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第5話 初登校

 あまりよく眠れなかった。

 寝る場所が変わったからとか、枕が変わったからとか、そんな理由じゃない事はわかっている。

 だいいち、枕は昔から愛用しているマイ枕をちゃんと持参している。


 無言のまま右手首に視線を落とす。

 腕時計に偽装された変身アイテムに『AM6:04:21:‐‐』という文字が表示されていた。


 昨日お兄さんに、この取れなくなった変身アイテムについてクレームを入れたところ「腕時計として身に着けていると周りの連中に認識されれば問題なかろう?」とか言って、数分で腕時計のように偽装してくれた。

 ……いや、コレはもう『偽装』とかそういうレベルじゃないかな?何と言うか『変身アイテムに時計の機能を追加した』と表現した方がいいかもしれない。

 『腕時計っぽく偽装した変身アイテム』ではなくて、『腕時計に偽装した変身アイテム』だ。


 本当におかしいでしょアノお兄さん!?何でカップ麺が出来上がるのを待つ程度の時間で、ゼロコンマ秒単位ですらズレのない精巧なデジタル時計を、変身アイテムの機能に加えてるの?っていうか、ストップウォッチでもないんだから、秒以下の単位なんて付ける必要ないでしょ?実際、腕時計凝視してるけど秒以下の数字は見えないし!誰もそこまでは求めてないよ!?

 ……まぁ、変身すれば、驚異的な動体視力で何故か認識できちゃうんで、あるならあるで便利だからいいんだけど。


 ともかく!今日から私が通う事になる学校へは、ここからだと徒歩15分程度で着くため、今から着替えてゆっくり朝食をとっても十分に早い時間についてしまう。

 引っ越してきたばかりで、この町の地理は若干疎いが、少なくとも学校までの道のりくらいは何度か往復してしっかりと把握している。


 とはいえ、今から寝なおすと間違いなく遅刻する自信があるし、だからといって、暇をつぶすような物も特にはない。


 そんなわけで、少し早い……いや、けっこう早いかもしれないが、学校へとやってきた。

 案の定というか何というか、人の気配はほとんどない。まぁ学校自体は開いているんだから、誰かしらはいるのかもしれないけれど、少なくとも同級生と思われる人は誰もいなかった。


 もうコレ私、高校デビューが待ちきれずに浮かれて早く来すぎちゃってるちょっと痛い子みたいじゃない?

 ……まぁ、あながち間違いとも言い切れないところもあるんだけど。


 どうしよう?いったん帰って、他の同級生が来るぐらいの時間帯に出直してこようかな?

 うん、そんな事考えといて何だけど、アパートから学校まで往復30分だから、アパート帰ったところで、そのままとんぼ返りするハメになるだろうから、ソレはないかな。

 私が元々住んでた田舎じゃないんだから、ただ無意味に歩くとかやりたくない。


 何はともあれ、もう学校来ちゃったんだし、校舎内に入れるようにもなってるんだから、そのまま教室で時間を潰せばいいや。


 私の、学校の教室のイメージというのは、ちょっとした空間に教壇と自分の席がポツンと置いてあるっていうのしか頭に浮かばないけど、テレビで見るみたいに、教室いっぱいに机が所狭しと並んでいる、実際の風景を堪能しているのもアリかもしれない。


 そんな事を考えて頭を切り替え、クラス分けの紙が張り出されている場所へと向かう。


「すご……5クラスもある」


 未知の領域を目の当たりにして、思わず驚きの声を上げてしまう。


 っていうか……え?もしかして、この大量の名前の中から、どこに書かれているかもわからない私の名前探さなくちゃいけないの?何その拷問?

 でも見つけないと、どこの教室に行っていいのかもわからないから、必死になって探すしかないんだけど……


「とりあえず、まずは1組からみてみよう……」


 軽く気合を入れつつ、紙とにらめっこを開始する。


 1枚目を見終わり、2枚目を見終わったところで、ふと気が付く。


「……もしかして、この名前の並び……50音順に並んでる?」


 盲点だった!!

 そりゃあそうだよね。

 1クラス40人の計200人の名前がランダムに並んでたら、皆が登校してきた時、ここで大渋滞が発生しちゃうもんね。

 うん、今まで同級生皆無でクラスメンバーといえば私一人だった弊害が、こんな場所で発生するとは思わなかった。

 そうだよね!普通は50音順で並ぶよね!気が付けば当たり前の事なのに、それに気が付かなった自分が恥ずかしい。


 そして、ソレを踏まえたうえで見た3枚目の紙で、あっさりと私の名前を発見する。


「1年3組……ね」


 私の名前は、1年3組の紙に小さく書かれていた。


 とりあえず、わかったのならさっさと移動しよう。

 4月とはいえ、朝はまだ寒い。ただでさえ名前探しに時間かけていたため、私の体は冷え切ってしまっているのだ。

 教室内が温かいとは限らないが、少なくとも外にいるよりはマシだろう。


 そんな事を考えながら、急ぎ教室へと向かう。

 まだ誰も来ていないだろうと思い、何も考えずに勢いよく教室の扉を開ける。


「あ……れ?」


 思わず変な声が出た。

 というのも、私よりもさらに前に来て、教室の真ん中のあたりの席に座っている子がいたのだ。

 小声だったとはいえ、私が変な声を出したにも関わらず、まったく気にも留めずに、その子は微動だにせず、ただまっすぐ前を見て座っていた。


 何だろうこの子?変わってる子なのかな?

 友達がいた経験が皆無な私には、この子が変わっている子なのか普通なのか判断する知識がまったくもって存在していない。

 しかも席順を確認してみると、私の席はこの子の前だ。


 うわぁ……スゴイ気まずい……


 いや、でもよく考えるんだ私!

 マンガとかアニメとかだと、こうやって誰よりも早くに来ている子っていうのは、大抵が委員長気質でクラスの中心的な立ち位置になったりしていて、面倒見がよかったりもする人だ。

 私の、友達たくさん作る計画を実現するために、今のうちに仲良くなっておいて方が得なのかもしれない。


「おはよう!私一番かと思ったのに来るの早いね?」


 机に座りつつ、意を決して話しかけてみる。


「……そう?」


 リアクション薄っ!!?

 いや、そりゃあそうか!だって私、名乗ってないもん!名前も知らないような不審者にいきなり話しかけられたら、そりゃあ警戒もするよね!


「えっと……私、田島奈々っていうの。よろしくね!」


 そんなわけで早速自己紹介してみる。


「……田名網莉々」


 うん、返答は返ってきた……返ってきたんだけど、やっぱり反応薄いよ……


 どうしよう……私さっそくくじけそうになってるよ……


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