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第7話 痛い子莉々ちゃん

 特に何のイベントも起こる事なく、体育館へ移動し入学式が終了した。

 その間、私は誰とも会話する事なく過ごしていた。


 というのも、周りを観察していると、どうやら同じ学校出身者が一人もクラスに存在しないのは私だけだったようで、既にグループが出来上がってしまっていた。

 グループに混じれていないのは、私と、私の後ろの田名網さんだけであり、その田名網さんも、周りからあまり好かれていないようだった。

 結果としては、田名網さんの近くにいる私に話しかけてくるような人もいなかったというのが現実だった。


 何とも幸先悪い私の高校生活デビューである。


 それと、クラス内での会話に耳を傾けててわかった事なのだけれど、どうやら私の事……もといエンジェルプリンセスの事は色々と話題になっているようだった。

 クラス内にも目撃者は数人程度いたようで、結論としては『町を守ってくれた事には感謝しているけれど、正直あのパワーにはドン引きしている』という感じで意見がまとまっていた。


 いや、でもアレってどうすればよかったの?私、普通に戦っただけだし!?っていうかアレ『戦った』って分類でいいの!?


 まぁともかく、そんな感じで私の高校生活一日目は終了しようとしていた。


 入学式が終わって教室に戻ってからは、翌日からの諸連絡がいくつかあった程度で、クラス内での自己紹介等は翌日行われるようだった。

 私が本気を出さなくてはならないのは、どうやら明日に持ち越しらしい。

 コレをミスってしまうと、今後の高校生活が灰色の生活になってしまうので、絶対に失敗できない!


 そんな事を考え気を引き締め、人数がまばらになりつつある教室から私も立ち去ろうと席を立つ。


「……ん?」


 ふと、背中に違和感を感じ声が漏れる。

 後ろから制服の裾をクイックイッと引っ張られるような、そんな感覚。


 私はそのままの体勢で、頭だけを後ろに向け、違和感の正体を確認する。

 そこには席に座ったままの体勢で、私の制服の裾を引っ張る田名網さんの姿があった。


「えっと……どうしたの?田名網さん」


 無表情のまま私の制服の裾を引っ張り続ける田名網さんは、それはそれで小動物みたいで可愛いんだけど、ずっと続けられても困るので、とりあえず声をかけてみる。


「……私の事は『莉々』でいいわ」


 え?いきなり名前呼びしろ、と?

 まぁ別に構わないけど、その一言だけで言葉が止まったから、とりあえず「呼べ」って事なのかな?


「ええと……どうしたの?莉々さん」


「……『莉々』」


 え?呼び捨てにしろって事?対人スキル低い私に、随分と難易度高い事を要求してくるなぁこの子……


「……どうしたの?莉々」


 若干ぎこちなくはなったけれど、呼ばないと話が進まなさそうだったので、ちょっと頑張ってみた。

 呼ばれた当人は、凄く満足そうな表情になってるから大丈夫だったのだろう。


「話しがあるの……この後時間とれる?」


 この後?まぁ引っ越したばかりのアパートに帰るくらいしか用事はないかな?


 いちおう、アルバイトをしようと思って、色々と働く場所の目星はつけているけれど、面接の予定は全て今日は入っていない。

 ……いや、先走って、今日高校デビューしてたくさん友達作るつもりでいたから、学校終わってからは新しい友達と親睦を深めるために遊びまくるつもりで、スケジュールは完全空白にしていたというか……


 痛い!痛いよ私!!高校入ったらその日のうちに、たくさん友達できると思っていた数日前の私を殴り飛ばしてやりたい!


