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多種多様な性癖物

本当に勘弁してくれ。

今の私の体重はゼロキロだが天使の羽がついたランドセルは背負っていない。ってそうじゃない。


一体全体どうなっているんだこれは? と愚兄を見れば、糸目の妖怪は「あばば」とでも発しそうな口をして両手のぐーを顎に当て、いわゆる『歯が痛いポーズ』を取っていた。


それが許されるのは幼女だけだ。間違ってもアラサーのおっさんがやっていいものではない。

どうでもいいが、今この状況を何とかしてほしい。浮いているんだが。ただ今地面との距離が三十センチくらい離れている。

私はいつの間に天女になったのやら。それとも残業のし過ぎで神界転送か。


「やべ、やっべ、まじやっべ!!」

混乱の境地を通り越した私に、愚兄がとどめの台詞を発した。


いや、リアルに狼狽えてるだろ、貴様。


「ちょお「やべ」って何。なんか起動したっぽいんだけどこれ……!」


明らかに意図していなかった的な顔をする愚兄に、私は中空に浮いたまま襟首掴んで問いただした。

今になって足が動いているが、身体は浮かんでいるので意味がない。ただ空でじたばたあがいているだけだ。


「ちょっと愚兄、一体あんた何してくれてんの!」

「ぐえっ、ちょ、待っ……!」

「私を降ろせ!」


愚兄の首が百七十度ぐらいにぐわんぐわんしているがそんなことはどうでもいい。なぜ私は浮いていて、愚兄はしっかり地に足がついているのだ。この世で一番浮いてる生物のくせに。


「私を地上に戻せ! クソ愚兄!!」

「あっはー……いや予想外どころか想定外なんだな愚妹よ。流石のおにーさまもまさかガチの魔法陣がネットにころころ転がってるなんて思わないじゃん!」


私の首絞め拘束からかろうじて抜け出した愚兄は、普段見せない狼狽えきった表情で完全な言い訳をゲロした。


「だから何でも拾ってくんなってオカンがあれほど! って何でもいいからどうにかしてよ!」

「あばばばどどどどうしよ!?」

「ちょっとおおお!!」


ほぼ涙目になった愚兄は流石にまずいと思ったのか、わりと強い力で私の両腕を掴んできた。


「親方! 空に愚妹が! とかふざけてる場合じゃねえなこれ! お前離すんじゃねえぞ!!」

「ふざけてんのはお前だ!! いやああ何アレ頭の上にブラックホール!?」


私の身体が上へ上へと上がるにつれ、愚兄の部屋に竜巻のような突風が吹き荒れ始めた。

その吸い込み口となっているのは突如として天井に現れた真っ黒い円である。

どう考えても黄泉の入り口的なそれだ。


「ああっ!? 俺の秘蔵のフィギュアが吸い込まれていくー! いやあああ待って行かないでえええ!!」

「そんなもんより妹の心配をしろ!!」


こんな深刻な事態だというのに、私達の目の前では物凄い速さで巨乳フィギュアやら熟女DVDやらが横切っていく。

それらは頭上のブラックホールへと吸い込まれ、あっけなく姿を消していた。風で飛ばされていく愚兄の多種多様な性癖物の姿を、私はきっと生涯忘れることはないだろう。

って、え、ちょ、あれうちのおかんより歳上じゃん、範囲広すぎんか愚兄よ。

そう考えたところで違和感に気付く。


「ねえ愚兄これ絶対おかしいって! 何でオカン達起きてこないの!?」

「はっ、そういえば!?」


史上最低の乱舞のおかげで気付いた異常事態に、私と愚兄は顔を見合わせた。

なにしろ台風の真っ只中みたいな轟音が鳴り響いているのに母も長兄も、誰一人として家族がやってくる気配がないのだ。寝ていても絶対起きるはずなのに。


また最悪なことに、肌に食い込むほどの力で愚兄に腕を掴まれているというのに、なぜか私の腕はずず、ずず、とゆっくり愚兄の手を逃れ頭上の闇へと吸い込まれようとしていた。

無論私の意志ではない。


「いやあああ! 行かないで愚妹様あー!! オカンにぶっ殺されるううう!!」

「それどころじゃないわ馬鹿兄貴いいい!!」

「た、頼む!」

「ああ!?」

「万が一にも帰還できたら「不可抗力です」って言ってくれ!!」


そう言って、愚兄は両手をパンっと合わせて私を拝んだ。

っていや待て。両手を「パン」??


瞬間、私の両目が限界までかっ開いた。まじでアホだこの愚兄は!

こいつの妹に産まれたのが私の人生最大の不幸だわ!


「アンタなに手離して……っ!?」

「あ」

「おまっ、ふっざけんなあああ―――!」


あー、あー、あー……というエコーを最後に、私の意識は闇に飲み込まれた。

最後に見たのは、生まれて初めて見る半泣きになった愚兄の顔だった。


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