メイズハザード05
さて、ティーナさんの報告を受けてラキくんには免許センターに向かってもらっているわけですが、100体を超える数のソードアントですか。そんな数をどう対処いたしましょうか。
いえ、上手くやればまとめて倒すことが可能な手段はあります。偶然ではありますが、ここに来る途中に発見して用意はできています。
問題は配置と角度なのですね。正面から向かって撃っても後方の魔獣には当たらないでしょうし、効果は限定的です。
となれば、少し怖いですがここはティーナさんにお願いいたしましょう。
「ティーナさん。私をあの群れの進行方向手前あたりの上空に転移させていただけますか?」
「うん? うーん。了解」
首を傾げたティーナさんですが、私の意図を察して頷いてくださいました。
それとおそらく仕留めきるのは難しいので、その後の対応も必要です。
「ティーナさんはその後は上空から状況の確認をお願いします。距離的に撃たれることはないと思いますが、国防軍の動きを見ていてください」
「分かったわ」
「ラキくんとフォーハンズはこのまま突撃して、私が仕留め損なった相手を片付けてください」
「キュルッ」
ラキくんが声をあげ、フォーハンズも手振りで了承と返事をしてくれました。
これで準備は完了。後は殺るだけです。
「それじゃあ、飛ばすわよゼンジューロー!」
「お願いしますティーナさん!」
「カウント取るわ。3、2、1」
「!?」
「ゼロッ」
ヒュッという風を切る音が聞こえた気がしました。同時に浮遊感が発生し、私の視界は黒に染まったのです。そう、私の体は何もない夜の空にポツンと出現いたしました。
「ティーナさんの転移は本当にすごいですねぇ」
そんな言葉をつい呟いてしまうぐらいには、ティーナさんの転移スキルは有用です。
この力があれば、飛行や滑空能力がない魔獣なら落下死だけで対処が可能なのではないでしょうか。
まあ転移スキルは魔力があれば抵抗することが可能なので、高ランク相手だと失敗するかもしれませんが。ともあれ……
「よっと。それにしても暗いですね」
地上に落下する前に空中に収納ゲートを並べて足場を作り、その上に乗りました。収納ゲートは発生座標もタイミングも私の意思に沿う形で発生させられるので、乗り損ねるということはありません。
それに肉体性能こそ人間の域を超えてはいませんが、最近はトレーニングもしているので私自身もそこそこ鍛えられていますし、体幹も良くなっています。
そういう意味ではステータスランクFであっても覚醒施術の効果はあったのだと言えるでしょう。
そして眼下にあるのは免許センターへ通じる道路です。魔獣の姿を見逃さぬよう、街灯は今も点いていますので、迫るソードアントの群れは視認できます。
迫ってきているソードアントは全長1メートル半はある、顎の片方が伸びて剣のようになっている魔獣ですね。甲殻はそこそこ硬く、剣顎で突き刺してくるのだとか。けれども空気弾でも甲殻は破壊できましたし、魔獣としてのランクはE。コボルトと同程度と考えれば問題はないと思います。
それではアレらをまとめて始末してしまいましょうか。
「ギギィ」
おや、私に気づいた個体がいますね。
まあ、まだ地上から20メートルはありますし、彼らには何もできません。
ソードアントは一部の蟻系統が使う蟻酸射出もできませんし、基本的に離れた敵に対抗できる手段はないそうです。対して私は彼らを殲滅する手段を持っています。
それが収納空間にぎっしりと詰まったパチンコ玉です。
これはここに来る途中で破壊されたパチンコ屋から拝借したものです。
後でお店には連絡を入れねばなりませんが……ともあれ、これが私の勝利の鍵です。
石散弾の鉄球版といったところですか。一発は来る途中に試射で撃ってしまいましたが、まだ13発分は詰めて用意してあります。
ただ、撃ち方には注意しないといけません。市街地でこんなものを撃ったら近隣の建物への被害がかなり出るでしょうし、横から撃ったのでは目の前のソードアントは仕留められても、流石に貫通はできませんので後ろにいる個体にまでは届きません。
だからひと工夫が必要だったのです。
それが上から撃つということ。
上空からなら直接当たるのはソードアントか地面だけで、しかも前の個体に遮られるなんて問題も起こりません。つまりは最も効率的に駆除が可能になるということです。我ながらナイスアイディアですね。
欠点は一度撃ったら再度の補充が難しいということでしょうか。重量もありますし、予備を持ち歩くのも大変ですから。
まあ気にせず、一気に撃ってしまいましょう。
今の高さは大体20メートルほど。収納空間を正確に発生させるには5メートル以上は厳しいですが、出すだけなら10メートル程度の距離でも可能です。そしてそれを真下に向けて解除して、
「そいや」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
おお、圧巻ですね。間隔を空けながら13の収納空間を一斉に解除しての鉄の雨がソードアントに降り注ぎます。
甲殻がバキバキと破壊され、体液を飛び散らせながら崩れ落ちていっています。
ふむふむ。これはもう大成功と言ってもよろしいでしょう。
「ギ、ギギ……」
おや、生き残った個体がやはりいましたか。しかし、問題はありません。
「フーーーー、ガッ」
ちょうど終わったのを見計らってラキくんとフォーハンズが参戦です。まだ動いているソードアントを倒してくれています。思ったよりも生き残りは多いようですが、彼らの戦闘能力はもうほとんどありません。
これなら問題はなく……うん? おや、大きな蟻の魔獣がいますね。
黒い集団の中にいたので気づきませんでしたが、全長が3メートルはあって顎が左右両方とも伸びている巨大な蟻が混ざっています。
甲殻のヒビは入っていますが、まだ元気なご様子ですし、ソードアントよりも随分と強そうですね。
アレは私がいただいてしまいましょう。よいしょっと。
「キシャァアアアアア」
落ちていく私に巨大蟻が大顎を広げて近づいてきます。アレで私を食べるつもりなのでしょうが、残念ながらこちらからすれば的にしか見えません。だから……
「これでお終いです」
そして私は再構築した収納空間から空気弾十連発を放って全身の甲殻を破壊し、トドメに圧縮空気弾でその頭部を完全に粉砕しました。
【次回予告】
その先にいるのは無辜なる民草。
日常を謳歌し、明日も変わらぬ日々をと信じる者たちだった。
されど、穿たれた穴ひとつで日常は奪われる。
無数の蟲たちに蹂躙される。
しかし人もまた無力ではない。
外敵を前に、人は剣となり、或いは盾となる。
そしてこれは盾の物語。
護るために立ち、命を燃やす者たちの物語。