世界が終わるならあなたは何をしますか。
もしこの世界のタイムリミットが1日になったら私はどうするのだろう。
〜後6ヶ月:7月〜
「現代の世界は地球温暖化が進んでおり毎年毎年少しずつ地球の崩壊が近づいています。」
ざわつく駅の中頭に入ってくるほどの音量でニュースがながれている。ほとんどの人は気にしていないだろう。
『暑い。やばい。』
電車の中に入ると暑さが増す。この世界は年々夏の気温が上がっている。この間では最高気温が43度になっていたとニュースでやっていた。
「あっつー。てか電車人多すぎ〜。」
「それな〜。冷房の意味ないし〜。」
私と同じ高校2年の女子2人が椅子の中心に座っている。
『あんたらがもうちょっと詰めて座ったら立ってる人たちに余裕ができるんですけど。それに近くにおばあさんいるし。』
そう思いながらも私はおばあさんを眺めているだけだった。
「百合学園前。百合学園前。お出口は左側になっています。」
この駅では電車に乗っている大半の高校生は降りる。もちろん私もだ。
校舎に入ると少し涼しくなった。
「お!ゆ〜り〜!おはよ!」
「おはよ。てか暑い引っ付かないで。」
この子は私の中学からの親友の霧島花笑だ。霧島グループというICT企業の社長の娘であり、お嬢様だ。ルックスもよく、男子に人気のある今時の女の子でもある。
「なんだ〜。百合がまた朝から元気ないぞ〜」
「こんな暑い中そのテンションでいける?普通はいけないと思うよ。」
「あ、変わり者コンビ!廊下で何してるんですかぁ?」
そう大声で言ったのは電車でも見かけた佐々木と田中だ。私たちの前に仁王立ちしているのが佐々木でその後ろで笑っているのが田中だ。あの2人は私たちの学校でも有名な女子のグループの中にいるやつだ。女子のグループはグループでもその中で一番真ん中にいる女子TOP 2なのだ。そしてこの2人は私たちのことを変わり者コンビと呼ぶ。
『まぁその理由は全部私なんだけどね。』
「教室入ろうとしてただけですけど。それが何か?」
「そうやって強がって。どーせ裏ではかわい子ぶってるんでしょ。」
私たちはこの人たちと同じ中学で運悪く高校も一緒になってしまった。中学では散々だった。上靴がなくなっている。水をかけられる。けれど私はこんなことでもう感情を動かしたりしない。だからこのようなことになっているのだ。
「裏って何?別に人に可愛い時と可愛くないときあってもいいじゃん。」
花笑は私の性格を知っている。だからいつも私の味方でいてくれる。それは、私にとってとても大きいことだ。
「だる。あんたらと話してるとイライラする。」
『あんたらから話したんですけど。』
教室に入るとたくさんの笑い声が聞こえる。私の席は窓側の1番後ろだ。花笑とは離れていて廊下側の前から2番目だ。
「あ、おはよう。花笑ちゃん。」
「お!おはよう!」
花笑は佐々木たちには好かれていないが意外と友達が多い。
「あ、おはよう。笹野さん。」
「もう!笹野さんじゃなくて百合って呼んであげて!」
花笑は笑いながら言った。
「あ、う」
「いいよ。別に仲良くなろうと思ってない相手に簡単に名前で呼びたくないでしょ。大丈夫だから無理に言わなくて。」
スタスタとびっくりした顔をしている花笑の友達の前を通って行った。
「あっつ。」
「だから髪の毛とめなって言ってるのに。まぁ百合のおろしてる髪は好きだけど。」
花笑は机に鞄を置くと走りながらこちらに来る。
「別に髪の毛下ろしてるから暑いんじゃない。」
「いや。暑いでしょ。それになんで夏でも長袖のシャツ着るかな。」
「日焼けやだもん。」
「あ、百合が可愛い。」
こんな代わり映えしない話をしていると予鈴がなった。
放課後
「じゃあね。百合時間はちゃんと見てね!いい?」
「うんうん。分かったから早く帰りな。」
帰宅部の花笑はいつも同じ言葉言う。それは中学時代のことを気にしているのだろう。
「バイバイ!また明日」
花笑は可愛い笑顔で言った。 花笑と別れた後は旧校舎の方に荷物を持って向かう。旧校舎は生徒ほとんどが入らない。その理由は1つの窓しか開かないのだ。それはある教室の窓だ。この教室にはたくさんの写真が飾られている。そんな写真を見ることなく私は屋上を目指す。
「着いたぁ。よし始めよう。」
私は鞄の中からえのぐや筆を出した。左手を紙の上に置くと右手がスラスラ動いた。時々空を見ながら。
気づいた頃には太陽が沈みかける前だった。
「やばい。早く帰らないと。」
後ろを振り向くと屋上のドアの前に誰かが立っていた。
「うわぁ。こんな時間。やばいなぁ、帰らないといけないなぁ。怒られるかなぁ。」
その声の持ち主は銀髪で私と同じように長袖のシャツを着ている私より10センチほど背の高い170センチぐらいの色白な男子が立っていた。見たことのない人だ。
「あの3年生の方ですか?このことは黙ってもらえませんか?」
「ん?あぁ僕は2年だよ。5組の。君も5組だよね?笹野百合ちゃん?」
「え。でも見たことないですよ。てかなんで私の名前を知ってるんですか?」
「それはね」
プルルルル、プルルルル
電話の着信だ。
「もしもし。」
「いつまで学校にいんのよ!もう遅いのよ!今日は早く帰ってきてって言ったよね!」
「ごめん。すぐ帰る。分かってる。分かってるから。」
今日は母親がいつになく機嫌が悪い。
「早く帰りなよ。母さん待ってるんでしょ。」
「すみません。帰ります。」
「うん。そうしな。」
色白くんは優しく笑って言った。私は荷物をまとめ、逃げるように旧校舎からでた。
〜後5ヶ月:8月〜
「てかさぁ。私たちの学校はなんで8月の中旬から9月の中旬までが夏休みなのかな〜なんか嫌だよね〜。それに宿題多すぎ!」
「そうだね。夏休み終わったらすぐ文化祭だし。花笑は彼氏と回るの?」
花笑は夏休み前に彼氏ができ仲良くやっているそうだ。
「うーん。どうしようか悩んでるとこ。百合とも回りたいしね。」
「いいよ。2人で回ってきなよ。私は別に旧校舎にでもいとくし。」
「そう?甘えちゃおうかな。」
「そうしな。あ、私用事あるから切るね。バイバイ」
「分かった!じゃあね。」
電話を切った。部屋の中はとても暑い。
『学校にでも行こうかな。』
私は旧校舎に行った。するとまた色白くんが屋上にいた。
「どうも。笹野さん。」
「どうも。あ、あの名前聞いてもいいですか?」
あの日以来色白くんとはあっておらず学校の中でも見かけなかった。
「全然いいよ〜。僕の名前は七瀬空。空って書いてひろ。変だよね。」
「そんなことない。」
全然変じゃない。空という名前も文字もこの男の子の雰囲気によくあっている。
「ありがとう。君は優しいね。」
七瀬くんは前にも見たあの優しい笑顔で笑った。
「七瀬くんはここに何しに来てるの?」
「空でいいよ。ここには君と同じで絵を描きに来てた。旧校舎の美術室だけどね。」
そんなこと全然知らなかった。ほとんどの生徒がここに入れること自体知らないと思っていた。
「屋上にあの日初めてのぼってみたんだ。そしたら笹野さんがいた。」