「別にこの後は予定ないけど……話って何?」


 数日前の私から受けたダメージを回復させつつ、できるだけ冷静に返答する。


「他の人にはあまり聞かせたくないの。ここじゃ話せないから少し場所を移しましょう」


 そう言って莉々ちゃんは席から立ち上がると、私の手を取って歩き出す。


 え?何?何?『他の人には聞かせたくない』とか『場所を移す』とか。

 もしかして私、愛の告白されるの!?でも莉々ちゃんは同性だし、今日初めて会っただけだし、会話だって一言二言しただけだし……

 まぁでも、莉々ちゃんは可愛いよ。一緒に歩いてみて、予想よりも背が小さくて小動物みたいな感じで愛らしいし、髪もすごいサラサラでキレイだし、顔だって整った顔立ちをしてる……ちょっと幼い感じだけど、そこがまた良い感じ……って、違う違う!!?

 いくら莉々ちゃんが可愛くても、私にそういう趣味はない!


 愛に時間は関係ないとか、可愛ければ同性でも問題ないとか、そういう人の趣味にケチをつけるつもりは毛頭ないけれど、少なくとも私当人は遠慮したい事柄だ。


「アナタ、あのイカレ女が嫌いなのよね?」


「……え?何?」


 歩きながら、いきなり声をかけられて、思わず聞き返す。

 歩いてきた方角が、昇降口とは真逆の方角だったせいか、いつの間にか周りには私達以外まったく人影がなくなっていた。


「朝の話よ。化物の方を応援してるって言ってたわよね?」


 朝の話?そういえば『イカレ女が嫌い』とかは言ったかどうか覚えてないけど、そんな話をしてたような……

 もしや!?私の正体が、そのイカレ女だって疑われてる!?

 どういう事!?どうして気付かれたの!?私、そんな素振り一切してなかったハズなのに!?

 まずい!どうにか誤魔化さないと『私=エンジェルプリンセス』ってバレたらドン引きされる!ついでに、そんな噂話なんてばら撒かれたら、私の高校生活がお先真っ暗になってしまうじゃないか!?


「うん!言った言った!!ホント、あんなイカレた女なんて好きになんてなれないよ!私は断然、やられちゃったけど化物派だね!」


 どうだ!これくらい言っておけば、あの変身ヒロインの正体が私だなんて思われないだろう!


 ……って、何で莉々ちゃん満面の笑顔になってるの!?

 そのリアクションの真意がわからないよ!バレちゃったの?それともバレてないの?


「えっと……実はね、あの化物を放ったの……私なの」


 …………はぁ?


 え?莉々ちゃん何言っちゃってるの?正気?頭大丈夫なの?


「その表情……私が言った事を疑ってるわね?」


 何を当たり前の事を言っているんだろうこの子。


「そりゃあ急にそんな事言われても理解が追いつかないよ……えっと、つまり莉々ちゃんが悪の組織のボスか何かだって事?」


「悪の組織?まぁ世界征服も視野に入れて動いてるから、あながち間違った名称じゃないかもしれないわね……あと、私の事は呼び捨てで……まぁその辺はもういいか、好きに呼んでちょうだい」


 世界征服とか……また随分と大きい規模できたなぁ……えっと……コレはどう反応してあげればいいのかな?その設定にノッてあげた方がいいのかな?


「む……やっぱりまだ疑ってるわね?」


 疑っているというか何と言うか……ガチの中二病患者さんにどう接すればいいのか悩んでるというか……ただでさえ対人スキル低い私には荷が重すぎる出来事に、脳がパンクしそうになっているだけなんだけどね。


「わかったわ!だったら証拠を見せてあげる。今日の15時に今度は東町のショッピングモールに昨日と同型の機械人形を放ってあげるわ!指定通りの時間と場所に本当に機械人形が現れれば信用してもらえるわよね」


 え?15時に……どこ!?私まだ、この近辺の地理を把握しきれてないんだけど!?


「とりあえず話の続きは信用してもらえてからにするわ。いい?15時に東町のショッピングモールよ!帰ってすぐに準備するから、本当に機械人形が現れたら私の事信用しなさいよ!」


 莉々ちゃんは言いたい事だけ言って、そのままこの場から走り去っていく。

 私はどうしていいのかわからずに、一人その場で立ち尽くしたままでいた。


 えっと……とりあえず、莉々ちゃんが周りの人から避けられてる理由が何となくわかったかもしれない。


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