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第4話 敵の目的

 変身を解いて元居た場所に戻るも、そこにお兄さんはいなかった。

 いないのなら仕方ない。もうこのまま帰ろう、と思っていたタイミングで、腕時計モドキから「近くにある狭い路地にいる」と通信が入ったので、渋々とそちらの方へと向かう。


 その誰もいない狭い路地には、壁に背をもたれかけながら腕組をしてタバコをくわえながら虚空を見つめるようにして立つお兄さんがいた。


 あ、コレ完全に世界に入っちゃってるやつだ。


「あ、お疲れっした~」


 君主危うきに近づかず。そのまま素通りしていこうと、お兄さんの前を横切っていく。


「ちょっと待て。どこに行こうというのだ?」


 っち!やっぱり止められたか。

 あんまりこれ以上関わりを深めたくないんだけどなぁ……


「キミには我々の組織について説明しておこうかと思って、こうして人気のない場所まで呼んだのだ。何も聞かないまま帰すわけにはいかないな」


 え?今『我々』とか言った!?こんなのがまだ数人いるの?


「あの……あんまり聞きたくはないんですけど……というか、話聞くだけならさっきまでの場所でよかったんじゃないんですか?」


「我々の組織は秘密がモットーだ。あんな場所で話し込んでいては、誰に聞かれるかわからん」


 あ、やっぱりコレ、これ以上関わっちゃいけないやつだ。


「じゃあ、この変身アイテム返しますね。これで私も無関係な人間扱いになると思うので帰りますね」


 そう言いつつ、私は右手首に装着されている腕時計モドキを外そうと……


「ん?アレ?取れない!?コレどうやって外す……」


「残念ながら、ソレを装着して一度でも変身すれば、外れないようにしてあるのだ」


 何ソレ!!?何で変身アイテムが呪いのアイテムになってるの!?

 え!?本気なのコレ?教会行ってお金払ってもダメなやつ?


「破壊しようとしても無駄だぞ。ソレ自体がエンジェルプリンセスと同等の強度を誇ってるうえに、一度変身する事で、使用者の皮膚に侵食して体と一体化するように設定されている。手首を切断しない限り、エンジェルプリンセスの使命からは逃れられない定めだ」


 悪質!!!?


「他に誰もいなかったから、今回限り私が変身した、って感じじゃなかったんですか!?」


「ん?『今回限り頼む』なんて、いつ誰が言った?」


 うぐっ!?言われてみれば確かにそうかもしれない……そうかもしれないけど、何だろう?詐欺の常套手段に引っかかったような気分なんだけど……


「第一、一度でも変身したのなら立派な関係者だ。組織の秘密の一端に触れた人間をおいそれと放置するわけないだろう?」


 うう……秘密組織の言い分としてはごもっともだ。


「と、言っても別にキミを組織に監禁しようとかそういった事はない。キミは普通に生活していてかまわない。ただ、再び奴等が化物を放ってきた際に戦ってもらえればそれだけでいい」


 まぁ……それくらいなら普通の変身ヒロイン物アニメみたいであり、かな?


「あの……そもそもで『奴等』って何なんです?」


 とりあえず変身して戦う身としては、ソレだけは聞いておきたい。


「奴等は我々と敵対している組織だ。人間が死に直面した時発する『生きたい!』と思う感情エネルギーが、何にでも転用可能なエネルギーになる事を発見し、それを効率よく回収するために、先程のような化物を放っている連中だ」


 おお!何か意味不明なよくわからないエネルギーの回収とか、ますます持って変身ヒロイン物アニメっぽい流れだ。

 いや、でもちょっと待って?そんな危険な連中を何で今まで放置してたの?


「そういう連中は警察とか国家権力で何とかならなかったんですか?」


「上の方の連中は、奴等とは利権でズブズブな関係だ。期待などできん。仮にそういった事を抜きにしても、奴等の科学力は凄まじい。個々人で自動小銃持ってどうにかできるような相手ではない」


 あのぉ……そんなのを相手に、生身のワンパンでどうにかしちゃった私って何なんですか?


「個々人じゃなくて何かしらの兵器投入すれば……?」


「人が持てるサイズの兵器など、奴等には効果は期待できん。だからといって人間と同サイズの化物一体に対して、街中を絨毯爆撃したり、市内で戦車が砲弾ぶっ放したりできると思うか?」


 あ、そっちの方が被害デカくなりますね。


「で?その化物は何なんですか?人っぽくはなかったですけど、思考能力はあったように見えたんですけど?」


 人っぽい感じはしなかったけれど、仮にもし人だったら、私は立派な殺人犯になってしまう……正当防衛って事にならないかな?


「あの化物は奴等が作り出した、高性能AIを搭載したサイボーグのようなものだ。人ではなく物なので、キミが良心をいためる必要はない」


 あれ?考えてる事バレてた?


「基本的に、人を殺してしまってはエネルギー回収ができないので殺人思考は入力はされてないハズだ。ただ、殺さない程度には危害を加えてくる厄介な殺戮兵器があの化物の正体だ」


 ちょっと待って……殺しをしない殺戮兵器って何!?


「ずいぶんと人道的な殺戮兵器もあったものですね……」


「町を破壊し、人々の営みを滅茶苦茶にする化物のどこが人道的だと言うのだ?」


 ダメだこのお兄さん、皮肉が通じてない。

 理系に特化しすぎて文系がダメなのか、ただ単にそういう性格なのか……まぁどっちでもいいか。


「とりあえずは状況は何となくわかりました。私は、またあの化物が出てきたら変身して戦えばいいんですよね?……ちなみに、次回までに準備しておく事とかやっておいた方がいい事とかって何かありますか?」


 今日は無駄に疲れたんで、もう帰って休みたい気分を優先させて、会話を終わらせる流れに持って行く事にする。


「そうだな……では一つだけ」


 あるのかよ!!?一言「何もない」で会話終わらせようよ!


「明日までには髪をピンク色に染めておくのだ」


 は?何を言ってるのこの人?


「それに……何の意味が……あるんですか?」


 いや、わかる……聞かなくても答えはわかる気がする……でも、もしかしたら私が想像している答えとは違った返答が……


「変身ヒロイン物の主人公といったらピンク髪が王道だろう?」


「ああ……やっぱ馬鹿なんですね」


 予想と寸分たがわぬ返答に、本音が漏れてしまうのだった。


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