「それから君はここに来ていた?私あれから1度も君を見ていないんだけど。」
「休んでたんだ。学校もほとんど行ってない。行ったの1週間ぐらいだったかな。」
そうか。だから学校でもあったことがなかったんだ。
「なんで?」
空くんは何も言わない。ただとても悲しそうな顔をしている。
「ただの不登校だよ。」
「そっか。」
私はそれ以上聞かずに絵を描く準備をした。すると隣で空くんも絵を描く準備をしていた。
「僕もここで描こっと。隣失礼しまーす。」
「う、うん。どうぞ。」
私たちは何も話さずただただずっと絵を描いていた。
「あ、こんな時間か。早く 帰らないといけないんじゃない?」
そんな空くんの言葉を私は何も聞いていなかった。
「すごい。」
彼の絵はとても綺麗だった。雲が動いているような影の付け方、どこまで続くような空。それとは逆に私の絵は断面的な空、いつまでもそこにいるかのような雲になっている。
「すごい。こんなに綺麗に現わせるなんて…。すごい。」
空くんは腹を抱えて笑っている。笑いが収まると言った。
「いやぁ。ありがとう。こんなに笑ったのいつぶりだろ。てかどれだけすごいって言うの?面白いね。」
顔が焼けるように熱くなった。すごすぎて口に出ていた。
「で?帰らなくていいの?」
「あ、うん。あ、いや。帰るよ。帰る。」
「うん。バイバイ。またいつか。」
「さよなら。」
私は帰った。
『空くんはいつまであそこにいるんだろう。』
周りはもう暗くなっていた。夜は好きじゃない。嫌な思い出を思い出すから。
中学2年の時のこと私は佐々木にぶつかってしまった。こんな些細なことで始まったのだ。
「あ、ごめん。」
「は?何がごめんなの。土下座だよ。土下座」
そんな拍子抜けのことを言っている佐々木の後ろではいつも通り笑っている田中がいた。
「いやでも悪気なかったし。謝ったじゃん。」
「莉子に口答えすんの。何様〜。」
珍しく田中が喋った。(普段も喋っているが悪口的な?もの以外は笑っている態度だけだったのだ。)
「いやそれな。まぁこれからのこと考えておきな。後悔するよ。」
「百合〜。あ、なんかあった?」
「ううん。大丈夫。」
その次の日、私の上靴がなかった。仕方なくスリッパを借りはいていた。
「百合⁈上靴は?」
「なかった。どっかいった。」
「え。探そ。」
「いいよ。どっかにあるし。」
昼頃になり私たちは上靴を見つけた。運動場の端に水をかけられ捨てられていた。
「最低。なにこれ。意味わかんない。」
花笑が怒りながら上靴を拾った。
「大丈夫だよ。家で洗う。」
そういうと私は上靴を花笑から受け取り佐々木達の所に急いだ。
「ねぇ。これあんたらでしょ。」
笑い合っていた佐々木達は真顔になりこちらを見た。そして手にある上靴を見て大声で田中が笑った。
「わっははは!なにそれ〜。ダッサ。」
佐々木が近づいて耳元で囁いた。
「これから頑張れ〜。無駄に騒ぐんじゃないわよ。」
2人は笑いながら去っていった。
それから私の毎日は散々だった。
いじめが続いたある日。いつも通り美術室で絵を描いた帰り道だった。8時を回っており、辺りは真っ暗だった。
「やばいな。早く帰ろ。」
手を掴まれた。そして一瞬にして太ももあたりから膝までをスカートごとカッターで切られた。
「これで終わりにしようかな。どーしよっかな。」
佐々木と田中だった。私は足の痛さで座り込んでいた。そして2人を精一杯睨みつけた。
「じゃあね。また明日。」
2人はなぜそこまで私を嫌っていたのかは未だに分からない。
私は半泣きで必死に兄に電話した。
「お兄ちゃん迎えに来て。お母さんには言わないで。」
お兄ちゃんは病院で私の話を全部聴いてくれた。聞き終わった後お兄ちゃんは言った。
「どうするんだよ。誰にも言わないのか。」
「言わない。言ったら迷惑かけるし。」
お兄ちゃんはため息をついた。
「分かった。けど怪我治るまで学校行くな。なんかあったら俺には絶対言え。いいな。守らないなら学校にも家族にも警察にも言う。」
「分かった。ありがとう。」
あれから夜が怖くなった。花笑にも全部話した。しかし相談など気を遣わせてしまうだけなので出来なかった。そして現場にいたお兄ちゃん以外には相談できなくなった。
〜後4ヶ月:9月〜
「知ってる?なにくんがさ言ってたんだけど、後8ヶ月から3ヶ月の間に何か大きなことが起こるらしいよ。」
「え!マジィ〜。」
夏休みが終わり、新学期が始まった。いつになくあのTOP2は朝からうるさい。
なにくんというのは今女子中学生や高校生に流行っているすごい予言者らしい。
『そんなん当たるわけないじゃん。大きなことってまず何なの。地球が爆発するとか?』
そんなことを考えていると思い出した。小さい頃花笑に聞かれたことだ。
“明日世界が終わるなら何する?”
私はあの頃なんと答えたのだろう。きっと家族と一緒にいるなど単純なことだろう。
『今ならなんて答えるだろう。』
考えていると学校に着いた。
「ねぇねぇ百合。文化祭まで1週間かぁ〜」
昼食の時間になると花笑がそんなことを言いながら近寄ってきた。
「そうだね。私たちのクラスはロミオとジュリエットだっけ。」
「そうそう。ベタだけど2組の美男美女カップル、沙良ちゃんと山田くんが主役なら注目間違いなし‼︎」
「そうだね〜。」
「そうだね、ばっかじゃん。もう!」
花笑は彼氏と回るという予定を立ててから浮かれっぱなしだ。私の場合はというと文化祭に出さないといけない絵が描き終わっていない。
「絵は順調?」
「いや〜。それがね〜。」
空くんの絵を見てから何も描けなくなった。
放課後
「じゃあね〜。体調には気をつけて。」
「うん。デート楽しんで。」
「うん‼︎」
いつも通りの花笑の可愛い笑顔を見るとなぜか安心する。
「よし。今日こそ描く。」
屋上に行くといつもより大きな声で言った。しかし、手が動かない。イメージも浮かばない。動いたとしても空くんの絵を真似したとしか言いようのない絵しか描けなくなった。こんなことは初めてだった。小学校の頃から絵を描くのが好きでいつも手が勝手に動いたのに。時々自分より上手い絵、絵以外でなくとも自分より上手なものを見ると自信を無くしたりするというけれどそうなのかもしれない。
「っなんで。描けないの。」
自然に涙が出た。泣くのなんか私にはほとんどないのに。きっと空くんのせいだ。彼にあってから私の気持ちは不安定になった。何かわからない気持ちがずっと心にある。
『いつもの私だったら名前なんか聞かなかった。なんで休んでるのかも。あの日から毎日ここに来ることなんてなかった。2回しか会ったことない人なのに。』
これは好きとかじゃない。ただただ彼に会いたいだけだ。なんでかは分からない。すると聞きたかった声が聞こえた。
「どうしたの⁉︎えっとどうしたらいいんだろう。」
あたふたしている空くんに私は笑ってしまった。
「あ、笑ってくれたぁ。良かった。」
「なんで来たの?」
「なんでって絵描きたかったから。美術室で描くの飽きたしなぁと思って。」
