#記念日にショートショートをNo.60『月あかりに澄んだロマンスを』(Give a Clear Romance to the Moonlight)
2021/4/23(金)サン・ジョルディの日 公開
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【関連作品】
「天皇の恋人」シリーズ
3月が終わり、私は天皇の身分を辞することとなった。国の象徴ではなくなるが、皇族であるということには変わりはない。
2月の私の誕生日に、彼に「4月1日にエスケープするから迎えに来て」とは伝えた。でも迎えに来てくれるかは分からないし、たとえ彼が迎えに来てくれたところで、上手くいくのかも分からない。
夜が近付いてくるにつれ、灯の胸は不安と期待ではち切れてしまいそうだった。
そして、4月1日の夜。
明るい光を纏う月に照らされながら、灯は執事の目を盗んで庭に走り出た。皇居の庭は広く、彼が来てくれるとしたら、どの方角なのか、灯は分からなかった。一番月が光り輝いて見える場所で立ち止まり、その塀の向こうの気配を探る。と、声を発するより早く、塀の向こうから微かに声が聞こえた。
「……灯…さん……?」
微かに聞こえた声に、灯は塀に駆け寄った。塀に手を当て、見えない塀の向こう側に声を掛ける。
「澄善さん……!」
塀の向こうから伝わる彼の雰囲気に、涙が溢れる。
「来てくれないんじゃないかって、怖かったの。」
「泣かないでよ。灯さんがそこで泣いていても、僕はその涙を拭いてあげられないんだから。」
「ごめんなさい……。」
「灯さん。ゆっくり、表門まで来て。先に僕が行って待ってるから。焦らないで、ゆっくり、ゆっくり来て。」
「…僕がそっちに行くから。」
「うん。」
涙を拭い、表門の方へ歩き出す。表門の方へ辿り着くと、門番と澄善さんが何やら真剣に話し込んでいた。
「澄善さん!」
「灯さん!!」
駆け寄ると、彼の腕が私を抱き締めた。
「月がとても綺麗だから、灯さんを見つけられた。」
「うん。私も。」
やがて、奥の方から両親がやって来た。
澄善さんが2人の前に立ち、深く頭を下げる。
「まだ認めてもらえていないと灯さんから聞きました。所詮、僕は一般人で彼女とは身分がかけ離れている。それでも、諦めきれません。どうしても、彼女に恋をしてしまった以上、僕は彼女を、諦めきれないんです。」
澄善さんが、地べたに額ずいた。
「娘さんとの、陛下との、灯さんとの結婚を、認めてください。彼女を、灯さんを、私に下さい。」
澄善さんの隣りに、並んで腰を落とし頭を下げる。私の…元天皇として有り得ない行為に、門番が止めようとした。が、その腕を振り切って、澄善さんの隣りで、地べたに額ずく。
「澄善さんのことが好きなんです。澄善さんを愛しているんです。愛してたまらないんです。」
額ずいたまま、言葉を続ける。
「皇族の身分なんて要りません。ただ、澄善さんとの生活があればいいんです。澄善さんと一緒にいたいんです…!」
気付けば叫んでいた。
「絶対に、幸せにします。灯さんのために、命だって惜しみません。…いや、自分の命が尽きるまで、たとえ自分の命が尽きたとしても、灯さんを愛し抜きます。」
2人で、頭を下げる。地の底に落ちそうになるくらい、深々と頭を下げる。
…長い、長い、沈黙が過ぎた。2度目の夜まで時間が辿ったのではないかと思うほど、時間がゆるりと回っていく。
「…承知した。」
ややあって、重い、されど確かな声がした。ゆっくりと面を上げる。
「2人の結婚、そして2人の未来を、認めよう。」
お父様が、微笑んで私たちを見た。
「お父様……」
「澄善さん、娘をよろしくお願いします。」
お父様が澄善さんの肩に手を置いた。澄善さんがしっかりと目を開いて頷き、そして私の手を取り、立ち上がる。
「お義父様、お義母様、皆様、ありがとうございます。」
「僕の命を、灯さんに捧げます。」
澄善さんが私の手を握る。真上で、とても綺麗に月が光り輝いていた。
【登場人物】
○桜宮 灯(さくらみや あかり/Akari Sakuramiya):16歳
●京家 澄善(きょうや すみよし/Sumiyoshi Kyouya):22歳
【バックグラウンドイメージ】
①設定・ストーリーについて
○ウィリアム・ワイラー 監督作品/『ローマの休日』(Roman Holiday)から
②仮タイトルについて
『未来に月の灯火を』
【補足】
◎年齢・時間経過について
○灯16歳・澄善22歳:出会い
○灯18歳・澄善24歳:交際承認
○灯22歳・澄善28歳:交際を断つように要請されている(本作)
【原案誕生時期】
公開時