みにしか感じられないようなのですよ。実際、もうすぐレベル20になろうというのに身体能力は一般人の域を出ていません。健康的にはなっているのですがね。
そんな私がラキくん、フォーハンズのような強面や、ティーナさんという愛らしい妖精さんを連れてやってきたのですから、戸惑われるのも仕方がないことなのかもしれません。
「彼らはユーリさんの護衛ということでしょうか?」
「そうなんじゃない? あんな風にスキルを発動してたら外からの攻撃には弱いでしょうし、戻ってくるソードアントの対処も難しいだろうから」
「なるほど。確かにそうですね」
「あ……妖精の従魔がしゃべった?」
「俺知ってる。ティーナ様だ。ユーリさんのおが肉所属の」
おや、ティーナさんのリスナーの方がいらっしゃったようです。ティーナさんも有名になったものですね。少し遠い存在になったように思えます。
「ということはオーガニックの増援ってことか。アンタが?」
「はい、そうですね。私はオーガニックの所属ではありませんがそうなります。ユーリさんにお手伝いを依頼されてやってきました」
そう私が返答すると、ユーリさんのそばにいた小柄な女性が近づいてきました。
「ええと、アンタは大貫さん……で、いいんだよな?」
「はい。そちらは水瀬さんですね。オーガニックの」
私の問いにその女性が頷きました。
「そうだよ大貫さん。私はオーガニックの水瀬フーカだ。たった今ユーリから話を聞いたんだが、よく来てくれたね」
「いえいえ、ユーリさんにお願いされたのですから行かないという選択肢はありませんよ。大貫善十郎と申します。よろしくお願いいたします」
水瀬フーカさん。彼女のことはユーリさんの配信に出演していたのを見させていただいていたので知っております。
とはいえ、私が彼女のことで知っていることといえば彼女は疲労キチィちゃんが大好きで、ゲスト出演回のお部屋探索コーナーでも彼女のお部屋がキチィちゃん一色だった……ということぐらいです。
まあ上級クランのメンバーで今もユーリさんと共にいるのですから、相当にお強い方なのでしょう。あ、彼女のシーカーデバイス。キチィちゃんのストラップが付いていますね。青い顔でエナドリを持っている姿に哀愁を感じます。そういうところが若い女性にウケているのでしょう。
「はーいフーカ。私はティーナ。あっちがラキでそっちがフォーハンズよ。よろしくね」
「へぇ、アンタがティーナかい。おが肉の期待の星だって? 大貫さんも最近、連続で大金星をあげたって聞いてるし。まったく、ユーリのヤツもこんな隠し玉をどこで見つけてきたんだか」
水瀬さんの言葉に周囲がざわめきました。
その反応は困惑の割合が大きいように見受けられます。まあ普通のおじさんの私が活躍したと言われてもピンとは来ないでしょうし、そういう反応になるのも仕方ありませんか。
「確かにでき過ぎた結果を得られていますが、実力だけではなく、運が味方した部分も大きいのですよ」
「ふーん。アレで運ねぇ。謙遜も度が過ぎれば嫌味になるとは思うけどね」
いや、実際ドラゴンと遭遇できるケース、ほとんどないらしいのですよ。アースもウィンドも番だったから運良くエンカウントできたわけで、借金を背負った時に彼らと出会えたのは本当に運が良かったと思います。私では倒すことはできても探すことはできませんので。
「あのーーーー、まったり話してないでこっち来てくれないかなーーー。あーしももう限界なんだけどさーー」
そして私が水瀬さんと話しているとユーリさんからの抗議の声が届きました。
ああ。やっぱり、そのゲートを雷で覆っているのって大変なんですね。申し訳ありません。すぐ参ります。
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「もー。おじさーん。遅いー」
「申し訳ありません。道中で何度か野暮用ができてしまいまして」
ということでユーリさんのもとへ無事到着しました。ここに来るまでに結構かかってしまいましたが、その間にもユーリさんには無理をさせていたようです。随分と汗をかいていますが、ほとんど脂汗ではないでしょうか。
「ユーリさん。随分と無理をなさっているようですね」
「まあ、今は無茶のしどきだからねー。ほらー、おじさんには見せたことなかったけど、これがあーしのスキル『雷霆』だよー」
「雷系最上位スキルですね。雷系統のスキルで、かなり応用が利くと聞いていましたが、凄いですね」
私の言葉にユーリさんがえヘヘと微笑みました。
私の収納空間スキルの時間遅延、吸引、解析などもそうですが、スキルというのは複数の力を使い分けたり、応用することも可能です。
魔法具によって発動するスキルも同様で、凛さんにプレゼントしたザンジューローのウィンドアーマーも、かなりの応用が利いていましたね。私の『大地の銀花』も『アースシールド』を発生させられるのですから同じようなことをできそうですが、魔法具などの外付けスキルは各々の固有スキルを扱うよりも難易度が高いらしいので、不器用な私では難しいかもしれません。
ともあれ、ユーリさんはその雷霆でゲートを覆って、魔獣の侵攻を留めていたようです。
彼女のスキルは目の前でやっているように雷の檻を造ったり、広範囲に雷を放ったり、一点集中しての一撃も出せるのでしょう。ふーむ。考えれば考えるほどユーリさんを攻略するのは難しそうだと思えます。
そうですね。例えば収納ゲートを並べてシールドにしたとしても彼女の攻撃なら隙間から雷が通過してしまうでしょう。
アースシールドであれば一時的な防御は可能ですが、ユーリさんは継続して雷を放出し続けられるようですし、すぐにシールドを剥がされてしまいます。出力を上げられたら一瞬で黒焦げにされるかもしれません。
いえ、待ってください。雷もグランドウィンドドレイクのブレスのように魔力でできているなら吸引で吸収もできるのでしょうか?
しかし、吸引で継続して吸収し続けられるのは一分程度です。その間に攻略せねばなりませんし、放電系ならいけそうですが、単発の攻撃を繰り返されたら止められません。
そもそも間近で見たユーリさんの体つきはどちらかといえば格闘家に近いものがありました。まるで全身がバネのようだと感じた覚えがあります。
なので、なんとなくですが彼女って近接系の方が得意そうなのですよね。時間遅延解除を使った私の動きも追えていたのを考えますと石砲弾なども簡単には当たらないでしょう。空気弾によるゼロ距離攻撃も決まってくれるとは思えません。
動きを止められさえすれば圧縮空気弾で仕留められるかもしれませんが……
「おじさん、なんでこっちをじっと見て黙ってるの? ちょっと目つき怖いよ? というか殺気出てない?」
おや、少し考え込みすぎましたか。
水瀬さんや他の皆様も警戒していらっしゃるご様子。おやおや。まあ確かに彼らは私とユーリさんの関係を知りません。もしかすると有名人をじっと見ている危険な中年男性と勘違いされているのかもしれません。
であれば誤解されぬようにきちんと説明をさせていただいた方がよろしいでしょうね。
「申し訳ありません。少しばかりユーリさんを倒す手段を考えてました」
「「「なんで!?」」」
そこに山があるから……ですかねぇ。
【次回予告】
男の周囲に味方はなく、
ただ獣の温かさだけが彼の心を癒した。
山は越えねばならぬ。
その想いは変わらない。
されど今はまだその時ではなく、
挑むは奈落の穴の底。
災いの源こそが討つべき敵なりと。