何に期待していたんだろう。でもこれで少し心が軽くなった気がする。やっぱり違う好きなんかじゃない。
「笹野さんは絵描かないの?真っ白だよ。」
私の紙を指差しながら言った。
「描けなくなったんだ。私の絵下手くそだなって思ったら。」
「何言ってるの?笹野さんの絵僕は好きだよ。」
「え?だって全部断片的な絵だったでしょ。」
「そうかもしれないね。けどさ絵にこの綺麗な景色をうめようっていう気持ちがよく分かるし、それに空だけじゃなくて家とか描いてるからこの世界にはたくさんの人がいるんだなって実感する。」
家を描いていたところまで見てくれていたことにはびっくりした。こんなに絵を褒めてくれたのは花笑や家族以外で初めてだ。
「もう一回描いてみない?」
そういうと空くんは隣に座った。
「うん。描いてみる。」
「ぼく描き終わるまで隣にいるね。ゆっくりでいいよ。」
「ありがとう…。」
私は何度目か分からないもう一度を始めた。すると自然に手が動いた。描けた。少しずつだが私の「空」ができていった。描き終わるときにはもう日が暮れていた。
「できたね。君の空はそんなにも綺麗なんだね。」
「…うん。ありがとう。」
「一つ聞いてもいいかな。なんでいつも昼間の空しか描かないの?いつも夜は描かないよね?」
私はハッとした。私は無意識に夜だけ描かないようにしていたのだ。
「夜はね好きじゃないんだ。嫌な思い出があるから。」
「そっか〜。僕と一緒だね。」
「空くんも?」
「うん。夜は孤独な感じもするしね。怖い。」
空くんは優しく笑った。私も釣られて笑ってしまった。
「じゃあ帰るか。送っていくよ。」
「え。全然そんなのいいよ。空くんも早く帰ったほうがいいんじゃない?お母さんたちが心配するんじゃない?」
「お母さん、か…。全然オッケーだよ!」
そういう空くんは私の手を引いて屋上を出た。その力は見た目からは感じられないほど強い力だった。
電車に乗ると空くんは手を離した。
「これ聞いていいか分からないから聞かなかったけどさ、嫌な思い出って人に話せる?」
「分かんない。話したこともないし話そうとも思ったことないし。」
私は手を握られていた恥ずかしさを隠すように俯きながら言った。
「だよね〜。そんなん無理だよね。でもそれでいいと思うよ。」
「そうだね。でも話せるようになりたいな。そこまで心を許せるようになりたい。」
花笑ですら私から嫌な思い出を話したことがない。なぜだろうか。きっと私は怖いからだと思う。どれだけ仲が良くても前から居なくなってしまっては元も子もない。私には耐えられない。
「うん。そうだね。そうだ。前に進みたいね。ゆっくりでもいいから。」
家の最寄駅に着いた。私たちは何も言葉を交わさず静かに駅から出た。
「ここでいいよ。空くんももう帰ったほうがいいでしょ。」
「本当に大丈夫だよ。笹野さんこそ危ないからちゃんと家まで送っていくよ。」
空くんは優しく笑った。駅から20分ほど歩いたところにある私の家は一戸建てのごく普通の家だ。空くんに礼を言い家の前で別れた。
「ただいま。」
「遅かったじゃない。出来るだけ早く帰ってきなさいってどれだけ言ったらいいのよ。」
家に帰ると同時にお母さんがキレ気味で歩いてきた。
「ごめん。今日はちょっと長引いただけ。」
私はリビングに入らず自分の部屋に向かった。
「あ、おかえり。」
隣の部屋から顔を除いているのは私の兄渚だ。大学1年で私とは最近ではあまりだがそこそこ仲がいい。
「お兄ちゃんは大学で何してるの。」
前から聞きたかったことを聞いた。
「うーんそうだな。まぁ勉強とかもあるけど俺のサークルは地球温暖化について研究してるよ。」
「そっか。すごいね。」
「なんかあったか。百合がこんなこと聞くの珍しいな。」
「別に何にもないよ。じゃあ。」
少しなにくんの予言を気になったのだ。兄も何か知っているかもしれないと思ったがこの様子じゃ知らなさそうだ。ベッドに倒れた。
『最近の私は私じゃない。感情が一定じゃない。』
「気持ち悪い…。」
それから数日が経った。文化祭の日になった。学校はいつになく騒がしい。
「よっしゃ!楽しむぞ!」
「いってらっしゃい。」
「うん!ごめんね。来年は一緒に回ろ。」
「うん。」
私は百合と別れた後行きたいところもなかったので屋上に向かった。すると見たことのあるシルエットがあった。
「あ、笹野さん!おはよー!」
「なんで空くんいるの?」
空くんは笑いながら言った。
「今日文化祭でしょ。高校生の楽しみじゃん。」
「そう、なんだね。」
正直びっくりした。ほとんど学校に来ていない。文化祭とはいえ、空くんが学校にいるとは思わなかった。
「あ!そうだ。一緒に回ろっか。」
空くんは嬉しそうに笑った。
「いやいやいや。だめでしょ。」
「?なんで?」
「男子と回るとかしたことないって言うか、なんか初めてって言うか。」
顔が熱くなるのが分かった。
「じゃあ初めての体験を今からしようよ。」
「いや〜。」
今回だけは行ってもいいかな。そう思った瞬間あることがよぎった。私と空くんが文化祭を回っていたら佐々木達はどう思うだろう。そう思うと手が震えた。
「ねえ。大丈夫だよ。理由は僕には分からないけど僕が守るよ。」
空くんは私の手を優しく包んだ。
「うん。ありがとう。回るよ。文化祭。一緒に。」
私も笑いながら言えた。好きだ。私は空くんのことが好きだ。こんな気持ちは初めて。一目惚れっていうのだろうか。いやそんなのではない。空くんのことまだよく知らないけどなんだか何かが分かる。でもこの気持ちは心の中に置いておこう。きっと空くんが迷惑するだろうから。
「ねぇ。百合って呼んでもいいかな?」
「え、うん。じゃあ私も呼び捨てで呼んでもいいかな。」
「そんなの聞かなくてもいいよ〜。ありがとう。」
私たちは屋上を後にした。
「どこ行きたい?僕たこ焼き食べたいな〜。」
「いいよ。たこ焼き食べに行こ。」
文化祭は他校の生徒も来ており大渋滞だった。
「あれ!百合〜。もしかして彼氏⁉︎」
彼氏と歩いていた花笑と会った。
「違うよ。友達だよ。」
「百合の友達?よろしくお願いします。」
空が花笑を見ると嬉しそうに笑った。
「うわ!イケメン。同じ学年?失礼なんだけど知らなくて。」
「2年5組の七瀬空。よろしくね。」
「ほ、本当に!そっかーうちのクラスにこんなイケメンいたんだぁ。あ、こっちは私の彼氏のはると。同じ学年だよ。」
はると君、花笑、空は楽しそうに笑いながら話していた。しかしどこか空は悔しそうな顔をしていた。
「じゃあ僕たちは行こうか。百合。」
「あ、うん。じゃあね。花笑。はると君も。」
2人に別れを告げると私たちはたこ焼きを売っているクラスに向かった。
「あれぇー?」
後ろから甲高い声が聞こえた。振り返ると思っていた2人佐々木と田中が立っていた。2人の声は大きく廊下にあるたくさんの視線が集まっていた。
「百合の友達?」
「いや。」
「はっ。そいつと友達なんて死んでも嫌だよ。そんなクズ。」
佐々木は大声で言った。私はもう慣れているから何も言わずに見ていた。
「行こ。ほっといていいから。」
