プレゼントアフター04
「なるほど。あの遺跡が見事に崩落しておりますね。それにしても上級クランのひとつがこのようなことでなくなってしまうとは……非常に残念なことです」
「いや、死者ゼロらしいから大丈夫よ……多分」
「え? なんで生きてるんですか?」
「知らないわ。上級クランだからじゃないの?」
なるほど。恐ろしきは上級クラン。そして、そこに所属している上級探索者たちということなのでしょう。まあ、アレで全滅していたらアーカイヴに残しておくわけもないですか。
しかし命には別状ないとしてもあの場には門倉さんも一緒にいました。彼は大丈夫だったのでしょうか。あの様子では、眼鏡は割れていそうです。心配ですね。
「それにしてもあの元気なお婆さんが三船さんですか?」
「そうね。三船ベラ。グランマ騎士団のクランリーダーで通称ベラ団長。シーカーグランプリでユーリと対戦した時は、まるでお手玉みたいにユーリをポンポンと弾き飛ばして快勝したみたいよ」
「あのユーリさんをですか……それは恐ろしいですね」
まだ私はユーリさんが戦っている姿を直接見たことはありませんが、上級クラン『オーガニック』をまとめ上げているだけあって、その実力も実績も確かなものです。
残念ながら今の私では恐らく『彼女には勝てません』。
時間遅延解除を使った私を彼女は目で追えますし、正面から打ち破れる力もあるのでしょう。
何より私の収納ゲートのシールドでは彼女の『範囲攻撃』を凌ぎ切ることができません。一応の対抗手段もありますが……そんなユーリさんを手玉に取れるのが三船さんというわけですね。なんとも恐ろしい老婦人です。
「ゼンジューロー。そんなわけであの遺跡は完全に崩壊しちゃったのよ。瓦礫を片付ければ、何か見つかるかもだけど」
「それは重労働になりますね。あまり現実的とは言えません」
解析解除を使えばある程度の目星をつけることは可能かもしれませんが、それでも回収には膨大な時間がかかることでしょう。それにあの崩落でも壊れておらず、正常に稼働する魔法具などが見つかるのかというと微妙です。
そもそも力仕事となるとラキくんとフォーハンズに任せっきりになるのは目に見えていますし、それはあまり望ましくありません。とはいえ……
「なので諦めるしかないってわけね」
「いえ。問題はないでしょう。遺跡探索は予定通りに行います」
「うん?」
ティーナさんが訝しげな表情をして私に視線を向けてきます。まあ、あの配信を見れば諦めるしか無いと思うのは当然ですが、実は私だけが握っている情報があるのですよ。
「ほらティーナさん。グランドウィンドドレイクを倒した後に私、解析解除で一応遺跡を確認したじゃないですか」
「あー、そうだったわね」
そうなのです。グランドウィンドドレイク討伐後、それだけでも一仕事だった上に竜素材を放置もできない……という状況だったので我々は遺跡に入らずに帰還しました。
とはいえ、まったく何もしないで帰るのも……と思ったので、解析解除で中をチェックしていたのです。
グランドウィンドドレイクによって熔けて塞がった入口の状態も気になりましたし、入り口が開かなくてもティーナさんの転移で入るだけのスペースがあるのかの確認も必要でしたので。そしてその際に私は発見したのです。
「構造的にあの遺跡は地下に2エリアありまして、あの感じなら崩落したのは恐らく1エリア分のみになると思います」
「え、そうなの? そんな話、あの時言ってたっけ?」
「はい。奥に広いエリアがあるとは説明しましたよ」
「そーいえば、そんなことも言ってたかも」
距離が届かないだけなのか、スキルで見られないような加工がされているのか、解析解除で確認した時には中までは分かりませんでしたが、今回倒壊した部分とは別の建造物があるのだけは把握できています。
「それじゃあゼンジューロー?」
その言葉に私は頷きました。
「はい。あそこにはまだ倒壊していない、手付かずの遺跡も残っているはずです。私はそれを狙います」
【次回予告】
かつて賢者と呼ばれた愚者よ。
同胞を見捨てて逃げた逃亡者よ。
偽りを囀るペテン師よ。
それは望郷の念か。
異なる世界への嫉心か。
或いは、終焉への憤怒によるものか。
いずれにせよ、その者は止まらない。
ただ世界に穴を穿ち続ける。
繋がる宝器を用いて穿ち続ける。
その先にあるのが確かな破滅であろうとも、
古き憎悪は止まらない。