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「天皇の恋人」(Emperor's Lover):灯×澄善

#記念日にショートショートをNo.60『月あかりに澄んだロマンスを』(Give a Clear Romance to the Moonlight)

作者: しおね ゆこ

2021/4/23(金)サン・ジョルディの日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n6332ie/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/na8e9d7be3830)

【関連作品】

「天皇の恋人」シリーズ

 3月が終わり、私は天皇の身分を辞することとなった。国の象徴ではなくなるが、皇族であるということには変わりはない。

 2月の私の誕生日に、彼に「4月1日にエスケープするから迎えに来て」とは伝えた。でも迎えに来てくれるかは分からないし、たとえ彼が迎えに来てくれたところで、上手くいくのかも分からない。

夜が近付いてくるにつれ、灯の胸は不安と期待ではち切れてしまいそうだった。

 そして、4月1日の夜。

明るい光を纏う月に照らされながら、灯は執事の目を盗んで庭に走り出た。皇居の庭は広く、彼が来てくれるとしたら、どの方角なのか、灯は分からなかった。一番月が光り輝いて見える場所で立ち止まり、その塀の向こうの気配を探る。と、声を発するより早く、塀の向こうから微かに声が聞こえた。

「……灯…さん……?」

微かに聞こえた声に、灯は塀に駆け寄った。塀に手を当て、見えない塀の向こう側に声を掛ける。

「澄善さん……!」

塀の向こうから伝わる彼の雰囲気に、涙が溢れる。

「来てくれないんじゃないかって、怖かったの。」

「泣かないでよ。灯さんがそこで泣いていても、僕はその涙を拭いてあげられないんだから。」

「ごめんなさい……。」

「灯さん。ゆっくり、表門まで来て。先に僕が行って待ってるから。焦らないで、ゆっくり、ゆっくり来て。」

「…僕がそっちに行くから。」

「うん。」

涙を拭い、表門の方へ歩き出す。表門の方へ辿り着くと、門番と澄善さんが何やら真剣に話し込んでいた。

「澄善さん!」

「灯さん!!」

駆け寄ると、彼の腕が私を抱き締めた。

「月がとても綺麗だから、灯さんを見つけられた。」

「うん。私も。」

 やがて、奥の方から両親がやって来た。

澄善さんが2人の前に立ち、深く頭を下げる。

「まだ認めてもらえていないと灯さんから聞きました。所詮、僕は一般人で彼女とは身分がかけ離れている。それでも、諦めきれません。どうしても、彼女に恋をしてしまった以上、僕は彼女を、諦めきれないんです。」

澄善さんが、地べたに額ずいた。

「娘さんとの、陛下との、灯さんとの結婚を、認めてください。彼女を、灯さんを、私に下さい。」

澄善さんの隣りに、並んで腰を落とし頭を下げる。私の…元天皇として有り得ない行為に、門番が止めようとした。が、その腕を振り切って、澄善さんの隣りで、地べたに額ずく。

「澄善さんのことが好きなんです。澄善さんを愛しているんです。愛してたまらないんです。」

額ずいたまま、言葉を続ける。

「皇族の身分なんて要りません。ただ、澄善さんとの生活があればいいんです。澄善さんと一緒にいたいんです…!」

気付けば叫んでいた。

「絶対に、幸せにします。灯さんのために、命だって惜しみません。…いや、自分の命が尽きるまで、たとえ自分の命が尽きたとしても、灯さんを愛し抜きます。」

2人で、頭を下げる。地の底に落ちそうになるくらい、深々と頭を下げる。

 …長い、長い、沈黙が過ぎた。2度目の夜まで時間が辿ったのではないかと思うほど、時間がゆるりと回っていく。

「…承知した。」

ややあって、重い、されど確かな声がした。ゆっくりと面を上げる。

「2人の結婚、そして2人の未来を、認めよう。」

お父様が、微笑んで私たちを見た。

「お父様……」

「澄善さん、娘をよろしくお願いします。」

お父様が澄善さんの肩に手を置いた。澄善さんがしっかりと目を開いて頷き、そして私の手を取り、立ち上がる。

「お義父様、お義母様、皆様、ありがとうございます。」

「僕の命を、灯さんに捧げます。」

澄善さんが私の手を握る。真上で、とても綺麗に月が光り輝いていた。

【登場人物】

○桜宮 灯(さくらみや あかり/Akari Sakuramiya):16歳

●京家 澄善(きょうや すみよし/Sumiyoshi Kyouya):22歳

【バックグラウンドイメージ】

①設定・ストーリーについて

○ウィリアム・ワイラー 監督作品/『ローマの休日』(Roman Holiday)から

②仮タイトルについて

『未来に月の灯火を』

【補足】

◎年齢・時間経過について

○灯16歳・澄善22歳:出会い

○灯18歳・澄善24歳:交際承認

○灯22歳・澄善28歳:交際を断つように要請されている(本作)

【原案誕生時期】

公開時

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