「ねぇクズって百合のこと?」
佐々木は一度顔を歪めてから言った。
「それ以外に誰がいんの。てか君誰?あ、もしかしてそいつの彼氏とかぁ?それはないか。遊んでるだけだよね〜。」
空はとても怒った顔をして佐々木達に近づいた。
「百合はクズじゃないそれに僕は百合を遊ぼうとして一緒にいるんじゃない。分からないの。それに僕は七瀬空2年5組だよ。君たちのようなバカと同じ学年なのが悲しいよ。」
佐々木はとても綺麗顔立ちの空が急接近した驚きと怒鳴られた驚きで呆然としていた。そして私もびっくりしていた。空がこんなにも怒るなんて思わなかった。
「あっそ。ほらほら莉子行こ。こんな奴らの相手してる場合じゃないよ。楽しむんだよ。」
2人はそそくさと逃げていった。それを確認すると空はこっちを向いた。その顔はとても優しい笑顔に包まれていた。
「大丈夫?あんな奴らになんか言われてたの?」
「まぁね。でも大丈夫だよ。」
私の手は少しながら震えていた。
「嘘つけ。怖いんでしょ。でも大丈夫だよ。僕が守る。」
空は廊下の真ん中で私を抱きしめた。その途端に佐々木に集まっていた視線は私たちに向けられた。
「ありがとうありがとう。もう大丈夫だから。離して。」
「あ、ごめん。行こっか。」
私たちはまた歩き始めた。お店に着いたときにはいつもの雰囲気に戻っていた。
「たこ焼き一つでいい?」
「うん。はんぶんこだね。外で食べない?」
「そうだね。いい天気だし。」
そういうと中庭に行った。中庭はたくさんの人で埋まっていた。
「あ、あそこ空いてるよ。行こっか。」
「そうだね。わぁ美味しそう。」
たこ焼きは温かくてとても美味しかった。
「あのさ僕来月から学校行こうかなって思ってるんだ。」
「え!そうなの。良かったね。」
「そうなんだけど…。」
空は少し不安な顔をしていた。
「一緒に行ってくれる?ちょっと不安なんだよね。情けないよね。」
「全然そんなことないよ!一緒に行こう。」
空はとても嬉しそうな顔をした。やっぱり空はとてもかっこいい。そしてとても弱いのだ。少しの付き合いだが少しずつ空のことがわかってきた気がする。
「ありがとう。あのさ…。いややっぱいいや。」
「なにそれ。まぁいいや。」
2人は笑い合った。いつの間にか文化祭は終わりに近づいていた。
「帰ろっか。てかたこ焼きしか食べてなかったね。」
「本当だね。でも楽しかったよ。」
そうして私たちの文化祭は無事終わった。
〜後3ヶ月:10月〜
「寒くなってきたな〜。」
「本当にそうだよね。おはよう。」
「うわ!びっくりさせないでよ。おはよう。」
そこには制服に包まれた空が立っていた。とても新鮮な光景だった。
「似合ってる?制服とか入学式以来だなぁ。」
「似合ってるよ。いいと思う。行こっか。」
私たちは電車に乗った。今日は奇跡的に佐々木達はおんなじ車両に乗っていなかった。
「ふぅ。」
「ふふ。緊張してる?」
空はとても緊張した顔をしていた。
「笑わないでよ。恥ずかしいじゃん。それに緊張ぐらいしますけど。」
空は顔を赤くしていった。今日の空は色々な顔をする。
「ごめんって。大丈夫だよ。私と同じクラスだし。」
離しているといつの間にかいつもの駅に着いていた。
「おーい!百合〜。と、なんとなんと百合の彼氏の空君かな?」
「彼氏じゃないよ。おはよう。今日から空も学校に行くことになったんだ。」
「そうなんだよ。よろしくお願いします。」
2人はぎこちなく改めて自己紹介をしていた。その光景に私は笑った。
「教室に行こっか。」
私たち3人はクラスに向かった。
「おはよう!花笑ちゃん!え、てかそこの男の子、花笑ちゃんの彼氏⁈」
「違う違う。百合の彼氏だよ。」
「よろしくお願いします。百合の彼氏の七瀬空です。」
空は意外にもふざけながら答えた。
「いや、何言ってんの違うから。てかここ廊下だから入るよ。」
教室にはいつもの風景に一つの机がプラスされていた。しかもその席は私の席の隣だった。
「僕百合の隣⁈やったー!」
「うるさくしないでよ。」
空はウキウキしながら荷物を整理していた。するとたくさんの生徒が周りに集まってきた。
「ねぇめっちゃイケメンじゃん!」
「転校生?」
「名前なんて言うんだ?」
「メアド教えてくれよ!」
私の隣の席では予想通りうるさくなった。空は慌てながら対応していた。
「僕職員室行かないといけないから。ごめんね。百合〜!着いてきてぇー。」
「はいはい。」
2人で仲良く歩く姿をみんなは驚きながら見ていた。
「笹野ってあんなキャラだっけ。てか案外美人じゃね。」
そんな話が聞こえると空は後ろを振り返った。
「だめだよ。百合は僕のだから。」
「あのねぇ。行くよ。でもありがとう。」
「うん。百合困ってたから。」
一瞬私は残念に思ってしまった。けどそれでいいんだ。
職員室に着くと空は先生を呼んだ。
「おお。七瀬か。それに笹野も。七瀬と2人で話すから先に帰っといていいぞ。」
「先帰っといて。」
「迷っちゃだめだよ。じゃあね。」
私はもう一度教室に向かった。そして会ってしまった。佐々木と田中に。
「あ、いた。あんたの彼氏学校きたんだね。良かったね守ってくれる人がいて。しょうもな。」
「そうだね。」
私はそれだけを言って2人の前から去った。
今日はとても楽しかった。空というとクラスのみんなと馴染み楽しそうにしていた。こんな日々が続くとなると嬉しかった。放課後になると屋上で絵を描き2人で帰った。
「家まで送ってくれてありがとう。じゃあまた明日。」
「うん。バイバイ。」
家に帰るとお兄ちゃんが立っていた。
「ただいま。」
「さっきの誰。友達?」
お兄ちゃんは口を開いたかと思えばそんなことを聞いてきた。
「そうだけど。どうしたの。」
「いやなんでもない。仲良いのか?」
「普通?かな。」
お兄ちゃんは一度息を着くと言った。
「そうか。じゃああんまりあいつのこと知らないんだな。なんかあったら言えよ。」
「はいはい。部屋入るね。」
お兄ちゃんは何か言いたそうな顔をしていたが私は気にせず隣を通った。部屋に行くとは言ったが私はやっぱりリビングに向かった。
「あらおかえり。にしても最近もう夏でもないのに暑いわね。」
「そうだね。地球温暖化が進んでるからなんじゃない。」
そう言いながら私はテレビをつけた。
「そうですね。最近はまだ暑いですからね。地球はやはり日に日に弱くなっているのかもしれませんね。」
ちょうど地球温暖化についてやっていた。
「はい。私が考えるに後5ヶ月いや3ヶ月地球が生きられるかどうかです。」
ニュースのコメンテーターとしてなにくんが出ていた。
「怖いわね。でもこういうのは当たらないでしょうね。」
けれど私は少し不安だった。なぜなら最近は本当に暑く私の小さかった頃とは環境が全然違うのだ。平均の気温も上がり生き物が減っているのも事実だ。それより何故かなにくんの言葉が心に刺さってしまうのだ。本当に世界が終わってしまったら?私はどうすれば良いのだろうか。いや。でも大丈夫だ。地球が終わるなんてそんなことはない。今まで何千年と生きていたんだから。
