メイズハザード02
迷宮災害が発生し、ユーリさんから電話がかかってきました。迷宮災害への対処で帰宅ができないとの連絡かと思ったのですが予想と違いましたね。
しかも随分と慌てているご様子。もしかして今回の迷宮災害ってかなり危ういのでしょうか?
いえ、だとしても上級探索者ですらない私に声をかけるのはおかしな話ですね。対処不能な厄災級であるならば増援ではなく、撤退と地域の閉鎖に入るはずです。
そうなると国防軍主導で、私が手伝う余地はやはりないのですが。
「手伝いというとオーガニックへの増援ということでしょうか? 確かオーガニックは秋田を担当すると先ほどニュースではやっておりましたが」
『オーガニックへ……というのは、まあ間違いじゃないけど、秋田じゃないんだよねー。あーしが今いるのは埼玉の鴻巣!』
ふむ、鴻巣市ですか。埼玉県民なら一度は耳にしたことがあるかもしれない市ですね。免許センターがありますので。まあ免許センターがある以外のことは知らないのですが。
しかし状況が分かりません。なんでユーリさんがそちらにいらっしゃるのでしょうか。免許をとりに行っていたというわけでもないでしょうし。となると……
「あの……まさか、鴻巣市にゲートが発生したのですか?」
『おー、おじさん。鋭いねー。うん。それであってる』
「ニュースでは鴻巣市で発生したとは出ておりませんでしたが……いえ、今ニュース速報が出てきましたね」
たった今、テレビに速報で鴻巣市にゲートが出現したと表示されました。
他のゲートよりも一時間遅れですか。近隣で対応可能な上級クランは兵庫と秋田と青森にそれぞれ向かっているか、すでに対応に入っているはずですから、そうなると鴻巣への対処には人手が足りない可能性が高いですね。ああ、つまりはそういうことなのでしょうか?
「お手伝いとは鴻巣市の迷宮災害への対応ということですねユーリさん」
『うん。さっき鴻巣にできちゃってさ……というか報道、今? おっそいよねー。何してんだろ国防軍。で、あーしは単独でこっちに来てるんだけど』
「単独で、ですか?」
他のオーガニックのメンバーはおらず、ユーリさん単独とはどういうことでしょう?
『そうそう。あーしのスキルは条件さえ合えば超高速移動もできるんだよねー。で、今到着したわけ』
なるほど?
ユーリさんのスキルは『雷霆』というもので、雷系統最上位スキルと言われているそうですが……そのスキルでどうやって秋田から埼玉まで移動したのでしょうか。
まあ、親しき仲にも礼儀ありとは言います。
スキルの詳細については探索者として線引きをしておこうとふたりで決めておりますし、突っ込むのはやめておきましょう。
『んでんで。ゲート先の反応が弱かったから、ひとまず現地の探索者対応でってんで動いてたらしいんだけど初動の封じ込めに失敗してねー。多分情報が今流れたのも混乱しないようにある程度対処してからって考えてたからなんだろうねー』
「……なるほど」
つまり対処に失敗して、市街地に魔獣が流れてしまったわけですか。それはよろしくありませんね。
『国防軍があーしに泣きついてきたんで、ソッコーで向かったんだけどねー。まあ溢れた数も多いし、こっちの戦力も集まらなくてさー。だからおじさんが良ければ助けてほしいんだよねー』
事情は理解できました。ユーリさんに頼られたのであれば、行かない理由はありません。
「分かりましたユーリさん。今から向かいます。車で行くと40分くらいで着くとは思いますが」
『あー。交通網が死んでるから車は無理だと思う』
「ふむ。となると移動手段が……」
烈さんなら車よりも速く走れそうですが、探索者と言っても私の体力は一般人並みですからね。電車も動いていないでしょうし、どうしたら……
『だからおじさん』
「なんでしょう」
『ラキくんに乗ってくるってのはどうかな?』
え、ダンジョンでもないのにラキくんに乗って良いのですか?
【次回予告】
長く並ぶ鉄の箱。
悪夢から逃れるためのソレは今や死を待つ棺桶と化した。
そして男は選択を迫られる。
理不尽から逃れるために、
愛する子を護るために、
待つか、去るか。
選択はふたつ。悪夢は背後に。
されど、観客に過ぎぬ彼には選べない。
ただ、運命に翻弄される。
それは絶望に堕ちようとも。
或いは希望に照らされようとも。