メイズハザード07
道中で遭遇した葛西少尉たち国防軍の方々との話では、免許センターには避難民が多く集まっていて、今も随時受け入れているのだそうです。
探索者の方々も市内に散って、魔獣の掃討と避難民の救助をしているのだとか。ですので私も残って対処をとも言われたのですが、残念ながら私はユーリさんのお手伝いのためにここに来たのですね。
そんなわけで、惜しまれつつも再び移動を開始したのですが……
「ギィイイイイイキィ」
空気弾の一撃でソードアントがスローな悲鳴をあげて吹き飛んでいきます。
時間遅延解除で接近し、空気弾でソードアントを撃ち抜く。はたから見れば、それは私が掌底で魔獣を倒したように見えるでしょう。動画で撮ってみれば気功の達人が気を纏った掌底で倒したように見えるかもしれません。
国防軍の雷田という方が流派を尋ねてきたので「まだ修行中ですので」と返答すると、何か神妙そうに頷いておりました。私には分かりませんが、何かしら思い当たるものがあったようです。それにしても流派ですか。大貫流と勝手に名乗っても良いのでしょうか。それともどこかに申請などが必要なのでしょうかね?
ともあれ、今は戦闘です。離れた相手に対しては石砲弾も使いますが、次々と敵が迫る乱戦では跳弾の心配や詰め込みの手間も不要な空気弾の方が有効です。
それにこのランク相手だと普通に空気弾の攻撃が通りますしね。やはりドラゴンほど防御力の高い魔獣はそう多くはないということでしょう。
……と、そんなことを私が考えている間に戦闘は終了しました。
「アンタ、凄えパンチだな。いや掌底か? 全く見えなかったぜ。大貫さんって言ったよな。正直助かった」
「いえいえ。石川さんたちもご無事で何よりです。そちらも片付いたようですね」
戦闘後に私が話しているこの石川さんとその一行は、鴻巣市周辺を拠点にしているクランの中でも精鋭の方々なのだそうです。
上級探索者こそいませんが、現状の鴻巣市内の戦力ではトップクラスであるのだとか。
とはいえ、数の暴力とは言ったものです。数十のソードアントの群れは当人たちはともかく、彼らが抱えている避難民を守りながらとなると厳しいようで、ジリジリと追い詰められたところに私たちが遭遇したという状況でした。
数が多かったのは、この先の免許センターに集結しようとした群れとかち合ったためでしょう。
「ゼンジューロー、こっちも終わったわよー。そっちも片付いたみたいね」
「はいティーナさん。ラキくんたちもご活躍だったようですね」
「キュルルッ」
かなりの数のソードアントを仕留めたのか、ラキくんが満足そうな顔で頷いております。ソードアントのように甲殻持ちは、ガントレットのクローで切り裂くよりも鉄肉球ハンマーの方が通用します。買って良かったですガントレットクロー。
避難民の護衛をお願いしていましたフォーハンズも大活躍でした。手数の多さと視野の広さで魔獣たちが避難民へと近づくのを確実に止めてくれていたのです。
「アンタんところの従魔にも助けられた。フォーハンズって言ったか。あいつだけで護衛役カバーできてたもんな」
「フォーハンズは警備などの役割がメインの人型魔法具らしいですから。私も命を救われています」
外国人部隊の襲撃の際は、フォーハンズなしでは私の頭は吹き飛んでいたでしょうからね。
「それでひと通りは片付きましたかね?」
石川さんたちは、外に魔獣がうろついていてシェルターから動けなくなった方達の救助と護衛のために動いていたそうです。
「まあな。俺たちはこのまま避難所に彼らを送り届ける予定だが、そっちはどうするんだ? いっしょに来るか?」
石川さんがそう尋ねてくれます。
彼らの目的地は先ほどの免許センターです。けれども私たちはそこからここまで来ているわけですし、戻るつもりはありません。
「申し訳ありませんが先約がありまして、この先に向かわなければいけないのですよ」
「先約って、その道路の先にあるのは……いや、そうか。アンタのその実力ならそういうことか」
この先にあるのは今回発生したゲートですからね。石川さんも何かを察してくれたようです。
「分かった。お互い、頑張ろうな大貫さん」
「はい。石川さん達もお気をつけて」
「えー。らきくーん、いっしょじゃないのー?」
「ごめんねー。私たちはこれから悪い奴らを倒しに行かないといけないんだよねー」
「そっかー。ティーナちゃん、ラキくんがんばえー」
「キュルッ」
私が石川さんと話している横では、子供たちがラキくんやティーナさんとそんなやり取りをしておりました。
彼らの安否も気になりますが、ここから免許センターまでの道は一応掃除済みですので、石川さんたちなら問題なく辿り着けることでしょう。
惜しむ子供達に手を振りながら私たちは彼らと別れ、ユーリさんのもとへと向かいます。
寄り道が多かったので予定時間よりも五分遅れています。ユーリさん、大丈夫でしょうかね?
【次回予告】
都市は荒れ果て、空虚な世界がそこにはあった。
慟哭の風はかつての知己を連想させ、
善十郎は脳裏に浮かぶ知己の瞳に復讐の炎を見出した。
善十郎は知らぬ。その者の炎は未だ消えず。
煌々と輝く炎帯びた薪はいずれ集まり、大火となって世界を燃やす。
その蒼き炎はいずれ善十郎にも届くだろう。
されど、今は雷の柱を目指すのみ。
悲劇を広げぬために、嘆きを重ねぬために、
善十郎はただひたすらに進み続けた。