「お風呂入ってくるね。」
その日はお風呂に入り眠りについた。
「おはよー!」
「おはよう。今日も元気だね。」
空が学校に来るようになって3一週間ほど経った。少しずつ友達も増え楽しそうに過ごしている。
「だって学校楽しいんだもん。それに毎日さらに会えるからね。」
そして日に日に私は空に恋をしている。けどいつも心の中に留める。
「今日数学の提出日だけど大丈夫?」
学校で私たちは話していた。しかし私は気づいた。今日の空の様子がおかしかったことに。時々笑顔が消えたり、話を聞いていなかったりいつもと違った。
「大丈夫?どうかした?」
「あ、ごめん。大丈夫大丈夫。」
放課後今日は屋上に行かずそのまま帰った。家に帰ると空からメールが届いていた。
「ごめん。明日行けなくなった〜!本当は行きたいけど用事があって!ごめんね。」
「いいよ〜。また明後日だね!」
もしかしたら明日学校にいけないということがわかっていたからしょんぼりしていたのかもしれない。そう思うと今日の空の様子が理解できた。
「いただきます。」
「渚、大学で地球温暖化について調べてたりするのよね?この前ニュースでやってたんだけどなにくん?だっけあの人が言っていた後5ヶ月ぐらいで地球は終わるってやつ本当なの?」
お母さんはご飯を食べると同時にお兄ちゃんに聞いていた。
「うーん。言ってること的には合ってるんだよな。地球温暖化の進みが去年から異様に早いんだ。けど後5ヶ月と言われるとハッキリとそうだとも違うとも言えないんだよ。」
「そうなの。」
「それはさ終わるかもしれないってことなの?もしそうなったら私たちはどうするの?」
お兄ちゃんやお母さんが私を見てびっくりしていた。まぁ無理もないだろう。いつもあまり話さないから。
「まぁ本当に終わるとは言えないけどもしそうなったら世界の政治家とかが動くと思うよ。宇宙に行くのかとか。どうするのかは分からないけどな。」
「そうなんだ…。私たちはどうしようもないんだよね。」
いやしかし本当に大丈夫だ。もしかしたら世界が終わるかもしれないというニュースが最近多いがそんなことないというニュースも増えてる。大丈夫。
空が休んだ日から数日が経った。あれから空は学校に来ていない。メールで聞いてみたが返信はきていない。
「笹野さん先生がよんでるよ。」
「あ、ありがとう。」
私は携帯を見ながら職員室に向かった。
「どうしたのかな。風邪かな〜。」
そうしていると職員室に着いた。
「あ、すまんな。これ理科室に置いといてくれないか。」
「あ、はい。わかりました。」
私は理科の用具を持ち立ち去ろうとすると先生が言った。
「七瀬のことだかな、大丈夫だぞ。少し風邪を引いたそうだ。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
やっぱり風邪なのか。なら安心だ。また学校に行けないなんてことになったら大変だから。しかし私に何か言ってくれてもいいと思うけれど。
空が休んでからもう一週間半ほど経った。あれから私は何度もメールを送ったがやはり返事はなかった。
「久しぶりに屋上に行こうかな。」
屋上に登ると少し生暖かった。
「もう秋になるのに。」
私はいつものように絵を描いていた。いつか空に褒められた絵を。
会いたいな。元気かな。話したいな。
空に会うまではこんなに感情が動かなかった。けどそれでいいと思っていた。感情が動くということは少し辛い。寂しいと悲しいと思ってしまうから。時々無性に泣きたくなるから。
「はぁはぁはぁ。ゆ、り、」
驚いて後ろを向くと上下ジャージのような服を着て、息が切れている空が立っていた。空が倒れそうになった。そんな空を私は受け止める。今は恥ずかしさなどなかった。ただただ心配だけがあった。
「大丈夫⁈どうしたの⁈空‼︎」
「百合。大好き。」
空は息が整ってもいないのに突然の告白をした。私はとても驚いた。息が整うと空は言った。
「百合、好きだよ。大好き。」
「え?は?いや。どうしたのさ。」
空は笑った。そして私の頬を摩った。
「百合は?」
私は迷わず言った。
「好きだよ。大好きだよ。」
自然に涙が出た。
「なんで泣いてるんだよ〜。ありがとう。」
空も何故か泣いていた。
「空も泣いてるじゃん。」
「そうだね。」
空は私の唇に優しくキスをした。空は落ち着くと話し始めた。
「あのね。僕は病気なんだ。後2ヶ月いや1ヶ月生きれるかどうかなんだ。」
好きと言われた時よりも私は驚いた。いや驚きじゃない恐れ、恐怖だった。
「な、に言ってるの。」
「ごめん。ずっと言おうと思ってたんだけど言えなかった。」
やっと乾いた目から涙が滝のように溢れた。
「嫌だ。お願い。嘘って言って。お願い。」
空は私の欲しかった言葉をくれなかった。空の乾いた目からも温かい涙がでていた。
「どうしようもないんだ。手術をしてももう手遅れなんだってさ。ずっと入院してたから学校には行けてなかった。けど君に会ったことで少しだけれど学校に行けた。文化祭も楽しめた。それに一緒に絵を描けた。一生分の幸せだったよ、ありがとう。」
そうか。学校の話や不登校について、友達についてそんな話をする時はいつも空は悲しい顔、悔しい顔をしていた。理由がわかった。でもそんな理由欲しくなかった。嫌だ。
「今日ね、最後の余命判決を下された。そしたら体が勝手に動いてた。百合に会いたくて、本当はこんなに動いてはいけない、というか動けない体が動いてたんだ。すごいね。そんなにも百合が好きだったんだね。」
ありがとう。そう言えたら良かった。けど…
「嫌だよ。どうしようもないの。私探す。探すから。余命とか言わないで。お願い。お願い。」
わがままな私を許して。だって初恋相手がもうすぐ死ぬなんて言われたらうんわかったって言える人なんていないでしょ。空は苦しそうに優しい笑顔をこちらに向けた。
「これから後少しの時間一緒に過ごしてくれる?僕は百合の側で死にたいんだ。笑顔が綺麗な本当に花のような君のそばで。」
やっぱりだめだ。空の笑顔には敵わない。私は空の幸せを願おう。
「分かった。私は空の最後を見届けるよ。一緒に楽しく過ごそう。」
言った。ぐちゃぐちゃになった顔を精一杯笑顔にして。鼻水も出て、目は赤くなってしまった私の顔を空は見ながら笑った。
「僕、最初病気だって知ったとき夜だった。だから夜が怖かったんだかっこ悪いね。」
「ううん。かっこ悪くないよ。全然。」
「ありがとう。百合の笑顔は本当に可愛いな。大好き。」
私たちは今日二度目の温かいキスをした。
〜後2ヶ月:11月〜
「お邪魔します。久しぶり。」
「久しぶりって言うほどじゃないよ。昨日も来てくれたし。」
扉を開けると少し消毒の匂いが強い部屋の中に見慣れたイケメンがベッドに座っていた。空の病気を知ってから一週間が経った。あれから空は入院が続いており、学校にも行けていない状態だ。私は学校が終わると走ってここへ来る。あの日約束したことを守るために。
「私にとっては久しぶりだよ。学校にいても空いないし。」
「今日も今日とて百合が可愛い。」
未だに私は空に好きだとか可愛いだとかそんなことを言われると顔が赤くなる。
「おじさんみたいだからやめな。」
「照れてる〜。可愛い。大好き。」
顔が赤くなっている私を置いて空というのはさらりとそんなことを言葉にして発する。私は照れているのを隠すようにテレビをつけた。そしてやっていたのは地球温暖化についてだ。
「最近こればっかりなんだよ。怖いよね。」
「そうなんだ。でも大丈夫だよ。僕がいるから。僕たちの恋ってさ、小説とかにしたら絶対売れないね。」
空はククククと笑った。
「どうして?」
「だって両方とも一目惚れだよ?それに僕はもうすぐ死ぬし。それだけじゃなくて青春だって全然できてないし。きっと売れないよ。」
そうかもしれない。結末がわかりやすい本は私もあまり読まない。でも…
「そんなの関係ないよ。私たちが幸せならそれでいいよ。私たちなりの幸せを作ればそれでいいんだよ。」
空は一度静かな顔をしてから私の好きな優しい笑顔を向けた。
「そうだね。百合はいつもいいこと言うよね。」
「そう言う空はいつも優しい笑顔を向けてくれるよ。」
空は顔を赤らめた。こんな空はあまりみない。私は控えめに笑うと空は半分怒りながら言った。
「ちょっと笑わないでもらえますか?別に僕なんもないんですけど。」
「ごめんって。いつもとちょっと違う空を見つけるのってなんか楽しいよ。」
「僕は楽しくないですぅー。」
空は真面目な顔をして言った。
「こんな楽しい生活が終わるのは嫌だな…。けどそれは僕たちだけじゃない。この世界にいるみんな誰かを失って誰かしら悲しみを知って、なお笑いながら過ごしてるんだよね。そんな世界で弱音吐いちゃだめだよね。頑張らないとね。僕がいなくなっても百合が、僕の関わってくれた全員が笑えるように。」
空が真面目な顔をして真面目なことを言うから私も自然と静かにした。
「いいよ。弱音吐いても。他人を幸せにしようと思わなくていいよ。私のことも気にしなくていいよ。私はこの星のたった1人の人間だけど私が絵を描いていなかったら屋上に行ってなかったら、今ここにいるのは私じゃない誰かかもしれない。それぐらい赤の他人なんだよ。だからいいよ弱音吐いて。」
私はそう空に伝えた。空の目は今にも涙が溢れ出しそうだった。
「ごめんね。こんなこと言わせて。いつも迷惑ばっかかけて。いいかなまだ迷惑かけて。」
私は一度息をついてからゆっくりと言った。
「いいよ。今思ってること全部言ってくれていいよ。」
「僕本当はね…死にたくなんかないよ。出来ることなら百合と一生一緒に過ごしたい。生きたい。死にたくないよ。おかしいかな。病気のくせになに言ってんだよって思われるかな。」
ついに空の目から涙が溢れた。最近私たちはずっと泣いている気がする。
「そんなことないよ。誰だって死にたくないよ。ごめんね。私も何かできたらいいのにね。無力だね。本当にこの世界は残酷だよ。やめてほしい。神様でも仏様でもいい。誰か空を助けてほしい。」
この世界に神様なんてものはいるのだろうか。神様がいたら空は死なないはずだ。神様なら助けてくれたっていい。あなたの世界にいる1人の人なんだから。
「ありがとう。」
その日はもう消灯時間が来て私たちは別れた。
それから数日が経った。空は昨日から自宅に戻れるようになった。そして私は人生初男子の家に訪ねることになった。空には恥ずかしいから来なくていいと言われたがやっぱりちょっとの時間でも一緒にいたい。それに空のお母さんたちにもあっていない。空の家に着くととても大きな家だった。インターホンを鳴らす。
「はい。どちら様ですか。宅急便なら置いておいてください。」
出たのは大人っぽい声が聞こえた。空のお母さんらしき人だった。とても早口で言うので私は焦りながら言った。
「す、すみません。空くんの友達の笹野百合と言います。空くんに合わせていただけないでしょうか。」
「空の友達…?本当に?まぁいいわ。空は今あなたに会えるほど暇じゃないの。帰ってくださる?」
「あの!私空くんの病気の件知ってます。」
私は少し声を貼り言うとインターホンの先では沈黙が流れていた。少しすると門が開いた。
「分かったわ。そこから入ってちょうだい。」
「お邪魔します。」
門の間から入ると大きな庭があり白いテーブルと椅子がおいてあった。周りには花がたくさん咲いていた。玄関が開き、立っていたのはインターホンの主であり空の母親であろう人が立っていた。
「すみません。無理言って。」
「そんなの別にいいのよ。私は空の母親よ。上がって。空の部屋に行く前に少しあなたと話がしたいの。」
空のお母さんは空と違い失礼だが少しそっけない人であった。
「あ、はい。」
私は空のお母さんに連れられてリビングへと行った。
「座って。」
「失礼します。あの話って…。」
「あなた何で病気のこと知ってるの。空から聞いたの。」
「あ、はい。空くんから以前お話を聞きました。」
空のお母さんは少しびっくりした様子で話を続けた。
「あらそうなの。あの子に友達なんてね。じゃああの子がもうすぐ死ぬってことも知ってるのね。」
「…はい。」
私は少し空のお母さんの言い方に腹を立ちながら話を聞いた。
「あの子ね、自分の言いたいことはしっかり言わないしどうしたいかもわからないから私たちに体調が悪いのも言わなかったのよ。だから病気だって分かった時にはもう遅くてそれからもどうしたいか全然言わないの。本当に自分勝手な子よね。」
私は机を思い切り叩いた。少し手がヒリヒリしたけどそんなこと構わず言った。
「さっきから何なんですか。自分の子供の死を軽く受け取って。空のことが嫌いなんですか。もうちょっと考えたらどうなんですか。空だって言いたいこと心に貯めてるんですよ!本当は死にたくないって!!」
空のお母さんは唖然とした顔をしていた。そりゃそうだ。今日初めてあった子供に息子とのことを口出しされる。普通はない。けどダメだ。空をこんないいようにするのは。空のお母さんは立ち上がって言った。
「あんたに何の関係があるのよ!私の家は私のルールでいいのよ。ほっときなさいよ!あんたなんて入れなかたらよかった。帰りなさいよ!」
空のお母さんは甲高い声で怒鳴った。
「お母さん…もうやめて。」
そこには空が立っていた。悲しい顔をして。
「空。寝ときなさいって言ったじゃない。部屋に戻りなさい!」
そんな言葉を無視して空は私の方に向かってきた。
「ごめん。ちょっと出かけよっか。」
「え、う、うん。」
「何言ってるの!いい加減にしなさい!自己中の親不孝な子供が!」
空はピクリと体を止め180度回った。
「あんたは何を勘違いしてるの。僕は別にここにいたいと思っていてない。病気になりたいと思ってなったわけじゃない。僕のこと全部わかって欲しいと思ってない。けど少しはわかって欲しかった。僕も悪いんだけどね。」
空の声は聞いたことのないほど低い声だった。
「行こっか。」
「うん。」
私は何故かとても清々しかった。空のお母さんが空の本当の気持ちを知ったから?違う。空が自分から気持ちを言えたからだと思う。私は空の手を握った。空は耳まで赤くなった。
「え、なに。ゆ、百合さん?」
「いいじゃん。ねぇどっか遠くに行かない?」
「うん!行きたい。」
私たちは一度私の家に戻った。
「ちょっと待ってて。ただいま。お母さん今日から何日か友達の家に泊まるから帰れなくなる。」
家に入ると同時に私は大声で伝えた。リビングからはお母さんが焦りながら歩いてきた。
「そんなの聞いてないわよ。誰と?いつまで?」
「分かんないしお母さん知らない人だから。」
私は部屋で必要な荷物を鞄に入れた。
「なに言ってるのよ。」
「母さんいいじゃん。百合も高校生だよ?」
隣の部屋からお兄ちゃんが出てきてお母さんを説得させてくれた。
「ただ危なくなったら絶対呼べよ。いいな。」
「うん。でもなんで許してくれたの?」
お兄ちゃんは鼻で笑い言った。
「だって百合最近明るくなったじゃん。彼氏だろ。この前玄関にいた。」
「うん。まぁね。ありがとうね。」
私は兄と母に言葉を交わして家を出た。
「ごめん。遅くなった。」
「いいよ。待つの嫌いじゃないし。」
笑った空を見ると少し安心した。
「ありがとう。どこ行こっか。」
空と私は駅まで進んだ。
「私お花畑に行ってみたいなぁ」
「いいねそれ。僕も行きたいなぁ。というか遠くに行きたい。」
私たちは住んでいる場所から遠くに行ける電車に乗った。電車はもう夕方だからか人はあまり乗っていなかった。
「終点まで乗ろっか。」
空はいたずらしている幼い子供のような顔をしていた。私はその姿を見て笑った。
「そうだね。2人でゆっくりしよっか。」
「うん。2人でいるのが一番好きだよ。百合と一緒にいるとあったかくなるんだ。」
「ありがとう。 」
窓から外を見ると辺りは暗くなり始めていた。いつのまにかに電車に乗っているのは私たち以外いなかった。私たちはたくさん話をした。これからどうしたいか、これまで一番楽しかったことなどいい思い出話をした。
「もうすぐ着くね。終点。」
空は窓を見ながら言った。
「そうだね。なんか楽しみだね。」
「そうだね!遠足だね。」
ついた駅は山奥の田舎だった。辺りはもう太陽が昇りかけていた。
「空気が綺麗だね。とっても。気持ち良いね。」
「うん。ちょっと歩こっか。」
私たち2人は一本道を進んだ。20分ほど歩くと開けている場所についた。そこには一面の花が咲いていた。黄色から紫。沢山の色。沢山の花。それはまるで、
「花の海だ…。」
私の口からこぼれていた。
「そうだね。とても綺麗だ。儚いくらい。」
空の目からは静かに涙がこぼれ落ちていた。それは目の前にある花よりも数倍、数十倍数百倍綺麗だった。私たちはたくさんの花に囲まれて座った。王子様とお姫様のように。
「空とずっとここに居たいな。」
私の目からも涙が出てきた。ダメだと思っても溢れた。そんな私を見て空は言った。
「ありがとう。僕も一緒にいたいな。けどね死ぬのは自分が悪いんだよ。体調が悪いのを誰にも言わなかった。今更後悔しても遅いんだけどね。今になると思うよ何度も。あの時ああすればよかった。ああ言えばよかった。バカだね。」
空は苦しいときほど笑う。今もそうだ。それを私はもう知っている。
「笑わなくて良いよ。」
「え。」
空は驚いたような顔をしている。その顔から笑顔が消えいく。
「後悔しても良い。これは綺麗事になるかもしれないけれど後悔なんて誰でもするよ。そこからどうするかなんじゃないかな。やっぱり。」
私はこんな綺麗事は大嫌いだった。けど今ならわかる。これは本当のことだ。けどこれが全てではない。
「でも良いよ。前を向かなくても。空なりに生きれば良い。ありのままの空でいい。」
空は一度頷いてからこちらを向いた。その笑顔には雲一つなかった。
「ゴホッゴホッ」
空は苦しそうに咳をした。空の手には血が付いていた。
「大丈夫⁉︎空‼︎」
空の意識がなくなった。そして私たちの旅は数時間で終わってしまった。
空が起きる頃には病院で治療を受けていた。
「大丈夫?」
「あ、百合。ごめんね。倒れちゃったんだね。」
私は空の母親と医者の話を聞いた。
“正直なところ空くんはあと一週間持つかどうかです。”
空の母親は呆然として病院を後にした。私は泣き崩れた。1人ではどうしようもなかった。
「どうした。百合。」
お兄ちゃんと花笑がなぜか病院にいた。お兄ちゃんが偶然花笑と会いたまたま2人は病院に行くところだったそうだ。花笑は皮膚科にお兄ちゃんは入院してる知人に会いに来たそうだ。2人は私の話を何も聞かずに聞いてくれた。話している間私は嗚咽まみれの声しか出せなかった。しかし2人は背中を撫でて優しく温かく見守ってくれた。
「そばにいてあげな。たくさんのありがとうとたくさんの好きを届けてあげな。」
話終わったあと花笑は真っ直ぐ私を見ていった。その目には迷いがなかった。
「ああ。言葉にして伝えてやれ。俺たちは支えてるから。」
お兄ちゃんは私の背中を叩き言った。とても優しい笑顔で。私は人に恵まれすぎている。本当に幸せものだ。
「僕あと一週間ぐらいでしょ。」
空は窓を見ながら言った。その顔はとても清々しかった。私は伝えたいことを言おうとした。「大好きだよ。」、「いつもありがとう。」、たくさんの言葉が頭に上がったしかし私の口から出たのはとても残酷な言葉だった。
「私を捨てて。私を嫌いだって言って。私をいらないって言って。」
私は泣きながら言った。できる限り冷たくて大きな声で。
空は傷ついた顔をした。そりゃそうだ。好きだった相手に嫌いだと言われたようなことだ。
「な、なんで。」
空の声は震えていた。とてもとても。私は立ち上がり部屋を出ようと思った。空は私の手を掴んだ。とても強い力で。初めて家に送ってくれた時もそうだった。たくさんの思い出が溢れた。
「なんで。捨ててよ!私を捨ててよ!いらないって言って!私空が死んだら生きてられないよ。だから今すぐ離れたい。ごめん…。」
ただのエゴだ。分かってた。けどどうしょうもなかった。花笑の思いもお兄ちゃんの思い、励ましを踏みにじってしまった。
「百合を捨てたら百合は苦しくならない?百合を幸せにできる?」
私は静かに頷いた。すると空の手は私の手から離れた。そして苦しそうに言った。
「百合はもう…もういらないよ。捨てるよ…。」
私は走って部屋を出た。走った。出来る限り遠くに。
家に帰ったのは次の日の夜だった。家に帰ると1番に兄が迎えてきた。
「お帰り。風呂入れよ。お腹も減ってるだろ。ご飯あるぞ。」
「ごめん。」
自然に口から出ていた。それを言ってしまったら止まらなかった。
「私空にひどいこと言った。ひどいこと言わせた。」
私はまた泣き始めてしまった。兄は静かに言った。
「お前はどうするべきなのか自分で考えろ。俺も誰も何も言わない。お前がすることを考えろ。」
私はお風呂に入りご飯を食べたあと部屋でずっと泣いていた。するべきことはわかっていた。けどどうしても行動にはあらわせなかった。私は空が死ぬことをいまだに受けいられなかった。空にあった時に話しかけなかったらよかった。文化祭なんてまわらなければ良かった。たくさんのたらればが出てきた。
すると携帯がとても大きな音で通知音が鳴った。何度も。通知音が鳴った数分後。階段のドタドタした音が鳴り私の部屋の扉が思いっきり開いた。そこには今にも泣きそうな母と真っ青な父。そして悔しそうな顔をした兄がいた。私は状況が把握できなかった。そして携帯を見ると黒いバックに真っ赤なとても大きな文字であることが書いてあった。
【特別世界緊急事態宣言発令 速やかに近隣の避難場所に移動せよ。】
手が震えていた。なにくんの予言は当たっていたのだ。この文字の下には地球壊滅の恐れと付け足して書いてあった。
「ゆ、百合。荷物の用意をして。できるだけ軽く出来るだけ必要なものを入れて。」
そうお母さんが言うとお父さんと一階に戻っていった。私の前にはお兄ちゃんだけ立っていた。
「大丈夫だからな。家族全員でいよう。」
震えた私をお兄ちゃんは抱きしめた。
11月最後の日のことだった。
〜後1ヶ月:12月〜
私たちの家の近くの避難所はある中学校だった。あれから2日経った。政府からはまだなんの連絡もなかった。
突如地震が起こった。それはもうこの地球はダメなのだと伝えるかのような地震だった。
私は決めた。
「お兄ちゃん。私空のとこに行ってくる。」
兄は少し考えたあと頷いた。
「けど危なくなったらすぐに戻ってこい。」
私は兄の言葉を聞くと走って中学校を出た。バスも電車も動いていないから私は出来る限りの速さで走った。1時間ほど走り続けると病院に着いた。空の部屋のドアはいつもより重く感じた。開けると静かな空間が広がっていた。
「ゆ、り?」
空の弱々しい声が聞こえた。空の体には点滴も何も付いていなかった。
私は空に近づくと言った。
「ごめんっ!本当にごめん!ごめんなさいっ。自分勝手で。あれ全部嘘だよ。やっぱり捨てないで。」
「わら、て。」
空は今にも消えそうな声で言った。もう消えてしまいそうな空の手を私は掴んだ。そして精一杯笑って言った。
「大好き。こんな気持ち空だけだよ。本当に大好きだよ。」
「あ、りがと。ご、めん、ね。」
「謝らないで。謝らないでっ。」
私は子供のように泣きじゃくった。そして1番の笑顔を空に向けた。空は私の笑顔に答えるかのように笑顔を返してくれた。その笑顔は何度も見てきた笑顔の中でもとても優しくて温かくて儚かった。
「ゆ、り。だい、すきだよ。」
「私も大好き。ありがとう。」
すると病室は大きく揺れた。とても激しい地震だった。世界の終わりを告げるような地震だった。
「ゴホッゴホッ!」
私は激しい揺れの中空を抱きしめていた。とても強い力で。離れて行って欲しくなくて。
「大丈夫だよ。大丈夫だよ。」
空はもう簡単に動かせないだろう腕を動かし抱きしめてくれた。
どれほどだっただろう。揺れがおさまった。それと同時に空の手が私の体から離れた。
分かっていた。空の命がもうほとんどないことを。
「空。ありがとう。いつも守ってくれて。空と一緒に過ごした日々は楽しかった。とっても。絶対に忘れない。待っててね。大好きだよ。」
空は静かに頷き最後の力を振り絞り言葉を発した。
「僕も。大好き。ありがとう。百合。」
空はそういうと動かなかった。けれど空の顔はとても幸せな顔をしていた。その顔には綺麗な涙が溢れていた。
「空…。ありがとう…。大好き…。」
私は静かに泣いた。一生分の涙が出たような気がした。
「空?空‼︎」
扉が勢いよく開き空の両親が入ってきた。母親は空の手を握って泣いていた。その横顔は母親の顔だった。
「ごめんなさい。いつもあなたは1人で平気だと思って。そんなことなかったのよね。ごめんなさい。私が素直になればよかった。」
私はそんな空のお母さんの肩に手をおき言った。
「もう、もう遅いですよ…。」
「そうね。私はだめね。」
「そんなことはないですよ。だってあなたは今泣いているじゃないですか。それほど空を愛してたってことですよ。」
空はもうこの世界にはいない。けどたくさんの人の心にはちゃんと空はいる。
ありがとう
大好き
ごめん
そしてさよなら。
〜後一週間〜
空が死んだ。
葬式は親族だけで空の家で行われ、埋葬も終わった。
あれから私はたくさんの人に支えてもらった。そして生活できるようになった。今でもそらを見ると空を思い出し悲しくなる。けれど空はちゃんと見守ってくれていることはわかっていた。だから前を向けた。
緊急事態宣言が出てから結構経ったがあれから何の変化はなかった。けれどある噂がたっていた。
“緊急事態宣言なくなるらしいよ”
“地球は助かるらしいよ”
そんな希望のある噂だった。私はというよりか大半の人がその噂が当たることを願っている。
「百合寒くないか。」
お兄ちゃんが毛布を持って歩いてきた。寄付のところからもらってきたのだろう。
正直のところとっても寒かった。もうすぐクリスマスが来る時期なのだから。
「ありがとう。」
毛布を受け取った瞬間だった。携帯の通知が来た。私たちはすぐに携帯を見た。そこには
【特別世界緊急事態宣言解除 特別世界緊急事態宣言解除】
そしてその下には地球壊滅危機なし。と書いてあった。周りからは歓声が上がった。泣きわめく人もいた。
「良かった。本当に良かった。」
お兄ちゃんも今にも泣きそうな顔をしていた。私も泣きそうだった。空が好きになってくれたこの命を消すことがないと分かったから。
しかしそんなに世界は甘くなかった。もう一度通知が来た。そこには恐るべき事が書かれていた。
【近日東日本大震災以上な大規模地震あり。身を守るシェルターに避難せよ。】
実は数日前シェルターがあるということも政府から連絡が来ていた。周りの歓声は消えシェルターに運ぶであろう荷物をまとめていた。その顔は恐怖でできていた。
大規模な地震、しかも東日本大震災以上の地震とはどういうことなのだろうか。私は少し寒気を覚えた。
私たちは生きることができるのだろうか。
〜1日目:1月〜
全てが終わった。12月の最後の日。地震が起きた。政府の予想通りとても大きな地震だった。
そして今私たちはシェルターの外に出た。私は息を飲んだ。声にならない悲鳴が上がった。
シェルターの周り、世界が沈んでいた海の底に。ところどころ海の上に出ているが道路などは海の底だった。
「生きた。生きたんだ。私たちは。」
私はいつのまにかそんなことを口に出していた。
「そ、そうだ!俺たちは生きたんだ。町はこんなになっちまったが俺たちは生きた!新しい街を作ろうぜ!」
私の言葉を聞いたおじさんはそう叫んだ。そして周りは賛成の声を上げていた。
「これから頑張って。僕は空で見とくね。」
私はハッとして後ろを向いた。そこには誰もおらずただただ綺麗な空が広がっていた。
「頑張るね。待ってて。」
私はそういい、一歩前に出た。空を見ながら。
明日世界が終わるなら家族でもなくあの人をとってしまうかもしれない。本当の気持ちを絶対に伝える。
明日世界が終わるなら私は君の最後を見届ける。